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19-21 王国の武力組織 ~王宮戦士団39~ 加護

「むぅっ!? ぬかった!?」

 連戦に継ぐ連戦で、さすがの猿丸も集中力を欠いてしまったようです。ロズワルドの窮地を阻止できませんでした。

 今からでは自爆は間に合いません。安全装置を外すのに手こずってしまいます。ならば、先ほど閃いた巨人対策を試すべき?

「グアアアアアア!? やめろ! やめてくれオケア!!」

 もはや迷ってなどいられません。水筒を両手でしっかり掴むと、猿丸は巨人に向かって飛び上がりました。狙うは最初の奇襲で、細身の刃を突き立てた急所、うなじです。

 巨人のうなじには、仕込み杖の折れた刃が深く突き刺さっており、折れた刃は数センチほど露出しています。そこに猿丸は、ダンクシュートを決めるように水筒を叩きつけました。


「間に…!! 合え…!!」


 動物の胃袋で作った水筒は、僅かに露出している刃に突き刺さり、中から聖水が漏れ出します。聖水は傷口から浸透していき、巨人を体内から解かしていく……。それが猿丸の策略でした。

 ですが……

「大丈夫♪ 大丈夫だド♪ 痛いのは今だけ♪ "解放"されればすぐに楽になるド♪」

 バカな!? 効かない……だと?

 生命反応のある肌表面には効かなくとも、傷口になら効くはず。猿丸のその発想は、決して間違いではありません。実際、聖水は折れた刃を伝って徐々に体内へと浸透していたのです。ですが……、ですが、浸透速度は期待したほど早くはありませんでした。

 万策尽きた猿丸にはもう、彼の最後を見届けるしか、記憶に刻むしかありません。


 ロズワルドよ…、未来ある若者よ…、勇気ある者よ…、すまぬ。すまぬ。すまぬ。


 巨人は更に握力を上げていきます。やがてロズワルドの肉体は耐えきれなくなり、血を噴き出しながら破裂します。

 ロズワルドは無残な屍体と化し、ゴースト系モンスターとなりはててしまう………あれ?

 破裂……してない?

 間違いなく巨人は全力を出していました。握り潰す気満々でした。人の身で耐えられる訳がないのです。なのにロズワルドは潰れません。

「ナンデだ? ナンデ潰れないンだ?」

 巨人はもちろん、猿丸も困惑していました。一体……何が起きている?

「ク……クク、ククク……」

 ロズワルドは笑っていました。痛みに悶え苦しみながらも、彼はニヤリと笑っていました。

「ワリィなオケア。ワリィんだが、お前の遊びには付き合えねぇ。実はこれからデートでな、男の友情も大切だけどよ、かわいいカノジョを待たせる訳にゃいかねぇんだ」

「バ、バ、バカにすんなぁぁ!!」

 怒り狂った巨人は、ロズワルドを高々と持ち上げると、地面に向けて叩きつけます。石畳が砕け、その肉体は跳ね飛んでもんどりを打ち、"大自由広場"を転がっていきました。

「ロズワルド!!」

 猿丸は急いで駆け寄ります。ロズワルドの身体はボロボロでした。ですが、致命傷は一つも見あたりません。先ほどの叩きつけなら、体中の骨という骨がバラバラになるはずだと言うのに……

「ああ…くそ……痛ってぇな……オレじゃなかったら、とっくに死んでるぜ……。あ……猿丸の旦那……チィ〜ッス」

「お主……なんで生きとるの?」

「ひっでぇなあ……喜んでくれねぇんですかい?」

「喜びたいのは山々なんじゃが、正直ドン引きしとるわい」

「別にオレ、不死身って訳じゃねぇんですよ。ただね、サフランがオレを待ってるんです。オレの助けを待ってるんです。死ぬ訳にはいかんでしょ」

「えええぇ?」

 心境は猿丸にも理解出来ます。が、今現実で起きている事は、到底理解不能でした。何故こうもあっさりと、不可能が可能になってしまうのでしょうか?


「ウグ、グアァ、グアアアアアァ!!!」

 突然巨人が、うなじを押さえながら苦しみ始めました。ようやく聖水が効きだしたようです。幸い、先ほどロズワルドを投げつけてくれたおかげで、巨人とは20メートル程距離が離れています。今なら逃げても追ってこないでしょう。

「よし、ロズワルド、撤退するぞ」

「そりゃ出来ねぇ。出来ねぇよ旦那」

「戦略的撤退じゃ。別に恥ではないし、巨人も放置でかまわん。もうじき聖水が体中に回るでな」

「そうはいかねぇ。そうはいかねぇよ、旦那」

「何がいかんのじゃ」

「理由は二つだ。まず、この戦いを見守ってる奴らがいる。あいつらの前で、はっきり目に見える形で勝利しないと、次の戦いに響くんだよ」

「ふむ、戦意高揚という奴か。で、もうひとつは?」

「オレのわがままなんだが、アイツにとどめを刺してやりたい。楽にしてやりたいんだよ」

「武士の情けと言うやつか。………かまわぬが、どうやってとどめを刺す?」

「大丈夫。オレがやるさ。で、悪いんだけど旦那、起こしてくれない?」

 猿丸の手を借りて、ようやくロズワルドは立ち上がりました。1人では立てぬほどボロボロなのに、一体どうやって巨人にとどめを刺すというのでしょうか?

 続いてロズワルドは拳を固め、高々とかざしました。一体何をしようと言うのでしょうか?


 ◆


「合図だ!」

「合図っす!」

「合図でござる!!」

 冒険者通りの屋上から見守っていた下忍三兄弟が、冒険者達に伝えます。

「野郎共、準備はいいか!! 『いっせ〜の〜』で始めるぞ〜〜〜〜〜!!!!」

「おお〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 本当にこんな事が役に立つのでしょうか? 冒険者達もグスタフも、誰もが半信半疑でした。

 しかし、自ら死地に向かった男の頼みです。やるからには全力でやらねば、申し訳が立ちません。

 そしていよいよ、冒険者のリーダー格が号令します。

「いっせ〜の〜!!」

 全員が。その場にいる全員が、一斉に声を張り上げました。


 ◆


「ろずわるどがんばえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 遠くから何か聞こえました。

「ろずわるどふぁいとぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 どうやらかけ声のようです。

「始まった! 始まったよ!!」

 そう言うと、おかみさんは宿屋を飛び出します。カワミドリは慌てて追い掛けますと、通りから声がする方向を見つめていました。

「あんた! ミドリちゃん! それに皆さん! アタシ達も声を届けるよ!! いいかい!!」

 気がつけば通りには、宿屋や酒場の従業員だけでなく、ご近所さんが集まっていました。

「いっせ~の~!!」

 冒険者達に負けじと、誰もが一斉に声を張り上げました。


 ◆


「ろずわるどがんばえ~~~~~~~~~~!!」

「ろずわるどふぁいとぉ~~~~~~~~~!!」

 応援? 声援? 一体何事じゃ?

 事前に打ち合わせがあったことを知らない猿丸は、突然の声に困惑するばかりでした。しかしここから更に困惑する事態が始まります。

「来た! キタ、キタ、キタ!! 久しぶりに来たぜ! この感覚!!」

 ロズワルドの身体が輝き始めたかと思うと、体力が戻ったのか猿丸から離れて1人で立ちます。ロズワルドだけではありません。猿丸の身体もボンヤリと輝き始めていました。それと同時に、どんどん体の痛みが和らいでいくのです。

「なんじゃ? これは……回復か?」

 ロズワルドには更に異常なことが起きていました。投げ捨てられた際、明後日の方向へと跳ね飛んでいったロングソードが、超スピードで戻って来て、空高く掲げた右手にスポッと収まったのです。何それカッコイイ!

 ロズワルドの身体は完全回復し、余剰パワーが刃へと集まっていきます。やがてロズワルドのロングソードは、光る剣へと変質しておりました。

「もしや、これは加護か!? 神の加護が応援を力に変えておるのか!? お主一体、どんな神を信仰しとるんじゃ!?」

「はははっ。まあ、いいじゃないスか。話は後っすよ。……ひとまず、終わらせてきます」

「……行ってこい」


 ◆


 巨人はうなじの激しい痛みに、今ものたうち回っていました。

 何故痛いダ? 何故苦しいダ? 何故悲しいダ?

 全てかラ解放さレたはずなノに、ナ故? 何ゼ? ナゼ?


「オケアノス十三世! …本当に済まなかった」

 だ、ダレ? オラを呼ぶのはダレ?

「お前が一番辛かった時、側にいてやれなくて済まなかった」

 ロジィ…なんデ……生きテるノ?

「お前の近くにいたのに、気付いてやれなくて済まなかった」

 ウるさい! うるさイ! うるサい! うルさい!

「お前と一緒に、地獄へ堕ちてやれなくて済まなかった」

 おまエなんカ! もうトモダチじゃないド! オまえなンか! 消エちゃエ!


 巨人は近寄る男を右の拳で殴りかかりました。男はハラリと避け、途端に右腕の感覚が無くなりました。

 巨人は左の拳を叩きつけます。男がクルリと回ったかと思うと、今度は左腕の感覚まで無くなりました。

 巨人は踏みつぶそうと足踏みします。すると男は目の前に跳び上がり、気がつくと巨人は身体の感覚を失い、地面に横たわっていました。

 巨人は何が起きたのか知ろうと、あちこちを見渡します。すると右腕が、左腕が側に落ちていて、腕と首のない巨大な身体が像のように立っていました。

 あれは一体何だろう? そんな疑問を抱くよりも前に、巨人を強烈な眠気が襲います。

 まぶたがどんどん重くなり、開けていられません。同時に誰かの気配を感じるようになりました。

 とても優しくて、朗らかで、愛おしくて、大切な大切な人の気配でした。

 巨人はやっと気付きます。君はずっと側にいたのです。君はずっと寄り添っていたのです。君はずっと見守ってくれていたのです。

 君は… 君の名は…… ベラ……ド……

「消え去るがよい、馬の骨っ!! 他のおなごなんぞに渡してなるものか! オケア…そなたは永遠にわらわのものぞ!」

 突然割り込んできたその声は、大切な君の気配を吹き飛ばし、巨人に残った大切な記憶を改竄していきます。

 邪悪な笑顔を取り戻した巨人は、最後に一言つぶやき、事切れるのでした。


「じょオうサま……バんザイ……」



「チクショウ… チクショウ… チクショウ…」

 ロズワルドは友人の成れの果てを前に、涙が止まりませんでした。ですが、このままではいけません。勇者として返り咲いてしまった以上、責務を果たさねばならないのです。今"ルリルリ"の人々に必要なのは、友達を殺した憐れな男ではなく、怪物を退治した偉大な英雄なのですから。

 ロズワルドは立ち上がると、頭上に高々と剣を掲げ、勝利を宣言します。その途端、割れんばかりの歓声が"大自由通り"のあちこちから響きました。

「慣れたもんじゃの。勇者殿」

 気がつけば、猿丸が隣に立っていました。

 ロズワルドは剣を掲げたまま、左腕で涙を拭います。

「オレが……泣き虫だって事は、みんなには内緒でお願いしますよ。勇者の沽券に関わっちまいますからね」

「そうかのう? 逆に女性ファンが大勢できそうじゃが」

「勘弁してくださいよ。もう女にゃこりごりなんで」

「ほう? ……して、カワミドリには謝ったのか?」

「もちろんです。死ぬかもしれないと思って、心残りが無いよう、先に謝ってきましたよ」

「そうか。ならいい。お前を殺さずに済んでよかったわい」

「ぶ、物騒なことおっしゃいますねっ」

「あったり前じゃ! ワシと違ってな、妻も娘も息子もな、カワミドリに負けずとも劣らない美人揃いよ」

「え…息子さんも?」

「ワシを侮辱することは構わん。じゃがな、カワミドリを侮辱すると言う事は、我が家の女達を侮辱するのと同義じゃ! ワシの命よりも大事な宝を愚弄するとあらば、勇者だろうと何だろうと、殺すしか無かろうて」

「いや、その、マジですんませんでしたっ!!!!」

「じゃが、もう謝ったんじゃろ? 終わった事じゃ。全て水に流すよ。これからは余計な敵を作らないよう、言葉には気をつけてくれ」

「はい! 心に留め置きます! ……じゃ、わだかまりもなくなったようですし凱旋と洒落込みましょうぜ、猿丸の旦那♪」

「凱旋……なぁ。どうにもこの手の光眩しい舞台は苦手でな。裏方に回っちゃ駄目かの?」

「そう言わず、付き合ってくださいよ。希望の光はいくらあっても足りないんですから。オケアの死を無駄にしないためにも、是非」

「……分かった。今は生き残るために力を合わせないとな」

「ふむ。『力を合わせなければ、生き残れない』…。ああ、いいっすね。キャッチフレーズにピッタリだ。是非使わせてくださいよ」

「きゃっちふれ……なんじゃそれは」

「うたい文句……というか、今の"ルリルリ"に必要なスローガンみたいなもんですかね。合言葉とも言えます」

「よう分からん。勝手に使えばいい。ワシにはどうでもいいことよ。それよりも聞きたい事がある」

「なんスか?」

「お主は誰を信仰しとるんじゃ」

「ああ、それっすか」

「ただの興味本位じゃが、誰かの応援で強くなる加護なぞ、聞いたこともないでな」

「ディケーですよ、オレが信仰するのは」

「ディケー? 済まぬ。どこかで聞いたような名前じゃが、勉強不足で思い出せぬ」

「一応女神なんですがね、ぶっちゃけまだガキなんで、可愛いは可愛いんですが、美貌だの色気だのはちょっと足りない感じですわ」

「まるで直接会ったかのように語るのぅ」

「ええ、それが、会っちまったんですいお。オレとミカゲルの2人で」

「……それで、一体何を司る女神なんじゃ?」

「へへっ、笑わないでくださいよ」

 ロズワルドは照れ臭そうに笑いながら、話を続けます。

「………正義っす」

「は? 正義?」

「そうっすよ。ディケーは…。ディケーの奴は、よりによって正義を司ってやがるんです」


 死地より生還した2人は"冒険者通り"へと辿り着き、人々から盛大な拍手で迎えられます。しかし2人は、最初の戦いで勝利したに過ぎません。"ルリルリ"全域を巻き込んだ本当の戦いは、ここから始まるのです。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 というわけで、これにて対巨人戦エピソード終了です!

 やりました! 寝落ちすることなく一晩で書ききりました! いえ〜〜〜〜い!!

 気がつけば夜中の3時を過ぎていて、メッチャ眠いです! これ絶対明日の仕事に響きまますね!

 区切りもよいですし、今宵の執筆はここまでとさせていただきます。

 それでは、おやすみなさい。

                              大黒雄斗次郎

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