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19-17 王国の武力組織 ~王宮戦士団36~ 引導

 雪ノ女王? 解放? 脱獄? 殺戮? 居場所? 家族? 幸せ?

 そして何より「もう死んでいる」じゃと? 一体、どういう意味じゃ?


 巨人の背後に隠れ、二人の会話を聞いていた猿丸は、困惑しました。

 死闘を繰り広げている間、猿丸は確かに巨人の心音を聞いています。人間に比べ回数こそ少ないものの、血液を体中に送り出すためのポンプは、定期的に動いていたのです。今だって………。そう思い猿丸は聞き耳を立てます。

 間違いありません。巨人の心臓は動いています。ですが、あんなに激しかった鼓動は、不定期で弱々しく、今にも止まりそうでした。

 これはもしかして、危篤状態では? しかし巨人は、何事も無いようにロズワルドと会話を続けています。

 危篤だとしても、心臓はまだ動いています。それは生きている証のはずです。にもかかわらず死んでいるとは、どういうことでしょう?

 心が死んでる、目が死んでる等の比喩表現ではなく、本当に死んでいるとするなら……。

 猿丸は一つだけ思い当たりました。脳死です。

 脳だけ先に死に、身体はまだ生きている。そんな状態を言うと、昔何処かで聞きました。

 仮に脳死状態だったとしましょう。にもかかわらず、何故巨人は動けるのでしょう?

 答えは一つしか思いつきません。

 ゴースト系、もしくは死霊系モンスターです。


 ゴーストと言えば、実体を持たない幽霊を連想しがちですが、シーツ、人形、ガイコツ、ミイラ、腐乱屍体などに憑依する事で、実体化する例もあるようです。

 なるほど。人形や屍体で良いのなら、脳死した巨人が憑依対象になってもおかしくはありません。

 それなら、急所であるはずのうなじへの一撃が、まるで通用しなかったのも頷けます。

 そしてうなじへの一撃は、間違い無く致命傷だったのです。肉体が死につつあるのはその証拠でしょう。

 いくつかの謎は解けました。問題は対抗策ですが……


 クゥゥゥ…


 苦しそうな呼吸音に振り返ると、血溜まりの中から手を伸ばす者がいました。

 ぬっ!? 生存者か!?

 猿丸は巨人に気付かれぬよう、急いで近寄りますが、すんでの所で立ち止まります。

 巨人は怪我人を、目こぼれなく、執拗に、確実に、1人1人殺していました。生きているはずがありません。

 よくよく観察してみますと、手を伸ばす囚人の下半身は潰れ、片腕は千切れ、頭も陥没しています。時間も経過しておりますし、例えこの場に大僧侶が駆けつけたとしても、匙を投げるでしょう。

 つまり、もはやこの囚人は人間ではなく、ゴースト系モンスターなのです。


 クゥゥ…

 クゥゥゥゥ…

 クゥゥゥゥゥゥゥ…


 気がつけば、猿丸の周囲には、ボロ切れのような囚人達がズルズルと這いより、迫っておりました。どうやら猿丸も"解放"し、仲間に引き入れる算段のようです。

 巨人を見上げれば、ロズワルドとの会話に夢中なようで、背中を向けたまま振り返ろうともしません。猿丸のことは蘇った囚人達に任せるつもりでしょうか?

「わざわざ実験の機会を用意してくれるとは、気が効くのぉ」

 猿丸は懐からクナイを二本取りだし、一本を近くの囚人に投げました。クナイは額に直撃します。明らかに致命傷でした。しかし、囚人の動きは変わりません。低く唸りながら這いよってきます。

 次に猿丸は、水筒の聖水を一口含むと、もう一本のクナイにプッと吹き付け、別の囚人に投げました。クナイは再び額に直撃します。すると…


 クアァァァッ


 ボロ切れの囚人は、小さく悲鳴を上げると、ブルブルとけいれんを始め、頭がドロドロに溶け、ついには動かなくなります。聖水の予想以上の効果でした。

 すかさず猿丸は振り返り、巨人を警戒します。しかし巨人は仲間を倒されたというのに、何の反応もありません。ありがたいことに、猿丸の始末は囚人に丸投げのようです。

 這いずり囚人に近づかれすぎないよう注意しながら、猿丸は考えを整理します。

 ゴースト化した囚人相手なら、聖水さえあれば、包丁や手斧といった日用品でもなんとかなりそうです。

 巨人もゴースト化しているなら、聖水がきっと役立つでしょう。

 しかし、巨人の肉体はまだ生きています。クナイで刺したところで大した効果は望めません。恐らくは体内に入れなければ効果はないでしょう。頭をかち割って脳に直接流し込めるなら確実ですが、猿丸にはその方法がありません。水筒ごと口の中に放り込むのも手ではありますが、効果が出るのに時間がかかりそうです。

 となりますと、あてにすべきはロズワルドでしょうか。

 ロズワルドの装いがただのファッションでなければ、背中に背負ったロングソードで脳天をかち割れる事も可能でしょう。ですがロズワルドにとって巨人はかつての友。情が刃を迷わせるやもしれません。

 酔っぱらいから立ち直った程度で、あてにするのは危険かもしれません。やはり自分で何とかしなくては……


 いやまて?……あるいは……可能かもしれぬ…


 思いがけない巨人対策を閃きました。しかし、そのやり方では聖水を無駄にしてしまうリスクもあります。

 それにロズワルドの動向も気になります。きゃつが自身で解決できるなら、任せた方がいいでしょう。

 ならばそれまで、何をしているべきでしょうか……

 決まっています。今のうちに聖水を効果的に使い、雑魚を一掃するのです。

 懐に残ったクナイは僅かでした。これ以上失えばもしもの時、それこそ自爆するしか無くなります。そこで猿丸は、腰に巻き付けて隠していた細紐を解きます。それは紐の先に鉤の付けられた鉤縄でした。武器として使うには少々心許ないですが、リーチがありますし、聖水と組み合わせることで絶大な効果が期待できるでしょう。少なくとも、ゴースト化した囚人達には。

 猿丸は聖水を鉤に吹き付けると、鉤縄をクルクルと振り回し、刻々と這いよる囚人達を睨み付けます。


「憐れな囚人共よ! お前達にはワシが引導を渡してやるでな。安心して成仏するがよいぞ!」

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