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2-3 ガチ!

 “オトっつぁん”で思い出されるのは、1960年代に一世を風靡したバラエティ番組『シャボン玉ホリデー』の名物コントだな。

 時代劇映画を撮影してる設定で、二人の娘がおかゆを持ってくると、病身のおとっつぁんが「いつもすまないねぇ」と嘆き、娘が「それは言わない約束でしょ」と返す。そこで「カット」の声がかかり、現れた監督から様々なヘンテコ演出を要求され…といった感じで展開していく。

 流石に世代が違うので本放送は観ていない。ドリフの『8時だよ全員集合』に引き継がれていたらしいが、これも観た記憶が無い。初めて観たのは多分『オレ達ひょうきん族』内で放送されたパロディ版だな。

 おとっつぁんの「いつもすまないねぇ」に、双子の娘が「それは言わない約束でしょ」と返す所だけがお約束ネタとして一人歩きしていて、『Re:ゼロから始める異世界生活』でもスバル君がネタを振っていたな。アニメ版で観たぞ。相手はエミリアたんだったか。

 当然、異世界人にお約束ネタが分かるはずもなく、エミリアたんにキョトンとされてしまうわけだが、『Re:ゼロ』のメインターゲットと思われる中高生諸君も、キョトンとしてたのではないだろうか。…いや、でも、ネットで調べられるから、意外と若い世代にも浸透してたりして? わかんないや!

 まあ、それはさておくとして……


 私の名前“オトジロウ”の、最初の二文字を取って“オトっつぁん”か。よりによって……なぁ。

 少なくとも、年相応ではあるのだが。

「ダメ……かな?」

 ハナナさんが不安げに聞いてきた。多分、私の微妙な気持ちが顔に出ていたのだろう。

 いかんなぁ。すぐ顔に出てしまう。

「あ、いや、ダメって事は無いですよ。まさかハナナさんに呼ばれるとは思わなくて驚いただけです」

「……どういうこと?」

「実は“オトっつぁん”はですね、私が若い頃に付けられたあだ名なんですよ」

 私がそう呼ばれたのにはもう1つ理由があって……。ぶっちゃけると老け顔だったのだ。

 当時は思春期真っ盛りの青二才だったからね。嫌で嫌でしょうがなかった。

 ルパン三世がマモーに言い放った“とっちゃんぼうや”よりはマシだったが……。

 だが、しかし……あんなに嫌だったのに、今は響きが心地良い。

 高校時代に同級生からと、40代のオッサンが高校生くらいの女の子からとでは、同じ呼び名でも意味合いが全く違うからだろうな。

 当時は明らかに馬鹿にされていたわけだが、ハナナさんからは親愛の念が込められていることが伝わって来る。

 だが、しかし……いいのかなこれ。

 私はともかく、ハナナさんが酷い風評被害を受けやしないだろうか? パトロン的な意味での“パパ”と受け取られたりしたら……

「誤解されませんか? 親子…とか」

「いいのいいの♪ 全然オッケーだからっ♪」

 満面の笑顔で無邪気に応えるハナナさん。むしろ誤解されたいのか? 私が無駄に意識しすぎているだけで、実は大した問題でも無いのかな。

「ま、まあ……別に何と呼んでいただいてもかまいませんけど………」

「今しっかり聞いたぞ! いいんだねっ! 何と呼んでもいいんだねっ! じゃあ決定っ! よろしくな、オトっつぁん♪」

「………え〜っと……はい」

 まあいいや。口約束とはいえ言質も取られちゃったし、私が困ることもそんなには……無いだろう。多分。

 でも、安易に流されてる感じが嫌だな。無駄に抗うのもどうかと思うけど、このまま流れに身を任せるのも何か違う気がする。

「それじゃあ、ハナナさん……」

「あ、アタシのことは呼び捨てでいいからね」

 ……呼び捨て。……タメ口。……“身近な存在アピール”にはうってつけではある。だけどノリが体育会系だからなのか、苦手なんだよね。それに私、実は敬語属性のキャラに憧れてたりするんだよ。だから御本人の要望でも、呼び捨てはしたくないんだよな。女の子は特に……

 ちょっとくらい足掻いてもいいよね? ゼロは俺に何も教えてくれないけど。

「じゃあ“ハナナちゃん”でお願いします」

「は?」

 目の前の少女は明らかに動揺していた。

「い、いや、何言ってんの? アタシ、小さい頃から冒険者やってたけど、ずっと男扱いだったんだぞ! エンジャニキからはいつも“ハナ坊”って呼ばれてたし!」

「でも、かわいい女の子じゃないですか」

「かわいい言うなっ! アタシはそんなんじゃないんだよ!」

 そう言われましても、女の子だって事は、二つのまなこでしかと確認してしまいましたし。

 それに気付いていないかもですが、今、猛烈にかわいいんですよ。ちゃん付けに慣れてなくて、顔を真っ赤にしながらはにかむ様が凄くかわいい。

 そりゃあ“ハナナちゃん”って呼びたくもなりますって♪

「そんなに嫌なのでしたら、オトっつぁん”も無かった事にしましょうか……」

「ひっ! 卑怯だぞ〜〜っ!!」

 えええっ!? 卑怯呼ばわり? ……この状況で発するような言葉じゃないと思うんですけど。

 そんなに“ちゃん”付けされるのが嫌ですか? でもって、そんなに私を“オトっつぁん”と呼びたいのですか?

「あ〜〜〜っ! もうっ、わかったよっ!!!! ガマンすりゃいいんだろ! ガマンすりゃあよぉっ!!」

 またしても折れたのはハナナちゃんであった。

「そ、その代わり、これからずっと“オトっつぁん”って呼び続けてやるからな! 覚悟しとけよっ! オトっつぁん!」

「お、おう」

 一体どんな覚悟を決めたらよいのかサッパリ分からなかったが、とにもかくにも、互いを呼ぶ時の呼称は確定した。

 それにしても、どうして私を“オトっつぁん”と呼びたいんだろうか。

 やっぱり、そう言うことなのかな。安易で月並みだけど、色々な疑問の説明も付くし、それなりに納得も出来る。

 私を騙す演技の可能性もまだ否定できない。それでも……な。


 きっと、ハナナちゃんはファザコンなのだ。それもガチなやつ。

 そうとでも考えないと、笑顔の説明が付かない。家族だけに見せるような無邪気な笑顔の。

 そんな笑顔を私に見せる、ハナナちゃんの心境の……

 彼女の成長過程で、一体何があったんだろうな。

《次回予告》

さあ! 答え合わせを始めよう!

彼女は何だ? 私は何だ? この世界は何なのだ?

全てではないにせよ、謎が溶け、疑問が解消され、広げられた風呂敷がたたまれてゆく。

そうだ! 答え合わせを始めよう!

その先にあるのが、新たな大風呂敷だったとしても…

はじめてのオトギ生活 第17話「ここは異世界 オトギワルド」

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