表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
155/190

19-12 王国の武力組織 ~王宮戦士団31~ 緊急事態宣言

「今の破壊音は何だ!」

「何が起きた!? どうなってる!?」

「脱獄だ! 城門がぶっ壊された!」

「凶悪な囚人が逃げ出したぞ!」


 大混乱でした。

 屈強な男達が、大慌てで路地を走り回ります。道の真ん中にいれば、踏みつぶされそうな勢いでした。

 カワミドリは、通行の邪魔にならない道の隅に避難すると、震えるおかみさんを抱きしめていました。


「囚人が来るぞ!!」

「防御扉を閉めるんだ!! 急げ!!」

「訓練しただろ! 同じようにやればいい!!」


 防御扉が慌てて閉められ、やがて路地からは"大自由通り"が見えなくなりました。様子を知りたければ、屋根に登るしかありません。

 猿丸の姿は何処にもありませんでした。きっと情報収集でしょう。いつものことです。

 そこで区長助手のグスタフが、申し訳なさそうに話しかけてきます。

「ご婦人方は少しの間、ここで待っていただけますか」

「えっ!? 助手さんは何処かに行ってしまいますの?」

「区長の助手として、"お役目"を果たさなければなりません。と言いましても、この通りの責任者にいくつか指示を出すだけですので、すぐに戻ります。ですので決して動かないでくださいね」

「はい……」

 心細い気持ちを抑え、カワミドリは小さくうなずきました。


 グスタフが走り去り、おかみさんはますます不安になったのか、怯えながらカワミドリに尋ねます。

「ミドリちゃん! い、一体、何が起きているんだい!」

「脱獄みたいです。第三城門が壊されて、囚人が逃げ出しているんですって」

「そ、それじゃ、娘は? 囚人に捕まっちまったのかい? サフラン。……ああ、サフラン!!」

「泣かないでおかみさん! まだ何も分からないんです!! 今は落ち着いて、事態を見守りましょう!」

 冷静を装うカワミドリも、身体の震えは隠しきれません。

 この一年の旅で、カワミドリは様々な事件に巻き込まれました。荒事も一度や二度ではありません、ですが、ここまで大規模な事件は経験がありませんでした。

 女神の血を受け継ぐカワミドリも、今は無力な一般市民に過ぎませんでした。


「緊急事態宣言が発令されたぞ!!」

「緊急事態宣言だぁっ! 緊急事態宣言だぞ〜〜っ!」

「喜べ〜〜っ!! "冒険者通り"の店は全部開放されたぞ!!」

「戦える奴は武器を持て!! 選び放題だぞ〜!!」

「オレ達で町を護るんだ!!」

「外の警備隊が来るまでの辛抱だ! 気張って行けぇっ!!」

「うおおおおおおっ!!!」


 冒険者達は、普段は予算の都合から決して持てない高性能武具を使えると知り、盛り上がっていました。

 どうやらこれが、グスタフの"お役目"だったようです。武器庫の解放による戦意高揚。成果は申し分ありません。

 ですが………


 メギャァァッッッ!!

 

 再び響いた恐ろしい音が、冒険者達の歓声を打ち消しました。

 一体何事でしょう。ある者は屋根に登って、ある者は閉じられた防御扉の隙間から覗いて、音の正体を探ります。


「あれは何だ!?」

「そんな! バカな!!」

「あり得ない! そんな者がいるはずない!」

「おいおい、ウソだろ! 頼む、ウソだと言ってくれ!!」


 一体何が起きているのでしょう? 気になりますが、勝手に動けばグスタフとはぐれてしまうかもしれません。

 冒険者達の叫びやつぶやきから、少しでも情報を得ようと、カワミドリは必死に聞き耳を立てます。


「巨人だ!」

「怪物だ!」

「"ティターン"だ!」

「ど、どうしよう」

「どうすりゃいいんだ!」

「オレはゴースト専門なんだ。あんなデカブツ想定外だぞ!」


 巨人? 怪物? "ティターン"? どういう事か分かりませんが、どうやら何かが監獄から現れたようです。


「なあ……役に立つのかな。この扉」

「無理に決まってるだろ! 対人用だぞ!」

「防御扉なんて何の役にも立たねーよ!!」

「巨人相手にどうしろって言うんだ!!」

「なあ、どうする? オレ達に何が出来るんだ?」

「もうダメだ。お終いだ〜〜!!」

「逃げるしかないんじゃないか?」

「そうだよ、逃げよう!」

「逃げるって何処にだよ! オレ達は"ルリルリ"から出られないんだぞ!!」


 冒険者の誰もが浮き足立っていました。何かをきっかけに、いつ堰が切れてもおかしくない状況でした。

 迂闊に道に出れば、必死に逃げ出す冒険者達に踏みつぶされ、命を落とすかもしれません。カワミドリはおかみさんがパニックを起こして走り出さないよう、しっかりと抱きしめ、その場に踏み留まりました。

 すると、先ほどまで怯えていたおかみさんが、カワミドリの髪を撫でながら優しく話しかけてきます。

「大丈夫だよミドリちゃん。きっと大丈夫」

 それは正に怪我の功名。力一杯抱きしめたことで、カワミドリが恐怖でパニックに襲われているのだと思ったのでしょうか。大人の自分がしっかりしなければと、我に返ったようです。


 そうしている間に、"大自由通り"では更なる進展が始まっておりました。


「おい! ちょっと待て! 誰だアイツは!」

「巨人の前に飛び出した馬鹿がいるぞ!」

「蛮勇にも程がある! 一体誰だ!」

「ジジイだ! あれ、ジジイだぞ!」

「しかもメチャクチャ動きが速い!」

「猛スピードで巨人を翻弄してやがる!!」

「ただ者じゃねぇよ! 何なんだあの爺さん!!」


 え? それって……

 それってもしかして……… 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ