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19-11 王国の武力組織 ~王宮戦士団30~ 戦慄

「走れ!! 走るんじゃ!!」

 娘達を大声で急かしながら振り返り、猿丸は破壊音の正体を探ります。

 一体どんな方法で破壊したのでしょう? 高さ10メートル程で観音開きの第三城門は、右扉が無残にも半壊していました。囚人を閉じ込める鉄壁の扉は、内側からのダメージで歪に曲げられ、ちょうど人一人が抜け出せるような隙間が出来ています。

「これは…脱獄か? こんな時に脱獄じゃと? いや、むしろこんな時だからこそか」

 監獄都市"ルリルリ"から逃げ出せないまでも、混乱に乗じて第一監獄に潜り込めば、次のチャンスに賭けられます。脱獄するなら今こそチャンスでしょう。

 しかし脱獄なら、"ルリルリ"にとっては想定の範囲内です。対策だって取られているでしょう。囚人の人質にでもされない限り、大した問題にはならないはずです。

 ですが、胸騒ぎが止まりません。長年培ってきた忍びとしての直感が、猿丸に危機を訴えてくるのです。

 ならば危機の正体を、確かめねばなりません。


 愛娘やおかみさんが"冒険者通り"に駆け込むのを確認すると、猿丸は見晴らしの良い塔へと駆け上ります。そこなら半壊した第三城門だけでなく、"大自由通り"全体が見渡せました。

 先ほどまで平和を満喫していた人々は、荷物そのままに、大慌てで左右の路地へと避難していました。

 店は閉められ、路地の防御扉が次々と閉じられていき、"大自由通り"は広大な無人地帯と化します。

 その直後です。半壊した鉄扉から、囚人服を着た男達が抜け出してきました。囚人達は次から次へと現れて、クモの子を散らすように一目散に駆け出していきます。その様子は正に脱獄でした。

 が、しかし、猿丸は違和感を覚えました。

 いずれの顔も、何かに追い立てられるように、恐怖で引きつっていたのです。それはまるで、狼に襲われる憐れな子羊の群れでした。

 

 メギャァァッッッ!!


 恐ろしい音と共に、半壊した鉄扉が更にねじ曲がります。側にいた囚人は衝撃で跳ね飛ばされ、ちょうど扉をくぐり抜けようとしていた囚人は

、下半身を失ったまま宙を舞います。そしてどれほどの犠牲者が出たのか、遠目にも分かる程の大量の血しぶきが、城門前の辺り一面にぶちまけられました。

 ある者は呆気に取られ、ある者は恐怖に囚われ、言葉を失います。

 突然の地獄を、あまりの惨状を、沈黙が支配します。

 そんな中、地響きが、まるで足音のように、地響きが響きます。

 メキ、メキ、メキと、巨大な蝶番が音を立てながら壊れていき、半壊した扉は前方へと倒壊し、遂に全壊します。

 扉の奧の空間には闇が広がり、何も見えません。それは太陽が真上にあるために、日陰になっていたからでしたが、日差しに照らされ、はっきり見える物もありました。

 空間の中央に浮かぶ、謎の巨大物体。人によっては、それは巨大な紅葉の葉に見えたかもしれません。

「んなっ、何故あのような者が、こんな所にいるんじゃ!!」

 猿丸はその巨大な紅葉の正体に気付き、戦慄しました。そして数秒後、目撃者全員が正体を知ることとなります。

 空間中央から、巨大な紅葉が闇に消えた途端、今度は空間上部に巨大な白い岩が現れます。その岩は、彫りが深く、鼻が高く、毛がありません。まるで彫刻でしたが、真っ直ぐ前に進むにつれて、その正体が白日の下に晒されていきます。


 それは身の丈10メートルの巨人、"ティターン"でした。

 その恐ろしい人型の怪物は、手足を返り血で真っ赤に染めていました。少なくとも、十数人もの囚人が犠牲になっているでしょう。

 しかし何よりも猿丸を驚かしたのは"ティターン"の着衣です。あの巨大な怪物は、巨大な囚人服を着ていたのです。

 怪物が囚人? 巨人が囚人? 聞き覚えのある話でした。

「あれは……あれは確か……、そうじゃ! 5年前じゃ!」

 "ティターン"を怪物として退治するのではなく、人間として裁く。そんな前代未聞の裁判が"帝国"で行われた事を、猿丸は思い出します。

 心優しい巨人が手違いで人の子を死なせてしまい、その親の訴えで討伐隊が出撃しました。しかし巨人は無抵抗で投降して来たため、"帝国"司法局は、捕縛して帝都に連れ帰るよう、討伐隊に命じます

 帝都で待っていたのは、政治的茶番劇でした。数々のスキャンダルで失墜した司法局の権威を、"ティターン"を法廷で裁く事で取り戻そうとしたのです。結果として、それは成功を収めました。

 心優しき巨人に下された判決は、終身刑だったと聞いています。


 当時の司法局の思惑はさておき、この裁判をきっかけに、"ティターン"への偏見や差別が、少しずつ減っていったそうです。

 なんでも、現在の王宮戦士のメンバーにも一名、心優しき"ティターン"がいるのだとか。

 話を戻します。

 

 5年前に"帝国"内の法廷で裁かれ、終身刑を言い渡されたのなら、10年前に帝国領となった監獄都市"ルリルリ"に収監されていたとしても、何ら不思議はありません。

 ですが、目の前に現れた"ティターン"が、心優しき巨人と統一人物とはとても思えませんでした。明らかに血に飢えた化け物です。しかも第二監獄の強固な鉄扉すらも破壊する豪腕です。

 そんな恐怖の怪物が、第一監獄に放たれてしまいました。そして住人は、第一監獄から逃げられません。


 戦慄が、監獄都市"ルリルリ"を支配していました。

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