表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/190

2-2 あり?

 ぶっちゃけ、巨大アリなんて珍しくもなんともない。映画やゲームで散々使い古されたネタだからな。

 古くは1954年に制作されたハリウッド映画『放射能X』に登場した。この作品は『エイリアン2』など、数々のモンスターパニックものに多大なる影響を与えた傑作らしい。残念ながら未見なので、無事帰れたら観てみたい。

 最近だとマーベル映画の『アントマン』が有名だな。あれを観ると蟻が大好きになること請け合いだ。アントニ〜〜〜!!!

 ゲームでは、2003年に発売されたプレイステーション2用のゲームソフト、SIMPLE2000シリーズ『THE地球防衛軍』がある。

 インベーダーの先兵として現れ、群れをなして人類に襲いかかる巨大生物として登場した。私も地球防衛軍の隊員となり、様々な武器を駆使して何百何千とぶっ殺してきたものだ。シリーズ化されている。個人的には実質リメイクである『地球防衛軍3』以降をお薦めしたい。

 リアルの話だとアリではないが、恐竜が繁栄する前に、体長2〜3メートルにも及ぶムカデに似た巨大節足動物がいた。名前はアースロプレウラ。ムカデは肉食だが、こいつは草食だったらしいな。

 わざわざうんちくを披露して何が言いたいかっていうと…・アリなんか怖かねぇっ!!!(byベネット)

 ようするにただの動揺隠しだ。

「おいおいおっちゃん。しゃがみ込んでどうしたの?」

「腰が……抜けました」

 ゼンゼン隠せていないのはさておき、ひとしきり笑ったハナナさんは、衝撃の事実を思い出させてくれた。

「大丈夫大丈夫。怖くない怖くない♪ だってただの御馳走だから。オッちゃんだって昨日食べただろう?」

 昨夜の謎肉の正体がこの巨大アリだった! クトゥルフ神話TRPGなら、その事実を知った所でSAN値チェックが入るところだ。

 ポーカーフェイスが出来ない私は、多分引きつった顔で固まっていたのだろう。

 それを気遣ってか、ハナナさんがSAN値チェックを回避する魔法の言葉をかけてくる。

「でも美味かっただろ?」

 そう。美味かったのだ。朝から何も食べていなかったせいで空腹ブーストもかかっていたが、それを差し引いても美味かった。

 目を閉じて昨夜の乾し肉を思い起こせば、ヨダレが出てきそうな程だ。目を開けて現物を見ると引きつってしまうが。

 それでもまあ、世界にある数々のゲテモノ料理に比べればかわいいものだろうな。切り身にすれば分からなくなるし。

「こいつはね、貴重なタンパク源なのさ。この森の中に沢山いるし繁殖も早いから、いくら獲ってもヘッチャラなんだぜ。食べ放題さ♪」

「森に? こいつが? いや……でも……」

 こんな巨大アリが現代日本にいるなんて聞いたことがない。戦国日本にだっていないだろう。と言うことは、ここはやはり異世界なのか?

 だけど私が森を彷徨っていた時、一度も遭遇なんてしていない。森が深くて気付かなかったのだろうか。それとも、ハナナさんに騙されている?

 このアリも実は映画撮影用に作られた精巧な人形だったりとか? でもラテックス製とは思えないし……

「この足も身がぎっしり詰まってて美味いんだぜ♪」

 そう言いながら、ハナナさんは巨大アリの足の関節を曲げる。するとギチギチッと音がした。

 それはオモチャのロボットの関節を動かした時に鳴る、カチッカチッというクリック音を彷彿とさせた。

 この巨大アリ、関節を曲げる度にギチギチ鳴らしているのか? オモチャのロボットのクリック音は心地良いが、こいつの音は最悪だな。

 いや、待てよ? ギチギチというこの音………

 思い……出した!

 不意に右手を怪我したあの時! 血の臭いに反応したかのように森がざわめいた時! これに似た音が私に迫っていた!!

 もしかしてもしかすると……アレの正体が、コレだったとしたら?

 そこのところ、どーなんですか! ハナナさん!!

「え? あー、なるほどね。確かにそうかも……」

「いや、一人で納得してないで教えてくださいよ!」

「ゴメンゴメン。こいつは雑食でさ、普段は葉っぱと柿の実とか食べてるんだけど、動物の死体も食べるんだよ。“掃除屋”と呼ばれる由縁ってやつだね。

 だから、オッちゃんが怪我した時に、血の臭いから死の臭いを感じ取ったんじゃないかな」

 つまりあの時、もし私がギチギチ音から逃げなかったら、もし私がギチギチ音に追いつかれていたら、夕食になっていたのは私だった。

 そう言うことなのか……。

 そう思った瞬間、背筋がゾワっとした。そして直感した。ここは異世界なのだと。

 攻殻機動隊風に言うならば、“ゴーストが囁く”のだ。私は異世界に迷い込んでしまったのだと。

「ハナナさん、ちょっと真面目な話、いいですか?」

 私は腰を抜かしたままで姿勢は正せなかったが、可能な限り深刻な顔で話す。

 すると察してくれたのか、ハナナさんも神妙な面持ちで返事をした。

「実はアタシも、真面目な話があるんだよ」

 ……ん? ハナナさんも? なんだろう。「どっきり大成功〜〜♪」とかだったりするのかな?

「じゃあ、ハナナさんからどうぞ」

「あ、うん」

 しかし、ハナナさんはなかなか切り出さない。他所を向いたり頭をかいたりと、落ち着かない様子だ。

「えっとさ、オッちゃんの名前って、オトジーロだよね?」

「いえ、大黒雄斗次郎です」

「オオグロウ……うん。なんか言いにくいんだ。凄く言いにくいの」

「はあ、そうですか。すみません」

「いやいや! 謝る必要なんかゼンゼン無いんだよ? 無いんだけどさ」

 踏ん切りがつかないのか、ハナナさんのキレが悪い。一体何が言いたいのかな。

「だから、なんて呼べばいいか、昨日からずっと考えてたのだよです……」

 何だか語尾がおかしいし、明らかにこれまでのハナナさんと違う。何か変なものでも食べたのだろうか。毒キノコとか。

「それで決めたんだけど!」

 意を決したか、ハナナさんは私を見てこう言った。


「“オトっつぁん”って呼んでいいかな!」


 ハナナさんの顔はリンゴのように真っ赤であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ