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19-6 王国の武力組織 ~王宮戦士団25~ 区長再び

「お待たせ致しました」

 戻って来た2人の兄は、末っ子とまったく同じ忍び装束でした。

 それどころか、3兄弟はまったく同じ姿で区別が付きません。顔や髪型は頭巾と面頬で隠しているのでまだ分かりますが、体格差まで無くなっておりました。謎です。

「ふふふっ。悲しいかな、我らは三人でやっと一人前。ならばと、それを逆手にとりまして、三位一体で戦うよう訓練を重ねてきたのです」

「ポジティブですね。前向きで良いと思いますよ」

 確かにこれなら、幻惑魔法を使わなくても、相手を惑わすことができそうです。

 2人の兄は末っ子に合流すると、ロズワルドの目の前で、ここぞとばかりに三位一体の技を披露し始めました。1人かと思えば3人に別れたり、横に並んでまったく同じ動きを見せたり、次々とトリッキーな技を披露していきます。

 ブラボー! 素晴らしい! 最高のパフォーマンス! ロズワルドも思わず拍手喝采しています。

 これなら大道芸でも立派にやっていけるでしょう!

 …………。

 ええっと、そのお召し物って確か、死に装束………でしたよね?

 それで良いのか、三兄弟。

 

「こんにちは、お嬢さん。猿丸さんはご在宅かい?」

 カワミドリが頭を抱えておりますと、宿屋に区長さんがやって来ました。

「こんにちは区長さん。生憎、父は出かけています」

「それは困りましたな。仕方ない。待たせてもらいますよ」

 区長はそう言って、カワミドリが止める間もなく、食堂スペースに入っていきます。

 そして案の定、奧にいるニンジャ3人組や酔っぱらいと、目が合ってしまいました。

 一瞬の沈黙。

「…………ああなんだ。何かと思えば、大道芸の練習中でしたか。どうか私の事は気にせず、続けてください」

 そう言うと、区長は入り口付近の席に座りました。

 何事も無く受け入れられてしまったのは、区長が大物だからなのでしょうか?

 カワミドリはだんだん居た堪れなくなってきました。

「え、えっと、それで区長さん、父にどのようなご用なのですか?」

「それを聞きたいのは私の方ですよ。宿屋の主人からは火急の用と聞かされたんですが。お嬢さんは何かご存じですかな?」

「でしたらきっと、空のことだと思います」

「ああ、空ね」

 そうつぶやきながら区長は見上げます。そこには食堂の天井しか見えませんが、天井越しに空を見ているかのようです。

「確かに面妖な紫ですな。私も最初は天変地異かと焦りました。しかし、待てども待てども何も起きない。危険の無いものに、一々構ってはいられません。我々は平穏な日常を守る義務があるのです。すなわち、労働ですな。労働によって社会が回ってこそ、日常は守られるのです」

 そう繋がるかぁ〜と、カワミドリはうなりました。

「察するに、非常事態宣言をしろだの、民を避難させろだのと、非日常な状況に変えさせたいのでしょう。しかし根拠もなく非日常へと変えるわけにもいきません。猿丸さんは今、その為の証拠探しをしているのではありませんか?」

「はい。そうだと思います」

「ならば、是非とも私を非日常に突き動かす、決定的証拠を見つけ出していただきたいものです」

「きっと父なら、見つけ出してくれます!」


 空が不自然な紫に染まる中、人々はいつものように労働に取り組みます。

 漠然とした不安を抱えつつも、それでも"ルリルリ"の日常は平穏に動き始めていました。

 しかしカワミドリにはその静けさが不気味でした。

 危険の正体に気付いた時には、何もかもが手遅れになってしまいそうな、そんな予感を覚えました。


「それはそれとして、お嬢さん?」

「……はい?」

「お嬢さんは働き口が決まりましたかな?」

「は?」

 区長の凄まじい圧を感じます! 昨日の今日だというのに、今すぐにでも働けと言わんばかりです!

「え? えっと……。おかみさんから酒場の給仕をしないかって誘われまして……」

「そうですか〜♪ それは楽しみですな〜♪ 私もよらせていただきますぞ〜♪」

 たちまち区長は穏やかな口調へと変わります。

「いえ、あの、やるとはまだ決めていないのですけど……」

 カワミドリは区長の笑顔に、外堀を埋められたような閉塞感を覚えるのでした。

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