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19-4 王国の武力組織 ~王宮戦士団23~ 紫に染まる空

 宿屋の主人は空を見上げながら、心を平穏に保てる答えを求めて、猿丸に問いかけます。

「猿丸さんは、あちこち旅して回っていたんですよね? 似たような現象を旅先で見た事ありませんか?」

 確かに、日の出前や日の入り後の"薄明"と呼ばれる時間であれば、空が紫色に見えることもあります。しかしそれは、光と闇の間に生まれるグラデーションの一部に過ぎません。お昼近くの日差しで、空の全てが紫に染まる…。そのような自然現象があるのでしょうか? 少なくとも筆者は知りません。

「いや、残念ながら……。この空はあまりにも不自然すぎる。なにやら人為的な意図を感じますな」

 ちなみに、魔法の無いガングワルドでも空を紫に染める事は可能です。紫色の光を発するサーチライトで空を照らすのです。ただし、昼間は太陽光が強すぎるので、時間は夕方以降。そしてスクリーンとなる雲が必要ですので、曇り空が望ましいです。

 オトギワルドには魔法がありますから、方法は千差万別でしょう。となりますと、やはり問題は、始めた者の意図となります。

「時にご主人。ご主人は確か、生まれも育ちも"ルリルリ"でしたな。ワシはこの空を"ルリルリ"特有の現象と見ましたが、何か心当たりはありませぬか?」

「まさか。私だって初めて見ますよ。………いや、待てよ? 紫の空? ………そう言えば、幼い頃に祖父から聞かされたような……」

「あるのですな! 心当たりが!」

「え……ええ、多分。ですが申し訳ありません。なにぶん昔のことで、ほとんど覚えて無いのです」

「ふむ。ご主人にはおいおい思い出していただくとして……。ワシはワシの出来ることをするとしましょう。それとカワミドリや」

 側には不安げに見つめる愛娘がいました。この得体の知れない状況に怯えているようでした。

「ワシはちょいと調べ物に出かけてくる。大丈夫じゃ。心配することはないぞ。何があってもワシが解決してやるからの。ひとまず宿屋の中で待っていなさい。屋根の無いところには決して出ないように。空がこんな調子では、何が降ってくるか分かったものじゃないでな。それと、じきに三兄弟も戻ってくる。ワシが戻るまで宿屋に待機するよう伝えておいてくれ」

 そう言い残すと、猿丸は屋根へと駆け上り、姿を消しました。


「屋根の無いところには出るな……か」

 カワミドリが空を見上げれば、雨雲のひとつもありません。紫に染まっている以外、何一つ異常のないように見えます。父は心配のしすぎでは? しかし、万が一と言うこともあります。

 旅を振り返ってみれば、2人は様々な天候を体験しました。突然の豪雨や雹、落雷ならまだ良い方です。大量のカエルが降り注いできた時にはもう、この世の終わりかと思ったものです。

 潰れた屍体や飛び散った体液…。辺り一面がカエル地獄と化した時の事を思い出し、カワミドリは身震いしながら宿屋へと避難しました。

 宿屋の玄関から外を見れば、宿屋のご主人の側に、いつの間にか女将さんが駆け寄っていて、なにやら話し込んでおりました。いつの間に外へ出たのでしょう? もしかすると厨房の奧に勝手口があったのかもしれません。

 カワミドリは宿屋の窓越しから、改めて空を見上げます。相変わらずの不自然な空。違和感のある紫色の空でした。

 そそり立つ城壁の先を見ると、遠くに小さな雲が見えます。赤みがかった雲でした。


 空が紫で、雲が赤?


「あれ? あれ? あれ?」 

 似たようなものを、何処かで見たような気がします。あれは……何処だったか………

 紫……。赤……。赤色と青色が混ざると、紫色になる……。そんな話を何処かで……

 そう、思い出しました! ステンドグラスです! ステンドグラスに使われる色ガラスです!

 赤い色ガラスを通して見た世界は、全てが赤く染まりました。そして青い空は紫に染まったのです。

 まさか…… まさか……

 カワミドリは宿を飛び出し、天を見回します。何処にも切れ目のない、紫の空を見回します。

 空が紫色になったのではなく、赤い色ガラス越しに青空を見ているのだとしたら……

 もしかして…… もしかして……

 "ルリルリ"は、"ルリルリ"の天井は……


 赤い色ガラスで蓋をされている!?

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