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15-12 王国の武力組織 ~王宮戦士団17~ イチゴタルト

「……え? あの 今、何と?」

「ですから、ミカさんは、まだ生きていらっしゃるかもしれません!!」

 ミカゲル様が生きている?

 カワミドリには、サフランが何を言っているのか分かりませんでした。これまで聞いた情報が全て事実なら、あり得ない話だからです。もしかして情報に偽りがあるのでしょうか。それとも状況を覆す新たな情報が?

「詳しく、話していただけますか?」


 地下大迷宮"リトル・ヘルヘイム"。それが一体いつからあるのか。何のためにあるのか。"帝国"に知る者はいません。分かっている事は僅かです。

 まず、ゴースト系のモンスターが湧き出すため、定期的に討伐する必要がある事。放置していれば街はゴーストで溢れかえるでしょう。

 次に、原則として男子禁制である事。特に地下第2階層以降に下ると、生きては帰れないと言われています。

 そして、毎日祭壇に食事をお供えしなければならない事。これを怠ると街が祟られてしまうそうです。


 "ルリルリ"を占領した"帝国"は、街の中心からモンスターが湧く事を良しとせず、"鉄騎団"に探索を命じました。しかし不幸にも"鉄騎団"のメンバーは全員男であったため、ミカゲルを初めとした複数のメンバーが、行方不明となります。それから他の傭兵団や名のある冒険者が探索に挑みましたが、誰も帰って来ないため、ついに"帝国"は"リトル・ヘルヘイム"の攻略を断念します。

 それ以降、"ルリルリ"の城壁を増やし、監獄都市へと魔改造していくのですが、これはもしかすると、"帝国"に災いが降りかからぬよう、"リトル・ヘルヘイム"を封じ込めたいという思惑があったのかもしれません。


 "鉄騎団"が"ルリルリ"を去って5年ほど経過し、サフランは11歳になりました。サフランはその日の朝、初めて"リトル・ヘルヘイム"の地下第1階層に向かいます。サフランの母は、若い頃から祭壇にお供え物を届けるお役目を与えられている女性の一人で、サフランはお手伝いで付いていったのです。

 母娘は昨日の料理を回収すると、朝作った新しい料理を祭壇に置きます。後は無事帰宅するだけ。とても簡単な役目でした。

 "雪ん子亭"に帰ったサフランは、昨日の料理の処分と食器の洗い物を引き受けますが、その時、妙な事に気付きます。一日経って傷んでいた料理は、半分程無くなっていました。そしてナイフやフォークには明らかに使われた痕跡があったのです。母は「きっとネズミが食べたんだよ」と気にも止めなかったのですが、サフランは納得できませんでした。はたしてネズミがナイフやフォークを使うでしょうか?

 少しして、サフランは偶然にも、10年前までお役目を任されていたおばあさんと知り合います。そこで話を聞いたのですが、ゴースト系のモンスターは、命ある者から生気を吸い取り殺すため、"リトル・ヘルヘイム"にネズミが住み着くなんて事は、絶対にあり得ないのだそうです。だから昔は、お供え物が食べられた事もありません。どうやら変化が起きたのは、"帝国"に占領されてからのようでした。


 何者かが祭壇のお供え物に手を付けている。

 そのような変化は"帝国"が支配するようになってから。

 食べているのはもしかして、迷子になった"鉄騎団"のお兄ちゃん達では? サフランがそんな可能性に気付くのは、自然な流れでしょう。

 しかし、その可能性はあっさり否定されます。人間の体格ならネズミよりは長生きできますが、ゴースト系に生気を吸い取られる事に変わりはありません。それに食されている量は精々一人分。対して、地下迷宮で迷子になったお兄ちゃん達は20人にも及びます。どう考えても足りていません。

 そこまで考えて、やっとサフランは気付きます。迷子になったお兄ちゃん達が、もうこの世にはいないのだと悟ります。その日はずっと泣き明かし、次の日はせめてもの手向けに花を用意しました。料理をお供えしたついでに祭壇の回りを花で飾り、冥福を祈りました。


 更に時は流れ、ロズワルドが帰ってきました。サフランはただ嬉しくて、色々な事を話して聞かせます。大半の事には相づちを打つばかりで関心無さげでしたが、話題がお供え物の話になった時、初めて興味を示します。

 生命が居ないはずの"リトル・ヘルヘイム"で、毎日無くなる一人分の食事。これまで誰も関心を持ってくれなかったのに。やっぱりロズワルド様だけは違う! ロズワルド様だけは特別なお人なのだ! ……などと隙あらば惚気るサフランにウンザリしつつ、カワミドリは話を聞いていたかもしれません。

 そしてロズワルドは、お供え物にイチゴタルトを追加するよう指示します。

 サフランは今の今まで、イチゴタルトにどんな意味があるのか分からないでいましたが、ついさっき、カワミドリがお休みの挨拶をしたその瞬間、突然閃いたのです。


「ミカさんですっ! さっき思い出しました! ミカさんはお母さんの手作りイチゴタルトが大好きだったんです! そしてお供えした次の日、イチゴタルトは完食されていました。もちろんこれだけで、ミカさんが生きているなんて言えません。お母さんのイチゴタルトなら、ワタシだって完食しちゃいますもの。でも、でも、ロズワルド様は確信したのだと思います。ミカさんは今でも生きているって! でも、地下迷宮は危険すぎて、どう頑張っても助けに行けなくて、どうにもならなくて……。

 ああっ! だからなのね! だからロズワルド様、浴びるようにお酒を飲むようになったんだわ!」

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