表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/190

15-9 王国の武力組織 ~王宮戦士団14~ 慕う訳

 "雪ん子酒場"で腹ごしらえをした親子は、隣の"雪ん子亭"に戻ってサフランを待つ事にします。

「おや、お帰りなさい」

 宿の受付には主人が、退屈そうに座っていました。

 奥さんに任せている"雪ん子酒場"はこれから忙しくなるのですが、宿屋を空けるわけにも行かず、渋々1人でお留守番といった風でした。

 部屋に戻る途中で猿丸がポンと手を叩きます。

「おお、そうじゃ。何も娘さんの話だけをあてにする事はない。主人からも聞いてみよう。もしかすると別に視点の話が聞けるやもしれぬぞ」


「ふむ、ロズワルド様ですか。勇者で在るか否かは解釈の別れるところでしょうが、一つだけはっきりしている事があります。我々にとってロズワルド様は、命の恩人なのですよ」

「命の恩人……。そこのところをもう少し詳しく教えていただけますかの」

「話は10年前、"ルリルリ"が"帝国"に占領された時の事です。街には逃げ損ねたり、踏み留まる覚悟を決めた"雪ノ民"が多数残っておりました。私と妻、そして娘のサフランも一緒です。

 街を占領した"帝国"の将軍は、我々"雪ノ民"に『抵抗しなければ安全は保証する』と約束しましたが、下賤な下級兵共は狼藉を繰り返しておりました。私はあの時ほど後悔した事はありません。宿屋ののれんを守るなどというエゴに付き合わせてしまったために、妻と娘を危険にさらしてしまったのですから。

 私達は宿屋の地下室に隠れて何度かやり過ごしていたのですが、ついに見つかってしまいます。私は宿の外まで引きずり出され、目の前で妻と娘を……」

 感極まった主人は、そこで眼鏡を外し、涙を拭います。

「いや、失礼。己の無力さを思い出して、つい感極まってしまいました。しかしご安心ください。妻と娘は無事です。間一髪のところで、ロズワルド様が助けてくださいましたから」


 話を要約しますと、こんな感じです。

 ロズワルド率いる傭兵部隊"鉄騎団"は、多大なる戦果を挙げ、団長のロズワルドは勇者に祭り上げられていました。

 ロズワルドに絶大な信頼を置いた時の将軍は、"雪ノ民"と交わした約束を果たすため、ロズワルドと"鉄騎団"に"ルリルリ"の治安を守り、"雪ノ民"を救うよう命じます。

 治安担当に命じられた一時間後、ロズワルドはすでに動いていました。しかし"鉄騎団"の人数は100人ほどで、街全体の治安を守るには数が足りません。そこで部下達に対人用の軽装備で身を固めさせ、「今すぐ街に出て狼藉者を片っ端からぶっ殺せ」と命令。自らも先頭に立って出撃します。そして骸となった狼藉者を広場に集め、人前に晒して見せしめにしました。

 ロズワルドの迅速で躊躇のない殺戮は、"帝国"の下級兵を恐怖させ、その日以来、狼藉者はぱったりといなくなります。

 "帝国"上層部のハト派からは「人道に反する」と非難の嵐でしたが、"ルリルリ"に残った"雪ノ民"からは「正義が成された」と絶大な支持を得ました。

 "雪ん子亭"主人も、暴力を望ましく思っているわけではありません。しかし、ロズワルドが迅速に行動してなければ、彼が進んで汚れ役を買ってでなければ、主人の大切な妻子はとっくに殺されていたか、心と身体に一生消えない傷を刻みつけられていたでしょう。


「確かにロズワルド様は、"ルリルリ"を"雪ノ女王国"から奪った憎き敵です。ですが、ロズワルド様がいかに落ちぶれようと、ロズワルド様を世間が何と言おうと、我々"雪ノ民"の感謝の気持ちと尊敬の念は、決して変わりませんよ」

 そう締めくくり、主人の話は終わりました。


「お父さんただいま〜って、あれ? お二人さんは、こんなところで立ち話?」

 予想よりも早くサフランが戻って来ました。ロズワルドに関わる話だと聞き、お母さんが気を聞かせて早退させてくれたそうです。

「ワシは主人と父親同士の話をしたいんで、しばらくここに残るよ。何かあったら呼んでくれ」

 猿丸からの珍しい提案でした。でも確かに、同性同士の方が話しやすい事もあるでしょう。

「うん、わかった。じゃあ私は、サフランさんと娘同士水入らずの話をしてるね」

「でしたらカワミドリさん、ワタシの部屋にいらっしゃる?」

「まあ、ステキなご招待ですね。是非、お願いいたしますわ♪」


 こうして親父達は1階受付に留まり、娘達は屋根裏にあるのサフランの部屋へと移動するのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ