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15-8 王国の武力組織 ~王宮戦士団13~ サフラン

 気がつけば、ロズワルドの悪口大会になっていました。

 猿丸にとってはかわいい愛娘を、三兄弟にとっては母方の一族を侮辱されたのですから仕方ないかもしれません。

 三兄弟が声を荒げても、ロズワルドは何処吹く風で、何事もないかのように酒をあおっています。

 そんな中、思いがけないところからロズワルドに援護射撃がありました。

「これ以上、ロズワルド様を悪く言わないでください! ロズワルド様は立派なお方です!」

 声を荒げたのは、注文を聞きに来た給仕の娘でした。

「確かに今、ロズワルド様は荒んでらっしゃいます。とても辛い思いをされて、疲れ果ててしまって… だからと言って、過去の偉業が無くなったりはしません! ロズワルド様はワタシの、ワタシ達の、勇者様なんです!」

 そう訴える給仕の娘の瞳には、涙がにじんでいました。


 給仕の娘の思いがけない反応に、猿丸は驚きます。

 彼女は"雪ん子亭"主人の娘、すなわち"雪ノ女王国"の国民である"雪ノ民"です。"雪ノ民"にとって、"ルリルリ"を占領した"帝国"側の勇者であるロズワルドは、憎き仇であるはずです。しかし彼女はどうでしょう。明らかに慕っています。侮辱されて怒っています。

 つまり、ロズワルドは愚者ではなく、真の勇者である証拠ではないでしょうか?

 そしてカワミドリは、同じ乙女であるが故に察しました。

 彼女はロズワルドを、偉大な勇者としてではなく、1人の愛しい殿方として慕っているのだと…。


「ですからロズワルド様はっ! ロズワルド様はっ……」

「もういい!!」

 娘の言葉を遮るように、男が叫びます。ロズワルドでした。立ち上がったロズワルドは、歩み寄りながら彼女に話しかけます。

「もういい。もういいんだサフラン。所詮オレは偽物だ。偽物の勇者なんだよ。罵倒され、陰口を叩かれ、笑われるのがお似合いなのさ」

「違います! ロズワルド様は……立派なお方で……」

 ロズワルドは「やれやれ」と、彼女にくたびれた笑顔を見せながら、酒場を出て行きました。


 気まずい空気の中、猿丸は無言で三兄弟にロズワルドの追跡を指示します。何か企てがあるという訳ではないのですが、居所を知っていれば、何かの役に立つかもしれないからです。夕食を食べ損ねた三兄弟は不満げでしたが、忍びですから仕方ありません。三兄弟もコッソリ酒場を出て行きました。

 そしてカワミドリは立ち上がると、酒場の出口を見つめる給仕の娘に話しかけます。

「あのっ! サフランさん! …で、いいんですよね?」

「え? ええ」

「私はカワミドリと申します。父と共に今日から"雪ん子亭"でお世話になっています」

「あ、はい。覚えています」

「サフランさんはロズワルド様と親しい間柄だとお見受けしました。ロズワルド様の事、もっと詳しく教えていただけませんでしょうか!?」

「それは…一体、どういう……」

「私達の故郷は、南の辺境の森にある小さな田舎町です。これまでひっそり暮らしていたのですが、人狩りに目を付けられてしまいました。今は何とか持ちこたえているものの、故郷が滅ぼされるのも時間の問題です。ですから私達は、故郷を救ってくれる勇者様を捜して、ずっと旅をしていたのです」

「……まさか貴方、ワタシ達のロズワルド様を奪うつもりなの!?」

「いえ、いえ、違います! 違うんです……」

 カワミドリは考えをまとめるために、少し間を置き、再び話し始めます。

「もしも、ロズワルド様が嫌われ者で、居場所が無くて、くすぶっていらっしゃるのであれば、お迎えしたかったのは確かです。ですが、ロズワルド様にはサフランさんがいらっしゃいます。奪い取るような真似なんて出来ません」

「えっ!? い、いえ、違うんです! ワタシ、そういうのではっ……」

 顔を真っ赤にしながら全力で否定するサフランでしたが、心なしか嬉しそうでした。

「ここからが本題ですが……、あの、サフランさん。話を続けてもよろしいですか?」

「はっ!? あ、す、すみません。続けてください」

「先ほど、ロズワルド様とお話しした時………何度も罵倒されて、凄く傷ついたのですけれど……」

「それは本当にごめんなさい。ロズワルド様に代わってお詫びします」

「あ〜違います! そこはいいんです! いえ、決して良くはないですけど、今話す事ではありません。話を戻しますと、あの時ロズワルド様は、私にヒントを下さったんです。あるいは謎かけかもしれませんが」

「……ヒント? ……謎かけ?」

「確か、このように仰いました。『オレは勇者じゃない。偽物勇者だ。本物の勇者は地下にいる』と…」

「ロズワルド様は、本物の勇者様です!」

「ええ、ええ、そうですとも。私もそう思います。ロズワルド様が自虐的に嘆いているのには、きっと何か理由があるに違いありません。ですが、私が気になっているのは最後の一言なのです。『本物の勇者は地下にいる』。これは一体どういう意味なのでしょう? サフランさん。何か心当たりはございませんか?」

「心当たり……ですか。そうですね……」

 サフランはうつむきながら考えを巡らせます。

「本物の勇者は地下にいる…。地下にいる…。地下…。地下と言えば"リトル・ヘルヘイム"だけど……。あ…。もしかして… ミカさん?」

「あるんですねっ、サフランさんっ! あるんですねっ、心当たりがっ! 教えてくださいっ! サフランさんっ!」

「それは構わないのですけれど、後にしてもらっていいですか? 話せば長くなると思いますし、お仕事中ですから…。あっ、いらっしゃいませ〜!!」

 見れば入り口からゾロゾロと男達が入ってくる。きっと仕事帰りにちょい飲みにでも来たのだろう。

「"雪ん子亭"で待っていてもらえますか? 手が空いたら向かいますので!」

 そう言い残し、サフランは給仕の仕事に戻っていきました。


 親子はついに勇者の手掛かりを見つけました。残された時間を見るに、これが王国に残された最後の希望でしょう。

 ああ、ご先祖様。海の女神さま。今度という今度こそ、私達の勇者様と巡り会えますよう。なにとぞなにとぞお力添えを。

 祈らずにはいられない、カワミドリでした。

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