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15-5 王国の武力組織 ~王宮戦士団10~ 思わぬ助っ人

 "ルリルリ"良いとこ、一度はおいで。だけど二度と出られない。


 この時の旅人達の気持ちは、オトギワルドへ異世界召喚された私と同じだったかもしれません。

 訳が分からぬうちに元の世界から連れ去られ、訳の分からぬまま知らぬ世界に迎えられて。でも、意外と悪くない世界で、このまま暮らしても良いかなぁと流されてしまう。

 いやはや、ため息が出ますね。己を振り返ってみれば、流されてばかりの人生でした。

 せめてオトギワルドに留まるか、ガングワルドに帰るかだけは、流されることなく、自分の意思で決めたいものです。


 旅人達は区長の紹介で、ひとまず区内にある宿に泊まる事となりました。

 名前は"雪ん子亭"。百年以上の歴史を持つ宿屋です。

 旅人達が"雪ん子亭"に留まる間の宿代や食事代は、釈放額に加算されます。ですので、娑婆に出る気が無いなら実質無料です。ただ、いつまでも居座られては迷惑ですし、次の新人さんが来た時に宿を提供できなくなっても困ります。よって、長くて一週間と期間を区切られました。

 ところで"雪ん子亭"の主人は、帝国民ではありません。"雪ノ女王国"の民…すなわち"雪ノ民"です。"ルリルリ"が帝国に占領された際、のれんを守るために踏み留まりました。"雪ん子亭"主人のように、郷土愛から"ルリルリ"に留まる"雪ノ民"はそれなりにいて、監獄都市の経済活動に貢献しているようです。


 "雪ん子亭"の2人部屋に落ち着いたカワミドリと猿丸は、早速行動を開始します。

 まずは恒例となりました治安チェック! 強盗や誘拐しやすそうな無防備な親子を装って、街のあちこちを散歩します。

 その結果、親子が巡ってきたどの街よりも安全だと判明しました。これなら別行動を取り、それぞれで情報収集をして回っても良いかもしれません。

 そんな時です。

「老師? もしかして、老師猿丸ではありませんか!?」

 唐突に、3人の美男子が声をかけてきました。

 カワミドリも猿丸も、彼らを知りませんでしたが、馴染みのなる美しい顔立ちをしています。それは、海の女神ネレイデスの血を引き継いだ乙女、すなわち母親が"野薔薇ノ民"である、何よりの証拠でした。

 ネレイデスの美貌を受け継ぐ男子が、何故"ルリルリ"にいるのでしょう?

 猿丸はすぐに思い出します。勇者情報を得るために、弥七が下忍を派遣していた事を。

 彼らはコーガイガの下忍三兄弟、イチロー、ジロー、サブローでした。


 国家機密に関わるからか、下忍の名前、人数、人物像などは一切不明です。ですが名無しでは味気ないので、弥七同様、勝手に創作させていただきました。

 ただ、美形である点はほぼ間違いありません。"野薔薇ノ王国"の嫁入り政策から60年が過ぎておりますから、コーガイガのほとんどが"野薔薇ノ乙女"を母や祖母に持つ世代です。娘は当然として、息子も一代限りながら女神の特性を引き継ぎますので、人格や才能はともかく、顔だけは綺麗に整うのだとか。


「お主ら無事じゃったのか! じゃが、無事なら無事で何故報告せん。弥七がぼやいておったぞ」

「い、いや、それがその…」とイチロー。

「潜入するのは簡単だったんですが…」とジロー。

「どう足掻いても、監獄都市から出られないんです…」とサブロー。


 親子や三兄弟がいる街を『第一監獄』と言います。城門は二つしか無く、外に向かう門は一つだけ。ここの警備があまりにも厳重で、下忍が3人揃った程度では突破は不可能でした。

 そこで三兄弟は他の脱出ルートを模索します。

 イチローは借家の地下室からトンネルを掘ります。堅実な方法でしたが外に出るまで10年はかかりそうでした。

 ジローは城壁に新たな出口を作ろうと、爆破できそうな脆い壁を探します。ところがあたりを付けた壁は、先を越されて修復されていました。どうやらジロー以外にも脆くなった壁を探す者がいるようで、半年以上のいたちごっこが続いています。

 サブローは手っ取り早く、城壁を跳び越える事にしました。三兄弟の中でも登攀能力に長けており、人間には不可能と思える垂直の壁でも、僅かな手掛かり、足掛かりを見つけて、するすると登っていきます。そして頂上に手を伸ばした瞬間、突然握力が失われ、サブローは真っ逆さまに落ちてしまいます。シノビでなければ即死でした。

 サブローはそこまで話すと、右の手袋を外します。右手はまるで老人のように干からびておりました。回復薬を使ってもこれ以上は治らず、日常生活に支障はないものの、未だ握力は戻りません。

「この街の空は、何かおかしいんです。呪いのような結界に覆われています。得体の知れない何かの、『絶対に逃さない』という執念を感じるんです」


 親子は街の空を見ます。猿丸には普通の空としか思えませんでしたが、カワミドリは感じ取りました。サブリーの言う通り、何かおかしい空。天井から何かが覗き込んでいるような、人々を品定めをしているような…。

 得体の知れない何者かの、まとわりつくような視線を感じ、一人カワミドリは身震いしました。こんな時、勇者様がいてくだされば…

「そ、そうです! 勇者様です! 下忍の皆さん、勇者様はいずこにおられるのですか?」

「ああ、勇者ですか。見つけるには見つけたんですよ。だけど……ねぇ」

 三兄弟の口は重い。

「もしかして……すでにお亡くなりに?」

 不安げなカワミドリに三兄弟は答える。

「あ、いえ、今のところ元気ですぜ」

「ただ、いつまで生きていられるかは何とも」

「なにしろ毎日、酒場で浴びるように飲んだくれておりやすから」

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