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15-4 王国の武力組織 ~王宮戦士団9~ 監獄の都

 護送馬車は"ルリルリ"へ向かう街道を進み、重厚な城門を二つ潜ると、三つ目の更に強固な城門の前で停車しました。

 囚われた旅人達はそこで下ろされ、「くれぐれも無くさないように」と、ナンバープレートの付いたネックレス(恐らくドックタグのようなもの)が渡されます。

 護送馬車はUターンし、数台かの荷馬車と共に、城門から出て行きます。

 そして脱獄を阻止する警備隊員達が門に消えると、「ここからは誰も通さない」と言わんばかりに扉が堅く閉じられました。

 放置された旅人達は、途方に暮れながら周囲を見渡します。


 ここが…監獄都市…


 ここが監獄都市?


 確かに扉は固く閉ざされ、外界への往来は出来なくなりましたが、それ以外はいたって普通の街並みでした。

 高くそびえる壁には息苦しさを感じますが、城郭都市なのですから当たり前の光景です。

 気になるのは、街中がとても静かな事でした。警備隊員や荷馬車の御者が門に消えてから、誰もいないのです。

 まるでゴーストタウンです。囚われた旅人達以外、世界中から人が消えたかのようでした。

 しかし静寂は、突然破られます。

 城門の方角からリ〜ンゴ〜ンと、鐘が鳴り出したのです。

 呼応して、街のあちこちからも鐘が響きます。恐らくは、街中にある教会の鐘なのでしょう。

 何事かと身構えていると、あちこちの建物のドアが次々と開き、大勢の人々が現れます。

 あれよあれよという間に、静寂のゴーストタウンは、慌ただしく賑わう大都会へと豹変しました。


 旅人達が困惑する中、猿丸が気付きます。さっきの鐘は、閉門と開門の合図だったのです。きっと開門中は、脱獄の可能性を減らすため、外出を禁じられているのでしょう。もしかしたら私語も慎むよう言及されていたのかもしれません。だから城門が閉まり、鐘が鳴るまで、人々は建物の中で息を潜めていたのです。

 しかし、現れた人々は、看守とも囚人とも思えません。道を歩く者。荷物を運ぶ者。何らかの仕事をしている者。老人から幼子までいます。どう見ても、老若男女の一般市民でした。本当にここは監獄なのでしょうか?

「そうさのう。『そうだ』とも言えるし、『そうでない』とも言える」

 気がつけば、旅人達の側に、恰幅の良い中年が立っていました。

「新人の皆様方、監獄都市"ルリルリ"にようこそ来なすった。歓迎しますぞ」


 "区長"と名乗る中年男は、旅人達を集会所へと連れて行き、そこで一通りの説明をします。

1)この街では、ナンバープレートのネックレスが身分証明証として活用されるので、決して無くさないように。

  万が一無くした場合は再発行できるが、決して安くはない。

2)この街では独自通貨が使われている。通貨単位は"ラズリ"。労働の対価として、あるいは私物を売り払う事で得られる。

3)基本的に刑期は無い。もし監獄都市からの釈放を望むなら、罪に応じた額のラズリを支払わなければならない。つまり、働け。

4)檻の外は不景気だが、この街は好景気に沸いていて、常に人材不足である。現場は君達を待っている。贅沢したければ、働け。

5)働かなくても最低限の衣食住は保証するが、本当に最低限である。不満なら、とにかく働け。


 ちなみに旅人達の釈放料は全員同じで、たったの100ラズリ。分かりやすく100円としましょうか。

 何か適当な私物を売れば、簡単に支払える額です。

 こんな所から一刻も早く逃げ出したいと、旅人達は浮き足立ちますが、そこで猿丸がみんなを止めます。

「待たれい、皆の衆! これは罠じゃ! ワシらは何の罪で囚われたか、思い出すんじゃ!」

 そう。旅人達は皆、少年に濡れ衣を着せられ、冤罪で囚われました。

 ラズリを払って釈放されても、またあの"濡れ衣ボーイ"にでっち上げられ、冤罪で再び囚われてしまうでしょう。

 再び囚われるという事は、再犯で罪を重ねた事にされ、当然釈放額も加算されます。つまり……

「ワシらを監獄都市から逃がす気など、さらさら無い。そう言う事じゃろ? なあ、区長さんや」

 区長はニッコリと笑い、答えます。

「アタシも5年間、ここから逃げようと必死に足掻きましたがね、全て無駄でしたわ。でも、住めば都と言いますでしょう?

 何もかも諦めてみたら、だんだん街の良いところが見えてきましてな。どうせ住むなら、より良い街にしようと頑張っている内に、区長に祭り上げられてしまいましたわ。今じゃ二児の父親で……

 そうそう! 聞いてくだされ! 女房とはこの街で出会って、祝言を挙げたですじゃ〜♪ 20も年下のめんこい娘でしてな〜〜♪」


 旅人達が延々と聞かされたのは、まさかまさかの、のろけ話でした。

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