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15-3 王国の武力組織 ~王宮戦士団8~ 第12都市"ルリ"

 第12都市"ルリ"。通称"ルリルリ"はかつて、永久凍土を支配する"雪の女王国"の最南都市でした。

 "女王国"の中では数少ない、雪の溶ける豊かな地でしたが、故に雪の護りが弱く、領土的野心に溢れる"帝国"から度々狙われていました。

 そして今から約410年前の夏、"帝国"の大侵攻に耐えられず、ついに陥落してしまいます。

 占領した"帝国"は、冬になるまでの短期間に強固な城壁を巡らせ、"帝国"を守護する12番目の防衛都市に造り替えました。

 それ以来"ルリルリ"は、"帝国"最北の城塞都市として、第1都市"ザクロイシ、"第11都市"オウギョク"と共に、北の護りを担っています。


 もちろん"雪の女王国"側も、盗られたままではいられません。冬が訪れると同時に、"ルリルリ"を取り戻そうと雪の軍勢を進軍させます。

 しかし、"帝国"の城壁は思いのほか強固で、冬将軍の助力を得ても突破は叶ず、春の訪れと共に撤退しました。

 以来、"ルリルリ"奪還は"雪の女王国"の悲願となり、雪の軍勢は毎年冬が訪れる度に攻め込むのですが、残念ながら"ルリルリ"は、410年後の現在も"帝国"第12都市のままです。

 現在の"雪の女王国"は武力に訴えるのを止め、平和的に取り戻そうと交渉していますが、上手くはいってないようです。

 ちなみに、"ルリルリ"を巡る"帝国"と"女王国"の戦いを『雪合戦』と呼ぶのだとか。冗談みたいですね。

 地で血を洗う『雪合戦』は、壁外の近隣住民にとっては冬の風物詩だったらしく、今では雪の球を投げ合うスポーツへと昇華され、"ルリルリ"で開催される一大イベントと化しているようです。


 春になり、雪の軍勢を退けた"帝国"は、"ルリルリ"に更なる改築を始めます。城壁の内側に、強固な内向きの城壁を築き始めたのです。

 その目的は、都市の中に巨大な監獄を……。いや、都市そのものを、牢獄都市へと造り替えることでした。

 魔改造に踏み切った本当の理由は何なのか。実際にはよく分かっていません。

 帝国に溢れる犯罪者を収容する巨大施設が必要だったのでしょうか?

 それとも"雪の女王国"に対する嫌がらせでしょうか?

 あるいはもっと別の理由が?

 ともあれ、牢獄都市"ルリルリ"は、可愛らしい名前とは裏腹に、極悪犯罪者のゴミ溜めにされてしまったのでした。

 カワミドリと猿丸の一行が"ルリルリ"に訪れたのは、監獄都市になって約10年後の事となります。


 監獄都市"ルリルリ"の勇者情報は、実は最初からキャッチしておりました。しかし勇者に会うためには監獄都市に入らなければなりません。

 "ルリルリ"に入るのは簡単です。近くの町や村でパンでも盗めばいい。微罪でも躊躇うことなくぶち込んでくれます。

 しかし、行きはよいよい帰りは怖い。"ルリルリ"から出るとなると、途端に難易度が跳ね上がります。

 城壁周囲には呪いを活用した結界が張り巡らされ、そこからの脱獄はまず不可能。城門の警備も厳しい。猿丸や弥助なら結界の隙間を縫って抜け出せるかもしれませんが、シノビの心得のないカワミドリを連れてとなると話は別です。

 そこで"ルリルリ"は最後の希望として残し、コーガイガのシノビに情報収集をまかせつつ、親子は他の可能性を模索する事にしたのです。

 しかし、親子が帝国中を回った結果、他の可能性は全て潰えました。

 一方で、弥七が放った下忍が監獄都市に潜入したのですが、ことごとく帰ってきません。

 そして"野薔薇ノ王国"には、もはや時間がない。

 如何なる危険が待ち受けようとも、親子は"ルリルリ"に向かうしかありませんでした。


 ところで第12都市"ルリルリ"は、城壁の中のほとんどが監獄か、監獄に関係する施設です。

 すなわち、一般市民向けの街は城壁の外にあります。

 城壁の北側は『雪合戦』で巻き添えを食らう危険がありますので、無人の荒野が広がっていますが、反対の、帝都に向かう街道のある南側には民家が集中し、壁外街が形成されていました。

 比較的治安が維持されている現在こそ、壁外街は普通に存在していますが、当時としてはかなり珍しかったようです。

 きっと『雪合戦』には暗黙のルールがあり、"女王国"も"帝国"も、一般人を巻き込まないよう、兵の一人一人にまで言及していたからこそ、壁外街は街として発展できたのではないでしょうか。


 "ルリルリ"の壁外街に訪れた親子は、今後の計画を練るため、ひとまず宿を探す事にします。

 すると突然、通りすがりの少年がカワミドリを指差し、大声で叫びます。

「ああっ! 泥棒だ!! 泥棒がいるよ!!」

 あからさまな濡れ衣でした。

 カワミドリと猿丸が呆気にとられていると、待ってましたとばかりに六尺棒を持った警備隊員が、ワラワラと集まってきます。

 あきらかにマッチポンプでした。

 先ほどの少年は、警備隊員から小遣いをもらうと、カワミドリに笑顔で手を振りながら走り去っていきました。

 何もかも計画通りのようでした。

 二人は荷物を没収されるでもなく、身体検査されるでもなく、そのまま拘留場に拘置されます。容疑者を捕らえるにしては随分と中途半端な対応でした。

 拘留場にはすでに何人もの人々が拘置されており、話をしてみると、いずれも親子と同じ旅人で、少年に濡れ衣を着せられ、警備隊員に捕らえられたのだそうです。

 少年はともかく、警備隊員は公人のようでした。つまり、壁外街の責任者が率先して旅人狩りをしている? 一体何のために?

 一定数が集まったところで、旅人達はみな拘留場から出され、護送用の馬車に押し込まれます。行く先は監獄都市"ルリルリ"。

 監獄都市に入るために犯罪に手を染めるのかと悩んでいた矢先、まさか向こうから招待してくれるとは! 何たる幸運でしょうか♪

 他の旅人達が絶望に打ちひしがれる中、折角なので、親子も茶番に付き合う事にします。

「もう、おしまいだ〜 ぜつぼうだ〜 どうしよう〜(棒」

 はたして、揺れる護送馬車が行き着く先は? 二人の運命は?


 ドナドナ〜♪

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