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15-1 『勇者はいずこ』

 誰ともしれぬ貴方へ。

 まさかこんなに早く読みに来て下さるとは、思いもよりませんでした。

 夜更かししながらの執筆に一区切り付け、4〜5時間眠って朝起きてみれば、机に置いていた執筆用の紙に、小さな手型と足形が大量に付けられていたのですから。もうビックリです。

 この大量の手型と足形が、高評価を現しているのか、低評価を意味しているのかは分かりませが、この際それは置いておきましょう。

 気になったのは貴方の、反応のあまりの早さです。

 1週間何も書かずにいたのに、何故昨夜、続きを書いた事に気付いたのでしょう?

 もしかして私、貴方に24時間見張られているのでしょうか? 怖いなぁ(^^;

 怖いので、張り切って続きを書いて行こうと思います。


 今宵、最初は少々趣向を変えまして、オトギワルドの昔話を書き記す事としました。

 これは、無事出所したハナナちゃんに連れられ、冒険者の集まる酒場へ足を運んだ際、帝国出身の冒険者に聴かせてもらったお話です。



 〜オトギワルドむかしばなし〜

『勇者はいずこ』

 むかしむかし、

 帝国の辺境に小さな領国がありました。先代領主の時代は貧しくも平和で、領民達は慎ましく生きておりました。

 しかし先代領主が早くに亡くなり、息子が跡を継いでからは、状況が一変します。

 幼い領主はお飾りにされ、家臣達が実権を握り、腐敗し、汚職と悪徳が蔓延っていきました。

 法外な重税が課せられ、逆らう者は投獄され、治安は悪化し、憲兵という名のゴロツキが我がもの顔で村を闊歩するようになります。

 領民は逃げることも抗うことも出来ず、絶望の中、生きるしかありませんでした。

 そんな、ある日のこと……


 旅人が領国に訪れました。老いた父と若い娘の、不思議な親子でした。

 親子は宿をとると、領民に尋ねて回ります。

「この国に勇者様がいらっしゃると聞きました。どちらにいらっしゃるか、ご存じありませんか?」

 訳を聞くと、勇者に祖国を救ってほしいとのことでした。

 そんな親子に、人々は困惑するばかりです。そんな勇者が本当にいるのなら、救ってほしいのは領民自身でしたから。

 ですが、親子が尋ねて回るうちに、噂が噂を呼び、根拠のない希望が領民に宿っていきます。

「もしかして本当に勇者がいるのではないか??」

「もしかして勇者が私達を助けてくれるのではないか?」

「もしかして?」

「もしかしてっ!」

「もしかしてっっ!?」


 それを快く思わないのは、領国を実行支配する家臣達でした。

 たとえ根拠が無くとも、目に輝きが戻るのは不味い。生かさず殺さず。これが愚民共を支配する一番の方法なのだ、と。

 彼らは己の保身のためなら、手段を選びません。早速ゴロツキ憲兵を派遣し、親子を逮捕します。

 親子の罪状は、不穏な噂を流し、領民を惑わした罪。

 汚職まみれの裁判官から禁固10年を言い渡され、親子は投獄されてしまいました。

 絶体絶命の大ピンチ。しかし親子は牢獄で、いわくありげな老人に出会います。

 決して外すことの出来ない不気味な仮面を付けられた、謎めいた老人でした。

 しかし娘は意に介さず、多くの領民にしたように、仮面の老人にも尋ねます。

「この国に勇者様がいらっしゃると聞きました。どちらにいらっしゃるか、ご存じありませんか?」

 仮面の老人は驚き、困惑し、狼狽えながらも答えます。

「何故知っておるのじゃ! それを知るのは、もうワシだけのはずなのに、お前さん方は何故知っておるのじゃ!

 ……そうか。そうなのか。ついに時が来たのじゃな。ならば話そう。勇者の秘密を」


 実は先々代の領主こそが、伝説の勇者でした。そして仮面の老人は共に魔王と闘った、勇者の仲間だったのです。

 魔王を討伐し、世界を救った勇者でしたが、彼を疎ましく思い、その血を根絶やしにしようと目論む邪悪な組織がおりました。

 そこで勇者は、魔王との戦いで死んだ事にして、仲間の協力で辺境の領主という隠れ蓑を得て、時が来るまで潜伏することにしたのです。

 仲間達も過去を捨て、家臣として領主に仕え、勇者を支えました。

 勇者が天に召され、世代が変わり、勇者の息子が領主を継ぐと、仲間達も1人、また1人と、勇者の待つ天へと召されていきました。

 更に時が流れ、勇者の孫が領主となった現世代。勇者の仲間は老人が最後の一人となっていました。

 命ある限り勇者の孫を支えようと思った矢先、老人は若い家臣に裏切られます。

 正体を知られぬよう外せない仮面を被せられ、老人は何年も牢獄に囚われていたのでした。


 先々代の領主が勇者ならば、親子が探し求めていたのは、勇者の孫である現領主ということです。

 ならば急いで会いに行かなければ。

 老いた父は不思議な力で鍵を壊すと、娘や仮面の老人と共に檻を出ます。

 驚いたのは看守達です。先ほど入れたばかりの囚人が、臆すことなく歩み寄り、正面から堂々と牢獄から出ようとしているのですから。

 慌てて止めようとしますが、老いた父に触れることも出来ず、次々と投げ飛ばされてしまうのです。

 しかも3人の狼藉者が向かうのは、外に逃げ出せる正面門ではなく、城の中央にある王座の間でした。

 クーデターか? 暗殺か? 狙いは領主か? それとも……我々?

 思わぬ事態に大いに慌てた家臣達は、使える兵を全て王座の間に集め、自分達は裏口から逃げ出します。兵とお飾り領主を囮にする算段でした。

 王座の間に辿り着いた3人に、数十もの兵が襲いかかりました。しかし、歩みを止められません。老いた父が、全ての攻撃を受け止め、受け流し、カウンターを決めて、後に続く2人には決して触れさせないのです。

 正に達人。でなければ悪魔か化け物だ。人の力で勝てるはずがない。その圧倒的な強さに兵達は怖じ気付き、戦意を喪失します。

 邪魔者がいなくなった3人は、兵達には目もくれず、更に上へ、領主の寝室へと向かうのでした。


 その頃、若き領主は自室のベッドで毛布を被り、ただただ震えていました。

 

 彼はずっと孤独でした。幼い頃に両親に先立たれ、側近のじいやも行方不明となり、信頼できる者が誰もいなかったのです。

 訳も分からぬまま、家臣共から領主として担ぎ上げられ、「若様はまだ幼いから」と権力を奪われます。

 しかし大人になったところで家臣共が権力を手放すことは決して無く、そのくせ彼をお飾りとして利用し、全ての責任をなすり付けてきました。

 家臣共が繰り返した悪事の数々。しかし民の恨み辛みは全て彼に向けられたのです。

 憎かった。悔しかった。恨めしかった。

 だけど彼は、家臣共の不義を知りながらも何も出来ず、見て見ぬフリをし続けました。平然と悪事を働ける家臣共が、恐ろしかったのです。

 彼はやさぐれました。酒色に溺れ、現実から逃げました。

 そして気付けば今、謎の不審者が現れ、少しずつ彼に迫っていました。

 家臣共には散々利用されたあげくに囮にされました。良くしてやった使用人も彼を見捨てて逃げました。

 利用されて捨てられて、罪を着せられ、覚えのない恨みで殺される……

 ずっとずっと独りぼっち。なんて惨めな人生だろう。ボクの人生に意味なんてあったのかな……

 その時です。

 突然バタンとドアが開くと、聞き覚えのある叫び声が響きました。

「お坊ちゃま! ご無事でしたかっ! じいやですぞ! じいやが戻ってまいりましたぞ!」

 間違いありません。その声はじいやです。じいやが帰ってきたの? 本当に?

 彼が慌ててベッドから起き上がると、目の前にいたのは不気味な仮面の男……

 ショックのあまり、彼は卒倒していました。


 意識を取り戻した若き領主は、不気味な仮面に怯えつつも、じいやから説明を受けます。

 自分が孤独ではない。少なくともじいやがいるという事。

 謎の不審者は、別に自分を殺しに来たわけではないという事。

 祖父が勇者であり、孫の自分にも勇者の血筋と魂が受け継がれている事。

 そして今こそ、勇者として覚醒すべき時である事。

 若き領主は冷静に考えを巡らせます。そして……そして、

 絶望的な結論に至りました。

 血筋はまだしも、勇者の魂が自分に受け継がれているとは到底思えない、と……。

 人生を振り返ってみれば、彼は一度たりとも勇気を出せませんでした。

 いつもいつも逃げ出してばかりでした。

 自分に勇者の血が流れているのなら尚の事、ご先祖様に申し訳が立ちませんでした。

「ボクは駄目なんだ。駄目な男なんだよ」

 そう言って彼はうずくまり、人目もはばからず泣きました。じいやの励ましも、彼には届きません。

 

「そんな事はありません。貴方様はまことの勇者ですよ」


 むせび泣いていた若き領主は、突然手を握られ、鈴のような声で励まされます。

 彼が見上げると、目の前に娘がいます。じいやの後に控えていた、勇者を捜しているという旅の娘でした。そう、彼女は旅の娘のはずでした! 髪も器量も服装も、間違い無く同じはずなのです!

 ところがどうでしょう! 娘は今、神々しく輝いています。麗しき微笑みで、若き領主の苦しみを癒しています。それはまるで… まるで……

 ああっ、間違いありません! 彼女こそ女神さまでした!!

 地上に降臨なさった女神さまが、今、目の前にいる! 若き領主は感激のあまり目が離せません。

 女神さまは彼を見つめ、優しく微笑みながら語りかけます。

「これまで貴方様が勇気を出せなかったのは、勇者となるべき時ではなかったからです。でも今は違います。今こそ貴方様が、まことの勇者になる時なのですよ」

「だけど…だけどボクは……自分が信じられません。自分の事が何も信じられないのです」

「それなら、私を信じて下さい! 貴方様をまことの勇者と信じて疑わない、私の思いをどうか! どうか信じて下さい!」

 その時でした! 若き領主の心に宿ったのです! それは正に、燃えるようにアツい勇者の魂でした。


 次の朝、不思議な親子は、祖国を救う勇者を求めて領国を旅立ちました。

 若き領主は付いていきたかったのですが、目覚めたばかりの勇者の力では、老いた父親の足元にも及ばず、足手まといになるだけだと諦めます。

 そして何より、娘との約束がありました。

「領主様。どうか異国の私達よりも、所領の民を助けてあげて下さい。所領の民の勇者となってあげてください。それが出来るのは、貴方様だけなのですよ」

「分かりました女神さま。必ず成し遂げて見せます。何年かかろうとも、民を幸せにしてご覧に入れます。ですから、またいつの日か、我が領国においで下さいね」

 旅の親子が辺境の領国に再び訪れたかは、定かではありません。ですが、若き領主は娘との約束を頑なに守り続けました。民を護り、不正と戦い、国を豊かにして、後に名君と呼ばれるまでになったそうです。


 めでたし めでたし

新展開…というわけでもないのですが、今回は読み切り風味を出そうと張り切りました。

そうしたら、いつもは2000文字も行かないのに、今回は4000文字を越える羽目に。

道理で疲れ果てるわけです(^^;

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