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14-4 王国の武力組織 ~王宮戦士団4~ 荒む"コンゴウ"

 “絶対防衛都市コンゴウ”は、帝国の最南に位置する大都市で、防衛の要です。

 有事…すなわち、決起した魔王軍が北上してきた際には最前戦となるため、強固な城壁に囲まれています。

 壁の内側には、数千人規模の兵舎や、長期籠城を想定した備蓄倉庫があり、備えは万全です。

 また、最新で万全な武具を戦士達に供給できるよう、多数の武器商人を招き、常駐させていました。

 しかし折角の施設も、平時では持て余してしまいます。

 そこで普段は一般人に、空いた施設や古くなった備蓄を格安で提供し、希望者には戦士教育を施しました。

 "絶対防衛都市コンゴウ"は、勇者を夢見て冒険者を志す若者達の『始まりの街』でもあるのです。


 さて、

 旅立ったばかりの仲良し親子ですが、早くも意見の対立で険悪になっておりました。

「"コンゴウ"にて勇者の情報を可能な限り多く集め、当たりを付けてスカウトに向かう」

 ここまででしたら、二人の意見は一致しています。

 問題は路銀でした。先立つものが無ければ、スカウトどころではありません。

 そこでカワミドリは、女王陛下からいただいた魔法石を、今すぐ売り払おうと主張します。じっくり腰を据えて、情報収集に勤しみたかったのです。

 対して猿丸は猛反対します。国母様の遺産を容易く手放せるものか。路銀はモンスター討伐で得たアイテムを売れば良い。確かに猿丸の腕前なら可能でした。

 ところが、事は二人の思惑通りには進んでくれませんでした。


 コーガイガの隠れ里を経由して、深キ深キ森を通過し、帝国領に入った二人は、一路"コンゴウ"へと向かうのですが、どういうわけかモンスターが現れません。

 ならばと、道無き荒れ地に寄り道したり、夜中に歩いてみます。それでもモンスターは一向に現れず、代わりにエンカウントしたのは、邪悪な微笑みを浮かべる人間の群れでした。


 やとうA が あらわれた

 やとうB が あらわれた

 やとうC が あらわれた

 やとうD が あらわれた

 やとうE が あらわれた

 やとうA の せんせい こうげき

 さるまる は ひらり と かわした

 かわみどり は こわくて うごけない

 さるまる の ぜんたいこうげき

 やとうA は きぜつした

 やとうB は きぜつした

 やとうC は きぜつした

 やとうD は きぜつした

 やとうE は きぜつした

 さるまる は てき を こらしめた


 猿丸は、倒した野盗を縛り上げ、尋問するのですが、すっかり怯えきってしまい、会話が成立しません。

 そこでカワミドリが、ずっと押さえていた魅了の力を全力で発揮し、『説得』に当たります。

 それは正に『地獄で仏』ならぬ、『地獄で女神に会ったよう』なもので、吊り橋効果的な要素もあったのでしょうか。カワミドリの愛の奴隷と化した野盗達は、問われるままに洗いざらい答えるのでした。

 こうして、以下の事が判明します。


 "コンゴウ"は 地獄 でした。


 何年も続く不作のため、悪くなる一方の帝国経済。

 職にあぶれた帝国民が冒険者になろうと集まったため、今"コンゴウ"は経済難民で溢れかえっています。

 大半はお金がないので、訓練も受けぬまま、粗悪な武具を手に入れて、なんちゃって冒険者になるのですが、近場のダンジョンは狩り尽くされており、"コンゴウ"周辺のフィールドにもモンスターはほとんど現れません。

 熟練の冒険者は、ハイリスクハイリターンの高難易度ダンジョンに挑むべく、とっくの昔に"コンゴウ"を去りました。

 残っているのは、モンスターと戦うチャンスすらない、初心者冒険者ばかりです。

 やがて追い込まれた冒険者の中から、悪落ちする者が続出していきます。

 悪落ちした冒険者は野盗となり、一般市民を襲って糧としました。善に留まった冒険者は、野盗討伐が糧となりました。

 皮肉なことに、一部の冒険者が悪落ちしてくれたおかげで、善の冒険者も食い扶持を得られたのです。

 冒険者達の共食い地獄。

 ですが、その果てに生き残った者は、確かに高難易度ダンジョンに挑めるだけの力を身に付けていました。

 地獄と化した"コンゴウ"ですが、『始まりの街』としては、まだ辛うじて機能しているのです。


 話を聞いた猿丸は、野盗の縄を解き、武器を返して解放します。

 彼ら野盗は、善なる冒険者にとっての食い扶持です。初心者の得物を横取りしては可哀想。それが猿丸の判断でした。


 路銀を稼げない以上、猿丸には"コンゴウ"に留まる意味がありません。

 勇者の情報は、帝国中から人が集まっているのですから、多く手に入るかもしれません。しかし留まれば留まるほど、辛い光景が目に入り、心が疲弊していくことでしょう。カワミドリにそれを耐える自信はありませんでした。

 状況を精査した二人は、"コンゴウ"を素通りすると決めました。

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