14-3 王国の武力組織 ~王宮戦士団3~ 旅立ち
徐々に増えつつある野薔薇ノ民の人口に対し、憲兵団と近衛団の数は僅かでした。コーガイガの忍び衆を加えてもまるで足りません。
だからと言って、カワミドリを一人で死地に向かわせる訳にはいきません。
そこで女王陛下が頼ったのが、戦力外となっていた猿丸でした。
猿丸は、コーガイガからの婿入り第一世代の最後の生き残りです。老師と呼ばれるほどに年を重ね、この頃には70を過ぎていました。
仕事も子作りも隠居しておりましたが、迫りつつある王国の危機に何も出来ず、もどかしい日々を過ごしておりました。
その鬱憤を晴らそうと、コーガイガにとっての魔利支天様、メニッペの木像を彫る毎日だったそうです。
故に、女王陛下直々の依頼に、猿丸は「自分も魔利支天様のように最後のご奉公が出来る」と心を躍らせます。
しかし喜んでいられたのは、護衛対象を知るまででした。まさか可愛い末娘が危険な任務に就くなんてっ!
最初は酷く狼狽した猿丸でしたが、むしろ自分の目が届く所に末娘を置けるのは、幸せなことだと気付きます。
この旅が終わるまで、我が身に変えてでも娘を護る! 悪い虫が近づこうものなら目にもの見せてくれるわっ!
そう決意する猿丸でした。
一方カワミドリは、父親の心配など何処吹く風。訪れるであろう幾多の出会いに、期待に胸を膨らませておりました。
自分の隠密能力に絶対の自信を持っていましたし、同行者が老いた父ではむしろ足手まといだと慢心もしておりました。
それも無理からぬ事だったのでしょう。この頃のカワミドリは15歳くらい。ちょうど反抗期で、親離れしたくてしょうがないお年頃だったのです。
しかし、旅のお供に父を同行させることが、女王陛下の絶対条件でした。そこでカワミドリは一計をめぐらします。
「今は大人しく従おう。だけど途中ではぐれるかもしれない。旅は何があるか分からないのだから」と。
旅が始まると、早速逃げ出すカワミドリでした。しかし、いかに隠密能力を駆使しても、すぐに猿丸に見つかってしまいます。
また、現役時代の半分も力を出せないはずの猿丸でしたが、崇高な使命感と末娘への愛情が掛け合わされた結果、むしろ現役時代以上に力を発揮するようになります。
流石のカワミドリも、渋々ながら父を認めるようになっていくのでした。
路銀は国庫に余裕が無いため、基本的には現地調達でした。魔獣や妖魔を倒して得たアイテムを売る。ようするにRPGと同じですね。
ですが、もしもの時のためにと、女王陛下はいくつかの宝石を手渡します。
それは国母様、つまり初代タレイア妃がご先祖から受け継いだ旧王国の遺産であり、国庫から分けられた女王代々の個人資産でした。
国母様からは「もしもの時以外は絶対に使わないように」と遺言が残されていました。
実際、森に隠された宝物庫には呪いがかけられており、普段は女王陛下ですら近づけません。
ところがある夜、女王陛下の夢枕に国母様が現れ、「今こそお使いなさい」と語りかけました。遺産の使用が許されたのです。
目覚めた女王陛下は、病み上がりながらも宝物庫へ向かい、数個ばかりの宝石を持ち帰りました。それらはただの宝石ではなく、大量のマナが込められた魔法石でした。
魔法使いや魔道士なら、喉から手が出るくらい欲しい逸品でしたが、魔法の心得のないカワミドリや猿丸にとっては無用の長物でした。しかし、売れば大金を得られますし、荷物にもならなかったので、二人はありがたく受け取ります。
残された時間は約1年です。運を天に任せていては間に合わないかもしれません。
少しでも効率よく勇者を捜し出すには、情報が必要です。
そこで二人が向かう最初の地は、野薔薇ノ王国から最も近い街、城塞都市コンゴウと決まります。
旅路の先に待つのは一体何でしょう?
王国絶滅まで、あと300と64日!(テキトウ)
猿丸よ、カワミドリよ行け! 野薔薇ノ王国の未来をかけて!