14-2 王国の武力組織 ~王宮戦士団2~ カワミドリ
それでは早速、続きを書くとしましょう。
このオトギワルドでは、おおよそ百年に一度くらいの割合で魔王が現れ、人類に挑戦してくるのだそうです。
もちろん、魔王の野望は勇者によって打ち砕かれます。そうでないと人類の歴史はとっくに終わってますものね。
すると単純計算で、百年に一度の割合で勇者が現れることになるわけですが、実際にはもっと沢山います。
何故ならオトギワルドでは、魔王を倒すだけが勇者では無いからです。
分かりやすく例えるなら、アイドルと同じです。
………いや、ベル妖精の貴方にはむしろ分かりにくい例えでしょうか?
でも他に思いつかないので、アイドル例えで続けます。
魔王を倒して世界を救う勇者は正にスーパースター。これは国民的アイドルに例えられるでしょう。
世界的に知られないまでも、地域限定で大活躍する勇者もいます。これはご当地アイドルに例えられますね。
更にアイドルの卵、元アイドル、そして地下アイドルと、アイドルにも様々います。
同様に、勇者の卵、元勇者、そして地下勇者と、勇者にも様々いるのです。
世界を救世したスーパースター勇者や、地域密着型のご当地勇者が、場末の森の奧に来てくれるとは思えません。
ですが覚醒したばかりの勇者の卵や、現役を退いた元勇者、そして世間的知名度の低い地下勇者なら、あるいは……。
しかし、問題は山積みでした。
まずは時間です。王国滅亡の予言があり、猶予は長くても1年が限界だと言われていました。
次に予算です。当時の王国は貧しく、確実性の低い計画に割ける予算なんてありませんでした。
そして何処に向かうかです。風の便りを信じて直接出向いて確かめるしかありませんでした。
何よりの問題は、誰がスカウトに行くかでした。
勇者を説得するなら、野薔薇ノ民の乙女が向かうべきです。彼女達の女神の美貌や魅了の力を説得に発揮すれば、如何なる勇者もイチコロでしょう。(ただし男に限る)
ですが彼女達の美貌は諸刃の剣です。旅の途中で野盗や人狩りを引きつけてしまうでしょう。拐かされ、弄ばれ、その先にあるのは惨めな死。野薔薇ノ民にとって、この世界はとても恐ろしく、残酷でした。
そんな中、「私が行きます」と手を挙げる者がいます。女王陛下に計画を具申したお付きのメイドでした。
彼女こそがカワミドリです。このエピソードにおける『主人公』と言ってさし支えないでしょう。
カワミドリ。
女性名としては随分変わった名前ですが、元は多年草の一種で、薬草にも使われる植物です。
ちなみに花言葉は「最後の希望」です。名付け親は一体何を考えていたのやら。
意味深な名前を付けられた彼女は、幼い頃から自分が最後の希望になると信じていたらしく、「今がその時だ!」と確信したのだとか。
もちろん、カワミドリは考え無しに志願したわけではありません。彼女にはこの任務に相応しい特殊能力があったのです。
ここで訂正させて下さい。
前回の~王宮戦士団1~の最後にて、『メイドの名はカワミドリ。コーガイガの元下忍、猿丸の曾孫であった』と書きましたが、正確には曾孫ではなく、末娘でした。
かつての下忍猿丸は、20人もの美しき妻をめとり、30人もの子宝に恵まれます。そして最後に生まれた末娘がカワミドリでした。
彼女は猿丸から一つだけシノビの能力を受け継ぎます。隠密能力です。
野薔薇ノ乙女なら決して隠せない魅了の力を、カワミドリは完全に隠しきり、ただの娘のフリが出来るのです。
更に、気配すらも隠せるため、かくれんぼで見つけられた事はただの一度もありません。
カワミドリは「この能力がきっと役に立ちます」と進言します。
その熱意に折れた女王陛下は、条件付きで了承します。
女王陛下が付けた条件とは……
父親である猿丸を、彼女の旅のお供に付けることでした。
というわけで、早速続きが書けました。
一区切り付くまでこの調子が続くと良いのですが。