7-20 王国の武力組織 ~王宮戦士団1~ 迫る危機
・約400年前
50年もの時が流れた。
帝国に大きなトラウマを植え付けた"野薔薇ノ騎士団"も、若者にとっては遠い昔の伝説でしかない。
おまけに"野薔薇ノ王国"の場所を探ろうと、金持ちや奴隷商人が多額の賞金をかけてきた。
怖いもの知らずな若き冒険者は、金や名声欲しさに、次々と森に挑んだ。
その多くが森の怒りを買い、追い払われ、命を落とした。が、希に隠し砦まで辿り着いた者もいた。
男不足の王国にとって、若い男の訪問は神のお恵みだ。
何人もの美しい娘をはべらせ、丁重にもてなした。事情を話し、王国にとどまるよう懇願した。
多くの若者は娘達にメロメロとなり、はーれむに溺れたが、それを拒む者もいた。多分、ホモだったのだろう。仕方ないね。
しかし、隠し砦の場所はもちろんだが、内情を知られても王国の危機となる。王国の秘密は、決して外部に漏れてはならない。
王国を去る者の口を封じる為、具体的にどんな手を使ったかは伝えられていない。
魔法で記憶を改ざんしたかもしれないし、煙を浴びれば年寄りになる玉手箱を渡したかもしれない。
でもまあ、普通に考えれば暗殺だよな。殺して森に捨てれば、屍体は"掃除屋"が片付けてくれるわけだし。
そういえば、まだ書いてなかったな。
何故"野薔薇ノ王国"が、帝国の併合要求を拒み、頑なに独立を維持し続けているか。
それは"オーガ"の魔の手から"野薔薇ノ民"を護る為なのだ。
"オーガ"と聞いて何を連想するだろうか? ファンタジーものでは"鬼"の種族として扱われているように思う。
しかし、"グリム童話"に現れる"オーガ"は、人食いの怪物である。いかにも怪物な見た目のヤツもいるが、中には人間社会に溶け込んだ紳士然としたヤツもいる。
そして"オトギワルド"における"オーガ"は、世界を裏で支配する秘密結社の名称だ。
構成員は金持ちや各国の要職に就く者ばかり。当然、帝国にも多数紛れ込んでいる。
問題なのは、こいつらは儀式をする度、人を喰らうのだ。
軽めの儀式なら奴隷商人から生け贄を仕入れる。
重要な儀式だと高貴な血筋の生娘が必要との事で、貴族令嬢を拐かしたり、時には構成員に自分の娘を提供させたりする。
ならば極めて重要な儀式なら? 神の血を引く生娘が生け贄に相応しい。つまり、"野薔薇ノ民"だ!
その存在が知られて以来、"野薔薇ノ民"は、常に奴隷狩りの的だった。
性奴隷として売られるならまだマシだ。優しい旦那様に買われれば、幸せを掴む可能性だってあるかもしれない。
だけど食材として買われた先に、未来や希望の可能性なんてこれっぽっちも無い。
だから帝国の併合の誘いは拒むしか無く、移民の受け入れも慎重にならざる負えない。
結果として男不足は慢性化し、情報を漏らす者を抹殺してでも隠れ続けるしかなかったのだ。
こうして50年もの間、王国の秘密は守られた。しかし、それももう限界が近い。
"野薔薇ノ王国"の秘密を暴こうとする冒険者は、日に日に増えるばかり。
それを押さえるには、形だけでも"野薔薇ノ騎士団"を復活させ、帝国のトラウマを呼び覚ますのが一番だった。
しかし、偽装工作をするにしても、資金も人材も足りない。何より、偽装がばれた時の反動が怖かった。
複数に分けた隠れ里を今より更に分散させ、更に森の奧へと移住すれば、一時的には民を救えるかもしれない。しかし国としての体を失えば、民を護る力をも失う。
帝国の軍門に下れば、多くの民は救われるかもしれない。しかし一部の民は確実に"オーガ"の犠牲となる。大を救うために小の犠牲を見過ごすのか?
当時の女王陛下(多分、四代目か五代目だと思う)は、ずっと悩んでいた。
国母様(初代タレイア王妃)には無敵の騎士団があった。だけど騎士団が無くても、国母様なら国難を乗り切っただろう。
どう足掻いても絶望しか見えない現実に心を痛め、ついには病に倒れてしまう。
だかそこで思わぬ光明を見る。お付きのメイドが、思いもよらぬ提案をしたのだ。
「そうだ! そうですよ、王妃様!
騎士団を作れないなら、騎士団よりも強い人に護ってもらうんですよ!
我が国に勇者様をお招きしてはいかがでしょう♪」
メイドの名はカワミドリ。
コーガイガの元下忍、猿丸の曾孫であった。
申し訳ありません。9月末まで『死神腕の少年剣士』
https://ncode.syosetu.com/n2547fs/
を、全力で執筆する予定なものですから、しばらく更新が遅れます(><)
王宮戦士シロガネ君の物語は、同じくオトギワルドの野薔薇ノ王国を舞台にしております。
こちらも併せて読んでいただけましたら幸いです。m(__)m