1-12 夢の中にて 〜シャボン玉〜
「なんなんだよドチクショ~~~!!!」
思わず叫ぶが、声は音にならなかった。
ああもうっ! これで三度目だよ!
最初は視界ゼロの濃霧の中、足を滑らせて四メートル程の崖を滑り落ちた。
二度目は誰かに背中を押され、大樹の根元にあった大穴に転がり落ちた。
そして三度目だ。半円柱の長椅子に埋め込まれたかと思ったら、今は真っ暗闇を落下し続けている。
もう判ってるから! 私の人生が転落続きだって知ってるから! いいかげん勘弁してくれよ!
泣き叫んだところで落下は止まらない。もう何千メートルも落ち続けているような気がするが、底も見えない。
もしかして無限ループになっているのではないかと思った矢先、底から光る球体が近づいてきた。シャボン玉……か?
光るシャボン玉はどんどん大きくなり、視界一杯に広がったところで激突し………
気がつくと見知らぬ丘に立っていた。
此処は…何処だ?
しかし、辺りを見回そうにも身体は言うことをきかない。それどころか勝手に動き出していた。
私は丘にしゃがむと側に咲いていた花を摘み、急いで我が家へ帰ろうと走り出す。
……いや待て。今私は何を思った? 見知らぬ土地で我が家だって?
困惑する私を無視して、肉体は勝手に走り続ける。やがて一件の家に辿り着いた。
木造の洋風な家だったが、玄関のドアを明けると日本家屋のように段差があり、私はそこで靴を脱ぐ。
中に入ると赤ん坊をあやす女性がいた。とても若くて綺麗な人だった。
私は嬉しそうに近づくと、女性はとんでもなく巨大だと気付く。身の丈4メートルはあるだろうか。
……いや、違う。女性が巨大なのではない。私が、この身体が小さいのだ。
小さな私は女性に花を渡す。女性は多分「ありがとう」と言って花を受け取るが、赤ん坊をあやすので忙しく、ほとんど相手にしてくれなかった。
私は「遊びにいく」と言って家を出るが、次第に視界が歪んでいくのが判る。何度も手で拭うが、拭っても拭っても、また視界が歪む。
そして私は心の中で叫ぶのだった。「妹なんて嫌いだ」と。
その瞬間、シャボン玉が割れて、私は真っ暗闇に投げ出された。
今のは何だ? 子供の頃の記憶か? まるで実体験のように生々しかったが、私の記憶でないことは明らかだった。
若くて綺麗な女性……きっと彼女はお母さんだ。するとだいていた赤ちゃんが妹か?
お母さんがかまってくれなくて、拗ねちゃったのかな?
などと考えていると、次のシャボン玉が底から迫ってきた。
次のシャボン玉はどんどん大きくなり、視界一杯に広がったところで激突し………
気がつくと先ほどと同じ丘に立っていた。
君は…誰だ?
丘に座る私の側には、愛らしい女の子がいた。妹ちゃんだろうか?
彼女は丘に咲く花を集めて花冠を作っていた。私にプレゼントしてくれるつもりのようだ。とてもカワイイ。
年齢は十歳前後。目線が同じってことは私の身体も同じくらいの年齢なのだろう。
同世代? ってことは妹ちゃんじゃなくて、幼なじみちゃんか? いいなぁ。羨ましいなぁ。
だけど私は彼女にはまったく興味が無いらしく、遠くに見える山や森を見つめていた。
幼なじみちゃんは完成した花冠を私にかぶせると、突然キスを迫ってくる。
いや、幼い子にキスを迫られたからってときめいたりなんかしないぞ? ロリコンじゃないからな。…ホントだぞ。
だが、幼い身体の方は大変驚いたようで、ドギマギする様が十分のことのように伝わって来る。
女の子はキスを拒否されたことが不満のようで、私に不平をぶつけてくる。「いいでしょ、いいなずけなんだから…」
その瞬間、シャボン玉が割れて、私は再び真っ暗闇に投げ出された。
……………“いいなけつ”………だと?
ちくしょう! ガキンチョのくせに、くっそリア充かよっ!
しかもあんなに可愛い子を蔑ろにするとかっ! いや、まあ、十歳前後の男の子なら、わりかし普通の反応ではあるが。
誰かの記憶が詰まったシャボン玉…。まさか二つで終わるわけないよな。
三つ目はどんな記憶だ?
そう思って底を見ると、案の定シャボン玉が見つかる。
だけど先ほどとは光景が違っていた。無数のシャボン玉が迫っていたのだ。
どれも同じ大きさに見えるから、同じ高さで迫っているようだ。つまり選べる記憶は一つだけ。
しかしシャボン玉の外見からは中身が分からない。だったらどれでもいいかな?
考えてもしょうがない。真ん中のシャボン玉に突撃してやれ。
真ん中のシャボン玉はどんどん大きくなり、視界一杯に広がったところで激突し………
気がつくと暗い天井を眺めていた。
そうだ! 冒険だ!
私は見慣れた天井を見上げながら、その時が来るのを待っていた。
母と祖母の部屋から明かりが消え、しばらく待ってから、いよいよ計画を実行に移す。
寝巻から外出着に着替え、昼のうちに荷物を詰め込んでいたバッグを引っ張り出す。
準備は整い、後は自由への第一歩を踏み出すだけだ。
いよいよ今夜、自分試しの旅に出る。
私は今一度自分に問いかける。志半ばで倒れるかもしれない。二度と故郷に戻れないかもしれない。それでも良いのかと。
ああ、かまわないさ! このまま何もしないで何になる!
最後に、隣で眠る妹の頬に別れのキスをする。
母の愛をずっと独占していた我が妹。無垢な笑顔は愛おしくもあり、妬ましくもあった。だけどもうお別れだ。達者で暮らせよ。
私は窓を開けて飛び降りると、一目散に駆け出した。
そこでシャボン玉が割れ、私は三度真っ暗闇に投げ出された。
見上げると、残りの光るシャボン玉も次々と割れてゆき、完全な闇に戻る。
今の三つの記憶はなんだ?
分かる事は二点。同一人物の記憶であること。幼き頃から始まり、だんだん年を重ねているという事。
何となくだが、六歳頃、十歳頃、十四歳頃の記憶だと思われる。
だけど何で私はそんな記憶を? 誰だか知らない他人の過去を見せられたのだろう?
はっ?
気がつくと、私は四方が石壁に囲まれた穴を落下していた。
穴底には剣山のように、無数の槍が立てられていた。いくつか白骨死体もある。
落とし穴だった。
私は全てを察する。
この身体は罠にかかり、落とし穴の中に立てられた無数の槍に串刺しにされようとしていた。
さっき見た光るシャボン玉は、死を前にした瞬間に去来した、めくるめく過去の記憶。
いわゆる“走馬燈”ってやつだったのだ。
だけど過去の記憶が幼い頃しかない。ってことは、こいつは十六〜七歳くらいしか生きていないのに、死に直面しているのか。惨いな。若すぎる。
………ていうか、ちょっと待て!
もしかして私は、これから串刺しになる若者の苦痛を共有することになるんじゃないのか!?
ぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!! ヤメテヤメテヤメテ!! 痛いのはイヤなの〜〜〜っ!!
しかし予想していた衝撃は無く、槍は素通りして、気がつけば床上10センチの所で静止していた。
私の身体は、恐る恐る辺りを見回す。見たことのない広い空間だ。儀式を行う神殿のようだった。
私の床下には見たことのない魔法陣が描かれている。
人の気配を感じて正面を見ると、巫女服を着た娘がいた。
あからさまに大和撫子な、黒髪の美少女だった。年齢は十五〜六歳くらいだろうか。
憔悴しきった彼女は、私を見て涙ぐみ、それでも微笑みをたたえながら、こう言った。
「よくぞいらしてくださいました。勇者様…」と。
………ええっと。
メタッぽい話をしますけどいいですか? いいですよね!? 答えは聞いてない!!
何なんですかこの展開! ただでさえ謎が消化しきれなくてお腹いっぱいなのに、更に謎を生やすってどういうつもりなんですか!
美少女が出てくるのはいいですよ! 大歓迎ですよ! だけどね、せめてもう少し情報を整理してから出しましょうよ!
情報量が多すぎて私はもう、頭がフットーしそうだよおっっ!!
ちょっと今、久しぶりに勢いが出てきているので、あまりチェックせずに投稿しています。
文章が荒くて申し訳ありません。




