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7-16 王国の武力組織 〜野薔薇ノ憲兵団 前編〜

 2)野薔薇ノ憲兵団

 "憲兵団"と呼称されるようになったのは、実は百年ほど前なので、本当は最も新しい組織なのかもしれない。

 だがルーツを探ると、やはり建国前に溯る事となる。……とは言っても建国より数ヶ月前な程度だが。


 ・たった一人の憲兵 約500年前

 美しき容貌故に"人狩り"に狙われ、流浪の民となった"百姉妹村"のうら若き娘達。

 か弱き妹たちを護ろうと奮起したのが、長身でボーイッシュな15歳の娘だった。記録によると名前はメニッペ。"勇気ある雌馬"という意味らしい。

 失礼ながら『いなかっぺ大将』を連想してしまう名前だ。まあ実際、田舎娘なのだろうが。

 彼女は狩人の経験があり、弓やナイフの扱いに長けていた。メニッペがやらねば誰がやる?

 常に逃走する百姉妹の殿をつとめ、足跡を消し、罠を仕掛け、待ち伏せをして、そして"人狩り"を殺した。

 初めて人を殺した時は最悪だった。胃が何も受け付けず、しこたま吐いた。眠れなかった。肉を切り裂いた感触が忘れられず、震えが止まらなかった。

 だけど、可愛い妹たちを見て勇気を取り戻した。あの子達の笑顔のためなら、何度だって手を汚そう。

 メニッペの悲壮な決意。しかし、その決意は長くは続かなかった。

 ヨハネス王子と、猫の恰好をした凄腕の女剣士。頼もしい味方が合流してくれたのだ!


 二人は以前、"百姉妹村"の呪いからメニッペ達姉妹を救ってくれた英雄だった。

 しかし、呪いを解いたがために村は無防備となり、"人狩り"に狙われる事となってしまった。

 責任を感じていたヨハネス王子は、行き場の無い百姉妹を導き、タレイア姫に引き合わせる。


 百年の眠りから目覚めたタレイア姫は、ヨハネス王子と共に、王国の復興を望んでいた。

 しかし、才や財や器があっても、民がいなければ国は成り立たない。

 そこにヨハネス王子が、行き場所のない流浪の民を連れてきた。

 うら若き娘ばかりが百人。民にするには歪な構成だった。しかも男は王子ただ独り。予測される展開に頭が痛くなった。

 しかし選り好みしてはいられない。タレイア姫は、予測されるあらゆる可能性を受け入れ、百姉妹を民として暖かく迎えた。

 百姉妹はタレイア姫への忠誠を誓い、"野薔薇ノ民"となった。王家は復活し、"野薔薇ノ王国"が誕生した。


 王国と民の護りは"野薔薇ノ騎士団"が担う事となり、メニッペは「姉妹の死守」という重責から解放される。

 しかし環境の変化から、仲間内でもめ事が起きたり、幼い子にはメンタルケアが必要な子もいた。

 仲裁してくれたり、身近で支えてくれる存在が必要だ。

 姫や王子は国の運営で忙しく、騎士団もデリケートな問題は専門外。メニッペがやらねば誰がやる?

 "たった一人の憲兵"の役割は、むしろここからが本番だったのだ。



 ・憲兵再び 約450年前

「もしもの時は、メニッペを頼りなさい」

 それがタレイア王妃の遺言だった。


 ヨハネス王に続いてタレイア王妃も冥府へと旅立ち、王妃を追って"野薔薇ノ騎士団"も王国を去った。猫の剣士も行方は知れない。

 王妃と騎士団が、実力と恐怖によって帝国軍を撃退した。隠し砦に逃げ込み、息を潜めていれば、しばらくはは大丈夫だろう。

 しかし、王国に残された戦力は僅かで、民のほとんどは戦いを知らぬ娘達だ。兵を育てたくても不可能だった。

 敵の誰かに実情を知られ、避難場所を特定されれば、"野薔薇ノ王国"は終わりだ。

 国を失えば民はどうなる? 奴隷として生きるか、自害して果てるか、50年前のように流浪するしかない。

 どうすればいい? どうすれば民を護れる? そうすれば国を維持できるのだ?

 二代目達は途方に暮れていた。

 そんな彼らへの、タレイア王妃の遺言が「メニッペを頼りなさい」だった。


 かつて独りで"たった独りの憲兵"と呼ばれ、民から慕われていたメニッペは、60代半ばとなり、すでに引退していた。

 独りで深キ深キ森の結界の泉に住まい、時々"掃除屋"を狩りながら、のんびりと隠居生活をしているという。

 もちろん二代目達も彼女の頼もしさを知っている。メニッペが憲兵に復帰してくれるだけで、民は勇気を取り戻すだろう。

 だけど、今王国に必要なのは即戦力だ。それをメニッペに頼るのは酷ではないか?

 しかし……。タレイア王妃はウルトラ・スーパー・デラックス・クイーンだ。偉大なる我らが母に間違いはない。

 そこで二代目は、メニッペと特に仲の良かった末の王子を使者に立て、結界の泉へと向かわせる。


 結界の泉で独り隠居生活をしていたメニッペは、末の王子の突然の訪問に大喜び。

 息子の帰省を喜ぶ母のように、食べきれない量の御馳走を振る舞う。

 だが……本題に入ると、流石のメニッペも途方に暮れた。

「もはや貴方しか頼れるものはいません。お願いですメニッペ。憲兵の長として復帰し、王国を護ってください!」

 助けたいのは山々だが、今さら復帰したところで、何が出来よう。

「ですが、これは母の遺言なのです! もしもの時は、貴方を頼れと!」

 末の王子の言葉にメニッペは驚き、ブツブツと独り言を呟きながら、考え始める。

 王妃は『あの時』、すでにこの事態を見通していた? だとしたら……そう言う事か? 王妃はそうしろと?

「分かりました王子。このメニッペ、最後のご奉公させていただきます」

 

 次の日、末の王子はメニッペを隠し砦に連れ帰る。

 そしてメニッペは、異様な姿をした援軍を引き連れていた。

 竹で作った円錐状の帽子を顔を隠し、わらで編んだ外套で身を包み、わらで作った履き物を履いた、20人の男達。

 隠れ里"コーガイガ"の忍び衆だった。

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