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7-15 王国の武力組織 〜野薔薇ノ騎士団 後編〜

"野薔薇ノ騎士団"編。後編の始まり始まり。

 巫女姫(女神)から様々な祝福を授かり、ウルトラ・スーパー・デラックス・プリンセスと化したタレイア姫。

 彼女は次の日から言葉を喋り始め、一年ほどで乳母や家庭教師の知識を凌駕した。

 次の年には国中の本という本を読み尽くし、城下町に出ては民の声を聞き、役人の横暴をたしなめ、様々な改革を始める。

 三歳になった頃には"おさな名君"としてタレイア姫の名は国内外に広まり、その知性と美貌を欲して求婚を申し込む王子は後を絶たなかった。

(ロリコンどころかペドフィリアかよっ!!)

 継母にその美貌を妬まれた白雪姫ですら七歳だったから、いかにアフロディーテの美の祝福が凄まじいものだったかが分かる。

 まるで生き急ぐかのように王国の改革を続けるタレイア姫。一体何故なのか?

 思うに、姫は自分の運命を知っていたのだ。

 15歳の誕生日に針で指を突き、百年の眠りにつくという運命からは、決して逃れられないと。

 無事に眠りから覚めても、知り合いが誰もいないのでは死んだも同然だ。

 だから15歳が自分の寿命だと割り切り、自分の出来る事を精一杯やっていたのだろう。

 そんな幼いタレイア姫にとっての唯一の救いが、実は"野薔薇ノ騎士団"だった。

 彼らはタレイア姫が呼べば必ず現れ、絶対的な忠誠心で仕える。そして決して死ぬ事もない。すでに死んでるからね。

 だからお伴には必ず騎士団を連れていた。護衛任務は完璧にこなしたし、姫の命とあらば、力仕事もしたし、遊び相手にもなった。

 ただ一点、問題があった。中の人から死臭が漂うのだ。

 野薔薇の花をイメージした白い全身鎧で、見た目は誤魔化せるのだが、漏れ出る臭いまでは誤魔化せない。

 そこでタレイア姫は野薔薇から大量の香水を作らせ、騎士一人一人に振りかけて対応した。

 タレイア姫の好みにカスタマイズされた"野薔薇ノ騎士団"は、どこまでも姫の忠実な兵だった。

 15歳の誕生日を翌日に控えた、14歳最後の日。

 別れを告げるタレイア姫に、"野薔薇ノ騎士団"は改めて忠誠を誓う。

「我ら騎士団。百年後であろうと二百年後であろうと、お呼びとあらば、即参上いたします」


 そして時は流れ、タレイア姫に目覚めの時が来た。

 "野薔薇ノ騎士団"にも百年以上ぶりにお呼びがかかる。

 喜び勇んで馳せ参じる騎士団。

 だが、姫の傍らには見かけない顔の若造がいた。

 タレイア姫の運命人、流浪の王子ヨハネスだった……。

 まあ、騎士団は全員男だし、父親視点でも、友達以上恋人未満視点でも、ヨハネス王子の存在に不快感を覚えるのは仕方ないだろう。

 ヨハネス王子が王となった後も、騎士団とは仲違いをしたままだったようだ。

 

 "野薔薇ノ騎士団"に護られながら、"野薔薇ノ王国"は少しずつ大きくなっていった。

 しかし、建国から50年。ヨハネス王はついに老衰で倒れ、帰らぬ人となった。

 ヨハネス王を弔いながら、タレイア王妃は考える。

 自分も年を取った。王の元へ旅立つ日も遠くない。

 だけど私が死ねば、"野薔薇ノ騎士団"も後に続くだろう。

 騎士団の加護を失えば、残された国はどうなる? 残された民はどうなる? 残された子供達は?

 私が生きている間に、憂いは絶たねば………。

 

 この時期、大陸のあちこちで"人狩り"が暴れ回り、小さな村は次々と滅ぼされ、捕まった人々は奴隷商人に売り飛ばされていた。

 そこで帝国の新皇帝は「人道的観点から周辺国を人狩りから護る」と称して、周辺国に軍隊を派遣する。

 彼の慈愛に満ちた演説は賞賛され、"人道皇帝"と呼ばれ称えられるが、実はとんでもないマッチポンプだった。

 "人狩り"の正体は帝国の工作員であり、襲撃は抵抗力を試すための威力偵察に過ぎなかったのだ。

 派遣した軍隊はそのまま居座り、難癖をつけて国家転覆を謀り、帝国の一部にする。それが"人道皇帝"のもくろみだった。

 そして"人狩り"は、"野薔薇ノ王国"近辺にも多数出没していた。

 騎士団によってことごとく撃破していたが、タレイア王妃の温情により命までは取らず、犯罪者として帝国に引き渡していた。

 "人道皇帝"はタレイア王妃の温情を"甘さ"だと、優しさを"弱さ"だと決めつけ、「このままでは"野薔薇ノ王国"が危ない」と"人道部隊"の派遣を決定。

 “絶対防衛都市コンゴウ”から一万もの軍勢が出立。王国へと迫っていた。


 もはや……これまでか……


 タレイア王妃は、やっとの思いで築いた小さな王城と町の放棄を決断。王子達に民を託し、もしものために用意していた隠れ里に避難させる。

 そして王妃は自ら戦闘指揮を取るため、"野薔薇ノ騎士団"数百騎と共に王城に籠城した。

 野戦が得意な騎士団を敢えて籠城させたのは、野薔薇ノ民の避難が完了するまでの時間稼ぎのためだった。

 もはや正体を隠さなくなった"人道部隊"の攻撃により、ヨハネス王や子供達との数々の思い出に焼け落ちてゆく。

 戦火の中、むせび泣くタレイア王妃。それは、一切の情けを捨てるための儀式だったのかもしれない。

 やがて森から狼煙が上がる。避難完了の合図だ。


 時が来た。


 半壊していた正面門が開かれ、"野薔薇ノ騎士団"が飛び出した。先頭を駆けるのは、なんとタレイア王妃!

 アテナが授けた"武"の祝福は伊達ではない。齢60を越える老女が馬を駆り、鬼気迫る槍裁きで敵兵を次々と討ち取ってゆく。

 後に続く騎士団も負けてはいない。タレイア王妃の側面に張り付き、横から迫る敵を決して近づけさせない。

 "野薔薇ノ騎士団"は"えん月"と呼ばれる陣形で"人道部隊"の正面から切り込んでいった。

 しかし、いくら精鋭でもたかが数百騎である。一万もの軍勢に敵うものか。

 これだけの軍勢を率いる大将ならば、誰もが慢心するだろう。

 ところが、違うのだ。


「ええい! 状況はどうなっておる! 伝令はまだ戻らぬのか!」

 野戦が始まって一時間、一向に勝利の報が届かない本陣で、大将は苛立ちを隠せずにいた。

 前衛の戦況の確認のため、伝令を何人も送り込んだというのに、一人も戻って来ないのだ。

 しびれを切らしていたところで、ようやく一人戻って来る。

 伝令Aの報告は意外なものだった。

「ご注進! 敵に援軍が加わり、数が倍に増えています!」

 援軍だと!? 減るどころか増えているだと!? 一体どこから来たというのか。

 続いて戻って来た伝令Bは、驚くべき報告をする。

「ご注進! 援軍の正体はアンデッド! 敵に殺された我らの兵です!」

 なるほど、それは予想外と大将は笑った。

 "屍人使い"を雇ったか。それなら確かに殺した敵の数だけ味方が作れる。

 しかし、単純な動きしか出来ないアンデッドを何体作ったところで、肉盾にするのが精々だ。

 ゾンビだろうが、骸骨だろうが、熟練兵士の敵ではない。

「くっくっくっ、下賤な"屍人使い"を雇うとは、なんと卑しき国か。やはり我が帝国が支配し、美女共を教育せねばなるまいな」

「我が国を愚弄なさりますか、御大将殿?」

 突然の、戦場には場違いな女性の声。大将がふり向くと、伝令Cの後ろに、鎧姿の老婦人が立っていた。

 伝令Cは、その場に膝を付くと、報告を始める。

「ご、ご注進! "野薔薇ノ王国"の王妃タレイア様が、御大将との会見を望んでおられます!!」

 兜を脱ぐと、確かに老婦人の顔に見覚えがある。

「おお、正に貴方はタレイア王妃。お懐かしゅうございます。二十年前に御尊顔を拝した事があります。当時、ワタクシめは一兵卒に過ぎませんでした。それで……此度は如何なる御用向きで?」

 これだけ抵抗しておいて、今さら命乞いとも思えぬ。大将首を取りに乗り込むにしても、王妃自らがやるだろうか?

 疑心暗鬼に駆られながら、大将はタレイア王妃の返事を待つ。

「時間がありません。率直に申しましょう。我が王国と帝国の間で、停戦協定を結びたいのです」

「は? 停戦協定?」

「貴方にも大将としての立場があるのは重々理解しています。故に、降伏勧告はいたしません。停戦協定で妥協いたします」 

「おっしゃる意味が……分かりませんが……」

「分かりませんか? 貴方を敗戦の将にしたくないと申しているのです。このままでは貴方の軍は、我が騎士団の攻撃で全滅ですよ?」

「たわけた事を! 我が精鋭がアンデッドごときに破れるとでも思うたかっ!」

「ふう、どうやら貴方ではお話にならないようですね。分かりました。この話は"コンゴウ"の領主あたりに持っていくとしましょう。ごきげんよう、大将殿。正々堂々、最後の一兵卒まで殺してさし上げます」

 そう言うとマントを翻し、颯爽と去ってゆくタレイア王妃。老女とは思えぬ凛々しさに、大将は思わず見とれてしまう。

「はっ! なっ、何をしとるか! 者ども! その田舎女王を引っ捕らえよ!」

 大将の叫び声に、護衛達が慌ててタレイア王妃を追う。ところが思わぬ事になる。三人の伝令が王妃をかばって立ちふさがったのだ。

「貴様ら! まさか裏切ったのか!?」

「あっしら、御大将の事は嫌いじゃないんですぜ。ですがね、"野薔薇ノ騎士団"は、死んだあっしらを仲間にしてくれるって言うんでさ。なもんであっしら、タレイア陛下に絶対の忠誠を誓っちまったんですよ。へへへ、すいやせん♪」

 笑顔で答える伝令は、やけに顔色が悪かった。よく見ると、腹から血を滴らせている。

 三人の伝令はアンデッドになっていた。


 屍人使いのアンデッドと"野薔薇ノ騎士団"には、決定的な違いがある。

 屍人使いは屍体を人形のように操るだけ。操るのが屍体ってだけで、基本的にはゴーレム使いと大して変わらない。

 一方"野薔薇ノ騎士団"は、冥府の住民だ。身体は腐っても心までは腐らない。知性もあれば誇りもある。

 ただ、人を殺す事で仲間を増やす点は同じため、タレイア王妃は"幼名君"の時代から騎士団には殺生を固く禁じていた。

 そして民を怖がらせないよう、正体を徹底的に隠し通した。

 だけど、それももう終わり。国を、子供を、そして民を護るため、タレイア王妃は甘さを捨て、修羅となった。


 結局大将は、兵に徹底抗戦を命じながら、真っ先に逃走。

 それに気付いた兵達が慌てて敗走するも、"野薔薇ノ騎士団"は9千にまで膨れあがっていた。

 あくまで停戦協定を求めるタレイア王妃は、9千もの軍勢と共に帝国の南の護りの要、“絶対防衛都市コンゴウ”へ進軍を開始する。

 その途中、非戦闘員や戦意を失った兵隊に遭遇しても目もくれず、むしろ困っている人を積極的に助けた。

 死してなお騎士道を貫く彼らに村人は感動し、子供達は声援を送ったそうだ。

 “絶対防衛都市コンゴウ”は、ひたすら籠城を続けた。迂闊に出撃させれば、兵を失うばかりか敵を増やしてしまうのだから、賢明な判断と言える。

 しかし籠城となると、有利なのは騎士団だった。何しろすでに死んでいる。兵糧は不要だし、疲れないし、眠くもならない。

 むしろ問題はタレイア王妃だった。自分の寿命がいつ尽きるか分からない。時間との戦いだ。

 もし停戦協定を結ぶ前に自分が死ねば、騎士団は消え、帝国の横暴は止められず、民にも危険が迫るだろう。

 タレイア王妃の焦りはいかほどだっただろう。

 ところが、思わぬところから助け船が来た。

 悪政を敷いていた"人道帝王"が突然自然死し、"人道部隊"作戦を指揮していた帝王一派がまとめて事故死したのだ。

 帝国は戦う意味のなくなった王国と和睦しようと使者を送るが、タレイア王妃は冷徹に「停戦協定のみで良い」と断り、使者を震え上がらせた。

 和睦となると使者を国内に迎え入れなければならない。しかし、タレイアの寿命は尽きかけており、自分が死ねば騎士団も消える。

 "野薔薇ノ王国"が張り子のトラと知れば、帝国は迷わず協定を破り、侵攻するだろう。

 国と民を護るためには、恐怖で威嚇し、近寄らせないようにするしかない。その為の容赦ない殺戮と死者の支配だった。


 停戦協定が無事結ばれると、タレイア王妃は、味方に付けた9千もの帝国兵を"解放"した。

「奪った命は戻せません。ですが冥府に旅立つには、今少し時間があります。

 せめて残された僅かな時間、家族や友とお過ごしなさい。別れを惜しみなさい」

 それがタレイア王妃に出来る、せめてもの償いだった。


 それから一年後、家族や民に見守られながら王妃も旅立った。愛するヨハネス王が待つ冥府へと。

 しかし"野薔薇ノ騎士団"の忠誠は、王妃が死すとも変わらない。

 数百もの騎士団は、タレイア王妃の魂を護衛するため、共に冥府へ旅立つのだった。

あともう少しで5000文字。思いのほか超大作になりました。

おとぎ話では語られない、野バラ姫の幼少期と老年期の物語。

執筆中は漠然と大河ドラマをイメージしてましたです。

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