7-14 王国の武力組織 〜野薔薇ノ騎士団 前編〜
ここからノバランジャーズの大活躍(?)が始まる……のだが、その前に、野薔薇ノ王国の武力組織について記述しておこう。
ここからの展開に関係するので脱線ではない。が、長くなると思うので、時間の無い人は読み飛ばしても構わない。
平時には、国土拡大を目論む帝国の併合要求を、丁重に断り、
有事には、百年周期で現れる魔王軍と対峙して、東の護りの盾となる。
建国より500年。小国でありながら"野薔薇ノ王国"が独立を維持できた理由は、大きく分けて二つある。
一つは、魔王軍の拠点"魔王城"から、砂漠を隔てて最も近くにある国…という特殊な地理条件。
もう一つは、魔王軍蜂起の際は最前戦となるため、小国とは思えぬ強大な武力組織を保有している事だ。
"野薔薇ノ王国"が現在保有している武力組織は全部で七つ。
そのうち三組織が主に"野薔薇ノ民"で構成され、二組織+派遣が主に"外国人"で構成され、一組織が"それ以外"で構成されている。
組織名と設立した時期は以下の通り。
1)野薔薇ノ騎士団 600年以上前
2)野薔薇ノ憲兵団 約500年前
3)野薔薇ノ近衛団 約460年前
4)王宮戦士団 約400年前
5)野薔薇ノ公安団 約350年前
6)派遣憲兵衆 約350年前
7)王宮魔道士 約200年前
1)野薔薇ノ騎士団 600年以上前
王国唯一の軍隊であり、最も古く、最も謎めいた組織。
建国500年なのに、国より歴史が長いとはこれいかにっ!! と激しく突っ込まれそうだが、実はこの騎士団、建国の母たる初代タレイア妃の私兵なのだ。
時代は600年以上前。"野バラ姫"こと初代タレイア姫が誕生する。
長らく子供に恵まれなかった王と王妃は大いに喜び、国をあげての祝賀会を開き、近隣の神殿に仕える巫女姫達も招待する。
童話では、魔女だったり仙女だったりする謎の女性達だが、オトギワルドの史実によると巫女姫となる。
巫女姫には神殿での宗教的なお勤め以外にもう一つ、特殊な役割がある。
信仰する神が女神である場合、女神が憑依できるよう、その身を依り代として差し出すのだ。
神々が直接地上に降臨すると大惨事を引き起こしてしまうため、巫女姫がアバター的な役割を引き受けているらしい。
つまり、祝賀会に集まった巫女姫達は、実質的には女神そのものであった。
祝賀会に招待された巫女姫(実質的女神)達は、生まれたばかりのタレイア姫に次々と祝福を授けていく。
アフロディーテ神殿の巫女姫は"美"を。
アテナ神殿の巫女姫は"武"を。
ヘスティア神殿の巫女姫は"おっぱい紐"……じゃなくて、温かい家庭の象徴たる"炉"を。
……といった具合に、巫女姫(女神)達は、それぞれの得意分野を祝福として授けていくのだが、
関係者は冷や汗をかきながら自体を見守っていたという。
実は女神達、タレイア姫とは関係ないところで、互いの面子を賭けて鞘当てをしていたのだ。
初っぱなから、人には過ぎた美貌を授けてしまうアフロディーテ。
たちまちタレイア姫は、あらゆる男性を魅了するエロカワ赤ちゃんにっ!!
「皆さんは、どのような祝福を授けますの? ワタクシ、と~っても楽しみ♪」
と言わんばかりに挑発的な笑みを浮かべるアフロディーテに、ぐぬぬっとなる巫女姫達。
あんなクソビッチと張り合って勝つ必要なんて無い。だけど、あんなクソビッチに負けるわけにはいかない!
ヘラが、アテナが、対抗意識丸出しで、人には過ぎた祝福を授けていく。
オリュンポス12柱に含まれていない女神達は、対抗意識など無かったが、悲しいかな女神間にも同調圧力があった。
上位神に合わせるため、身の丈以上の祝福を授けざる負えなくなってしまう。悲しい。
そしてペルセポネの番が来た。
実は、実際に招待されていたのは、豊穣の女神デメテルの巫女姫だった。
しかしデメテルが直前に都合が付かなくなり、代わりに娘のペルセポネに出てもらう事にしたのだ。
なので、巫女姫はデメテル神殿勤めだが、中の女神はペルセポネという、少々特殊な形での出席である。
母デメテルに及ばないまでも、彼女も豊穣の女神である。母に代わって"豊穣"を授けるつもりだった。
そこでアフロディーテの横槍が入る。
「あらあらあら? まさか貴方、豊穣を授けるつもりなのぉ? そんな事したら、貴方の可愛い後輩クロリスちゃん♪ 立つ瀬が無くなっちゃうんじゃないかしらぁ?」
花の女神クロリス。もともとは花のニュンペーであったが、西風の神ゼピュロスに見初められ、妻となって花の女神の地位を得た。
直接的な繋がりは無いが、クロリスも豊穣の系譜であり、ペルセポネにとっては可愛い後輩となる。
巫女姫を招待したタレイア姫の国は、以前からクロリスを国教と定め、信仰してきた希有な王国であり、クロリス自身も主催者側に立って女神達を一生懸命持てなしていた。
ここで上位互換の豊穣を授ければ、クロリスちゃんの立場が無くなり、私はいぢわるな先輩になってしまうのだろうか?
だけど私は母デメテルの代理として出席した。母が"豊穣"を授けるであろう事は、クロリスだって承知していたはず。
だったら迷う事なんて………
しかしアフロディーテの美しくも醜い、見下すような微笑みを見て考えを変える。
ああ、分かったよ! あんたの挑発に乗ってやんよ!
「ペルセポネの名において、タレイア姫に絶対の服従を誓う、不滅の騎士団を授けましょう!」
その言葉と共に、城の周りには数百もの騎馬隊が現れる。
これが"野薔薇ノ騎士団"誕生の瞬間だった。
そうそう。大事な事を書き忘れていた。
デメテルの娘にして豊穣の女神であるペルセポネには、もう一つの顔がある。
彼女は冥府神王ハデスの妻にして、冥界の女王という顔だ。
つまり"野薔薇ノ騎士団"とは、戦場で散り、冥府で眠る戦士達で構成された、死の軍隊なのだ。
死者はハデスの領分であり、死者を安易に地上に出す事も許されない。
ハデスはクソビッチの挑発に乗ってしまった妻に、怒り心頭だったのではないだろうか。
しかし、そこは惚れた弱み。しかもハデスから見れば年の離れた幼妻だ。
「今度やったらメッだからね」で済ましていたかもしれない。
ああ、終わらなかったよ(><)
次回、"野薔薇ノ騎士団"後編に続くんじゃ……