7-12 移籍召喚の件 ~その後のシュウ君~
こちら側の話を書き出すと長くなるので、先にシュウ君の"その後"について記そう。
実は"野薔薇ノ王国"に保護された後も、私は度々シュウ君目線での夢を見ている。
それらは断片的で、肝心なところが分からずじまい。まるで連続ドラマを何話か飛ばしながら観ているような感じだ。
それでも、情報をつなぎ合わせたり、進展していく人間関係から、ある程度は把握できる。
どうしても足りないところは想像力で補っているので、細かい部分は事実と違うかもしれない。そこはご了承いただきたい。
闇の軍勢を退けたシュウ君だったが、気が緩んだ瞬間にぶっ倒れ、丸二日眠り続ける。
禁忌の遺跡で24時間、地獄のような体験をした直後だったのだから、それも無理からぬ事だろう。
(シュウ君の意識が私の中にやってきたのはこの時期だと思われる)
目を覚ますと、そこは古い日本家屋。寝巻(パジャマではなく、着物の方)を着せられ、布団に寝かされていた。
最初に見かけたのは、姉と弟の兄弟。セーラー服を着た眼鏡のお姉さんは、シュウ君に見とれ、真っ赤な顔をして固まってしまう。
無理もない。シュウ君の容姿はAPP18。正に神格レベルの美しさだからな。
そんな姉に呆れながらも「おはよう! ゆうしゃ兄ちゃん!」と元気に挨拶する、8歳くらいの幼い少年。
彼こそが勇者候補第四位。この世界を背負わなければならない、未来の勇者だった。
軽い食事をもらった後、シュウ君はご隠居の部屋へと通され、これまでの経緯の説明を受ける。
この国は、闇の勢力から護るために勇者の力が必要。
しかし上位候補3名が、突如行方不明に。第四位以降はまだ幼く、勇者の職務は荷が重すぎる。
故に、"中継ぎ勇者"として異世界から召喚されたのが、シュウ君なのだと。
そしてご隠居は改めてシュウ君に依頼する。孫が成長するまでの数年間、中継ぎをしてほしいと。
シュウ君は二つ返事で引き受ける。たとえ中継ぎでも、夢に見続けてきた本物の勇者だ。勇者として生き、死ねるなら本望。
さあ、次の戦いはいつだ? どんな化け物がやって来る? どいつもこいつもぶっ倒してやるぜ!
期待に胸を膨らませるシュウ君に、ご隠居は申し訳なさそうに答える。
「実はのう、闇の軍勢のほとんどは、昨夜のうちにお前さんが倒してしまったのでな。あそこまで派手な戦いはもう無いと思うぞ」
先日の激戦は、闇の勢力にとっても賭けだった。勇者さえいなければ、この世界は手に入れたも同然だからな。
だから、虎の子の大怪獣まで持ちだし、闇は全勢力で神殿を襲撃した。
ところがシュウ君が無事に召喚された上に、シュウ君と木刀の相性は抜群で、ほとんどの敵を返り討ちにしてしまったのだ。
とはいえ油断は出来ない、より狡猾に、より密やかに、侵略をしてくるだろう。
故に、シュウ君の新たな任務は、「勇者候補第四位の護衛&闇の勢力が引き起こす怪異や事件の解決」となる。
眼鏡のお姉さんが通う高校に、転校生として転入。特殊能力を持った新たな仲間と共に、怪異に立ち向かうのだ!
こうしてシュウ君の物語は、自分試しの冒険譚から、異世界の高校を舞台にした異能バトルものへと変わるわけだが……
とある致命的な問題が発覚して、舞台を学園に移すのは、しばらくお預けとなる。
シュウ君は、読み書きが出来なかったのだっ!!!!
これが発覚して以降、眼鏡のお姉さんはシュウ君を「残念なイケメン」として哀れむようになる。
それでもシュウ君に見つめられると顔を真っ赤にして固まってしまうので、弟くんは「残念なお姉ちゃん」と哀れむように。
こうしてシュウ君の、読み書きの特訓が始まった!!(メタルダーのナレーション風に言おう! ウィンスペクターでもいいぞ!)
ちなみに先生は弟くんだ!
なんだかアマゾンライダーとまさひこ君の関係を思い出すな。まさひこ君にもお姉ちゃんいたし。
弟くんは、闇の勢力に狙われる危険があったため、外出を禁じられ、学校にも行かせてもらえず、独りぼっちで退屈していた。
だから弟くんにとってシュウ君は恰好の遊び相手となる。
女だらけの環境で育ったシュウ君にしても、弟くんの存在はとても新鮮で、彼に「シュウ兄ちゃん」と呼ばれる事が嬉しいようだ。
「たまには闇の勢力の事も思い出してあげてください」って感じで、穏やかな日常が繰り広げられる中、
一つ屋根の下で暮らす眼鏡お姉ちゃんとの関係は進展するのか? 巫女姫ちゃんの再登場は? 高校にはどんな仲間が待っている?
ちなみにシュウ君、本気で"ワタシダ・シュウ"と名乗る事にしたらしい。
いや、まあ、本人が気に入ってるならいいんだけど。
結局、シュウ君の本名は分からずじまいだ。
公安情報部も、候補十人の中から誰が移籍召喚したかを隠匿するため、名前は公開していない。
残された家族に危害が及ぶ危険を考慮したとの事だけど……
シュウ君達と日本、そしてガングワルドの未来に幸あらん事を。