7-8 脱線 ~エージェントのABC~
ここまで読んだ人は、エージェント達の話が具体的なことに疑念を持たれるかもしれない。
お前が現場にいたわけじゃないのにおかしいだろ! 盛ってんじゃね? 創作じゃね?
その疑念は至極もっともなので、種明かしをしよう。
実はこれ、エージェントのお三方から直接聞いた体験談なのだ。盛るどころか、かなり要約してたりする。
お三方は今、万が一の事があってはならぬと、私の護衛をしている。
とは言っても、ここは首都ノイバラ。野薔薇ノ王国の中枢だ。しかも警備のしやすい高級ホテルの中。襲撃の危険はほとんど無い。
護衛というのは建前で、本当の任務は、私の監視及び観察なのだろう。
何しろ私は、イレギュラーな形で召喚された、得体の知れない謎のガングビトだからな。監視の目が光るのも当然だ。
結果的にシュウ君を含め十人もの青年を失い、代わりに得たのがこんなしょぼくれたオッサンで、しかも神様からは「期待するな」だもんな。
いくら貴重な異世界の男でも、心配になるだろう。
王国に害をなす敵対勢力の工作員ではないか?
女子供をなぶり殺すことに快楽を得る変態性癖の持ち主ではないか?
実はホモや男色だったりしたらどうしよう?
そんな疑いの目で見ていたのかもしれない。
しかし、最初の頃こそ不安げに給仕していたメイドさん達も、この五日間で私が人畜無害だと理解したようで、愛らしく微笑むようになった。
ただ、ホモの疑いは晴れていない。
「愛想笑いを浮かべるばかりで、ちっともなびいてくれない」というのが理由だ。メイドさんに直接言われたから間違いない。
器量好しの娘さん達のプライドを傷つけてしまったのは申し訳ないが、私はエロゲ主人公じゃない。
あからさまなハニートラップに、ルパンダイブなんて出来るものか。
ただ、もっと若かったら、エロい誘惑に勝てなかったかもしれない。
もし10年若かったら……いや、5年……それとも1年………
白状しよう。あと1ヶ月前若かったらアウトだったと思う。
あの子達の"女神の魅了"はヤバイな。人の身でどこまで耐えられるだろう?
「エージェントの話を書くために脱線したのに、更に脱線してどうする!」と突っ込まれそうだが、実は脱線ではない。
このメイドさんの中に、エージェントのお三方もいるのだ。
ここまで書けば、分かるだろう。
三人のエージェントは皆、男の娘だったのだ!
………ごめん。嘘を書いた。
圧倒的男不足であるこの国の実情を踏まえれば、まずあり得ない。
ただ、男子は男子でイケメンぞろいだから、女装しても違和感無いだろうな。
三人のエージェントは皆、うら若き娘さんである。少なくとも見た目は年頃に見える。
三人は護衛任務遂行のため、私の身の回りの世話をするメイドさん達の中に混ざっていたと言うわけだ。
主に夜勤を担当しているらしい。
名前と年齢を聞いても「国家最高機密です♪」と言って教えてくれないので、勝手に名前を付ける事にした。
ハナナちゃんを思わせる元気系エージェントはA子。
大人びたお嬢様系エージェントはB子。
ロリッ気のある小柄なエージェントはC子だ。
プロジェクト……いや、なんでもない。
ネットが出来なくて退屈な夜を過ごしていた私に、"昔話"として話してくれたのだが、
A子ちゃんの話は淡々と、
B子ちゃんの話はミステリー仕立て、
そしてC子ちゃんの話はドラマチックといった感じだった。
特にC子ちゃんは、候補者第三位の彼を目の前で殺され、救えなかった事を、今なお引きずっていた。
第三位の彼が力無く倒れる辺りから涙が止まらず、何度も話が中断話した。
私もハナナちゃんを助けられなかったら、心が死んでいただろう。彼女の苦しみは痛いほど分かる。
「貴方様のお命は、我が身に代えてお守りします」と、笑顔で話す彼女の目は真剣だった。
A子ちゃんに言わせると、今回の任務は「休暇みたいなもの」なのだそうだ。
護衛の必要の無い場所での護衛任務。確かに楽ちんだよな。
任務の失敗で思い詰めていたC子ちゃん(仇討ちするため職を辞して野に下るつもりでいたらしい)を休ませるため、
エージェント達の上司は、同期で仲の良かったA子とB子も呼び寄せ、ガングビト(つまり私)の護衛任務につけたそうだ。
おかげでC子ちゃんは、元の明るさを取り戻せたらしい。「すべて貴方様のおかげです」とA子ちゃんは言うのだが……。正直よく分からない。
私はただ、いつも通りの自分でいただけなんだけどな。
まあ、天然の面白キャラらしいから、私のリアクションを見てるだけで笑えるのかもしれないな。
脱線はこれくらいにしよう。
ひとまずオトギワルドでは、私が召喚されるまで大きな動きはない。
ここからはしばらくガングワルドに舞台が
くそっ!
ABCに騙された!
先ほどお茶のおかわりを盛って現れたメイドさん。
新たなメイドさんは、我が目を疑うロリ巨乳だったのだが、何かに足を引っかけ転んだ拍子に、ボールのような詰め物とカツラが取れた。
その正体は、なんとC子ちゃんだった!
一体どういうことなのかと困惑していると、A子、B子も部屋にやってきて、三人一緒に土下座を始めた。
実は、私の世話をしてくれた数々のメイドさんは、全員がABCの三人娘の変奏だったのだ!!
大義名分としては私の女性の好みを探るため、本音は私のリアクションを見ようと面白半分に、エージェントとして培った変装術を駆使して、様々なシチュエーションのメイドさんに化けていたのだ。
確かに見た目は様々だったけど、顔のタイプは三種類しか確認出来なかったんだよな。
でも、三人とも野薔薇ノ民だし、種族的に近ければ、アニメキャラみたいにハンコ顔でも不思議はないかなって……
チクショウめっ!! オッサンの純情を弄びやがって!!
それでも、まあ、
C子ちゃんが元気を取り戻せるなら、オモチャにされたってかまいませんけどね。
でも、おっぱいの詐称はやめてくれ! 特に巨乳の詐称はご勘弁!
バレた時、巨乳好きは心の底からガッカリするし、そうでない人は痛々しくて辛くなるから!