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7-5 移籍召喚の件 ~儀式の流れと王国側の条件~

 話を戻そう。

 日本政府は国内のどこかにある、異世界召喚に携わる謎神社に儀式を依頼した。

 謎神社の神主は神社に祀る異世界召喚の神にお伺いを立て、政府側の要望を伝える。

 召喚神は、それぞれの世界を管轄している召喚神達と会合を持ち、政府が要望する人材を提示。

「うちにいるぞ」と手を上げる召喚神がいれば、移籍召喚は成立。儀式の準備が始まる。

 日本政府の要望は、手を上げた召喚神から異世界の巫女へお告げとして伝えられ、二つの世界で候補者の選定が始まる。

 候補者の選定は、人の手によって行われる事もあれば、神の手によって行われる事もある。

 そして十人以内に絞り込んだ時点で、政府関係者が候補者に直接接触を図り、交渉する。

 承諾した者を神殿に連れて行き、移籍召喚の儀が執り行われ、異世界間のトレードが成立する。

 以上が移籍召喚トレードサモンの流れである。


 実際はどうだったのか。

 日本……ガングワルド側が求めた人材は、神の血筋。半神半人。神の子だ。

 神の子と聞いて誰を連想するだろう?

 ヤマトタケルか? もしくはヘラクレスか? あるいはジーザスだろうか?

 その多くは、英雄だったり救世主だったりと、誰も彼もが世界に影響を与える存在だ。失えばその世界の大きな損失となる。

 平時においても、もしもの備えとして、伝家の宝刀として、とっておきの切り札として、温存しておきたいに決まってる。

 それに神々にしてみれば遠縁の親戚なわけで、情もあるだろう。おいそれとは手放せない。

 ところが、トレードはあっさり成立した。

 オトギワルドの召喚神が手を上げたのだ。

「我が世界には"野薔薇ノ王国"という小国があり、地上に取り残された女神達の子孫が、身を寄り添いあって生きている。

 血気盛んな若者は、平穏な暮らしに耐えきれず、自分試しの旅に出るが、誰もが何も成し遂げられぬまま、力尽きてしまう。

 憐れな子らに英雄になるチャンスを与えてやってほしい」

 野薔薇ノ民には色々と複雑な事情があるのだが、長くなるので省略。いずれ後述する。多分。

 オトギワルドの召喚神は続けて語る。

「こちらから提供できる人材は、神の子ではあるが、王国では一般人に過ぎない。故にこちらも対等に一般人を要望する」

 ガングワルド側としては願ったり叶ったりである。

 しかし、話を詰めていくうちに、ガングワルド側は困惑の度を深めていく事になる。

 一般人である事は間違いないのだが、とにかく条件が細かいのだ。以下に書き出してみる。


 1)日本民族である

 2)子作りが出来る健康的な男子である

 3)年齢は問わないが、50歳未満が望ましい

 4)好色が望ましいが、ゲイ、男色はNG

 5)犯罪歴は問わないが、女性に暴力を振るう者、尊重しない者はNG

 6)妻帯者及び子持ちはNG

 7)病歴は問わないが、性病持ちはNG


 他にもあったけど、忘れてしまった。申し訳ない。

 それぞれの条件について、私なりに考察してみよう。


 1)日本民族である

 これには二つの理由が思い当たる。

 一つは「そもそもが日本国内の問題なので、トレード対象も古くから日本に住む種族であるべき」という考え方。まあ分かる。

 もう一つは、野薔薇ノ民が近親交配を非常に恐れている点だ。

 例えば、異母兄妹の間に生まれる子はどうなるか?

 まず、ヒトの遺伝子が劣性化する。一方で、カミの遺伝子は劣化しない。結果、胎児の姿に強く影響を与え、本来の姿で生まれてしまう。

 本来の姿とは?

 野薔薇ノ民のルーツはネレイデスと呼ばれる、海の女神達である。つまり、

 人魚として生まれてしまうのだ!

 生粋の女神であれば人に変身できるが、近親交配で生まれた子は生涯人魚のままだ。

 おまけに王国の周りには海が無い。小さな湖があるのみだ。地上では育てられないため、昔は生まれてすぐに殺していたそうだ。

 何ともやりきれない話である。

 故に、野薔薇ノ民は近親交配を非常に恐れている。故に、近親でない保証を欲している。

 日本人としてガングワルドで生活していても、ルーツを探ると実はオトギワルドの住人だった、では困るのだ。


 2)子作りが出来る健康的な男子である

 野薔薇ノ女子の切なる望み。それは「自分の分身たる娘を生んで母になる事」である。その為にはどうしても男の助けが必要だ。

 必死になるあまり、ドスケベ女神だの淫乱クソビッチだのと、侮蔑される行為にまでいたる女子もいるらしい。

 努力の甲斐あって、赤ちゃんが生まれる。

 赤ちゃんが男児だったら? 子育てもそこそこに、次の子をねだり始める。

 赤ちゃんが女児だったら? 子育てに専念するあまり、男への興味を一切失う。

 結果として、一人っ子の場合は必ず娘であり、兄弟がいる場合は末っ子のみが娘で、上の子らは全員息子となる。

 娘視点だと、兄弟と言えば全員が兄であり、実の姉、実の妹、実の弟が存在しない。

 息子視点だと、妹はほぼ必ずいるが、実の姉は存在しない。兄や弟がいる可能性はあるが、王国全体で見ると決して多くはない。

 こんな歪な出生状況を、野薔薇ノ王国は五百年も続けているのである。

 そりゃ、男不足にだってなりますわな。

 おまけに近親交配がヤバイとなれば……ねえ。


 3)年齢は問わないが50歳未満が望ましい

 この条件を聞いて、私は思わず泣きそうになった。そこまで切実なのっ!?

 女神の美貌を持ったうら若き乙女が、オッサンどころかジジイで妥協せねばならないなんて

 あまりにも可哀想すぎる! ホントに何とかならないのか、これ!


 4)好色が望ましいが、ゲイ、男色はNG

 そりゃ、はーれむ作って子作りしろってんだから、堅物よりはスケベの方が良いよな。だから好色は分かる。

 それにガチホモな男にとっちゃ、女の子と子作りなんて地獄の苦しみだろう。可哀想だからNGってのも分かる。

 男色がNGってのも即座に理解した。野薔薇の男子は女神の遺伝子のおかげで、バンコラン好みな超絶美形だらけなのだ。ただでさえ少ない男子を男に横取りされてはたまったものではないだろう。


 5)犯罪歴は問わないが、女性に暴力を振るう者、尊重しない者はNG

 王都"ノイバラ"の治安は日本と同等か、それ以上かもしれない。

 しかし、いざ城壁都市を出ると、そこはドラクエのようにモンスターが蔓延る世界だ。野盗の類だってわんさかいる。

 それらに比べれば、日本で犯した犯罪なんて微々たるもの。よっぽどの凶悪犯でない限り不問だろう。

 ただし、女性への暴力だけは看過できないと。そりゃそうだ。

 母親になるためには我慢も必要だろう。男の性癖次第では変態プレイに付き合わされるかもしれない。だけど、物事には限度がある。

 何故だ。何故殴る。女の子は笑顔が一番なのに、何故そんなむごい事が出来るのだ。

 そこまで女性が憎いのか? 泣き叫ぶ声や傷だらけの姿を見て興奮する変態性欲の持ち主なのか。

 私には理解できないし、したくもない。

 もっとも、そうやって選り好みしているからこそ、慢性的な男不足に悩まされているのかもしれないが。


 6)妻帯者及び子持ちはNG

 そりゃそうだパート2

 しかも、世界を救えってならまだしも、はーれむを作れ、だもんな。

 残された母子はたまったものじゃないし、はーれむに加わった娘達も心境は複雑だろう。

 誰も幸せになれないトレードは止めてほしいと言う、良識から出た条件だと思われる。


 7)病歴は問わないが性病持ちはNG

 そりゃそうだパート3

 あっという間にまん延してはーれむごと全滅とか、笑えない結末が待ってるもんな。

 気になるのは、それをどうやって調べるのか? だ。

 検査するなら時間も費用もかかるから、タイミングは絞り込んだ最後の段階だろうか。


 以上である。

 初めて聞いた時、条件に合う人達に心当たりがありすぎて、変な笑いが出てしまった。

 これってようするにオタクじゃん! オタク日本人じゃん!

 7項目の中でも一番確認の難しそうな「性病持ちか否か」は、ほとんどのオタクがクリア出来るんじゃね?

 メイドカフェに通うオタクは多数いても、風俗通いするオタクは僅かだ。小遣いの大半はアニメグッズや同人誌に消えるからな。

 嫁は季節が変わるごとにとっかえひっかえしているが、所詮は妄想世界の空気嫁。性病とは縁が出来ようもない。

 献血界隈がアニメとコラボするのも、綺麗な血を持ってる人が圧倒的にいるからだし。

 懸念すべきは、所持しているエロ同人誌が、第5項の「女性に暴力を振るう者、尊重しない者」に該当するか否かだ。

 リョナ系エロは問題外なので、所持しているだけでもアウト。和姦系エロならセーフだろう。だが、陵辱系エロは線引きが分からない。

 個人的にはアニメキャラを陵辱する二次創作は昔から大嫌いだけど、王国はどう判断するのだろう?


 話を進めよう。

 野薔薇ノ王国は数万人規模の小国だ。10人のトレード候補もすぐに選定された。

 しかし我らが日本国は一億人規模。王国から見れば超大国である。候補をたったの10人に絞り込むには、どうしても時間がかかってしまう。

 オタクに絞り込んで候補を探せばもっと時間を省略できたと思うが、日本政府がそんな情報を持っているはずもない。

 オトギワルド側に一週間の猶予をもらい、絞り込みに専念していたのだが……


 ここから、私を巻き込んだ事件が始まるのだ。

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