7-1 前文
さて、何から書こう。
まずは自己紹介だろうか。
姓は大黒、名は雄斗次郎。40代のオッサンだ。
生まれも育ちもガングワルドの日本人。
こちらの世界からしてみれば、生粋の異世界人ということになる。
次に書くべきは今いる場所だろうか。
ここは異世界オトギワルド。
私達の世界では神話や御伽話として語り継がれてきた物語が、過去に実際に起きた事実として歴史に記されている。
例えば、私が今、世話になっている"野薔薇の王国"。
ディズニーアニメやグリム童話で有名な、あの"野バラ姫"によって築かれた国なのだ。
例えば皇室は、日本書紀に登場する神武天皇の子孫であるとされる。
それと同じように、"野薔薇の王国"の王族達は、野バラ姫の子孫なのだ。
私はおとぎ話の専門家ではないが、それでも、子供の頃から知っている野バラ姫が実在した歴史上の人物であり、彼女が再興した王国に訪れているると知れば、テンションも上がるというものだ。
ちなみに私は今、首都ノイバラにある王国一の高級ホテルの、屋根裏部屋の一室でこれを書いている。
縦長で六畳間程度の質素な部屋だが、これくらいが私にはちょうど良い。
実は最初に通されたのは、下の階にある最高級のVIPルームだった。
王国側は、よりにもよって、私を国賓待遇で持てなそうとしてたのだ! 勘弁してくれ。
広すぎて豪華すぎて"贅沢すぎるその部屋が本当に苦痛だったで、一番小さな部屋にしてほしいと懇願する。
しかし、警護上の理由からホテルの変更は出来ないと言う。そこで私は最上階の屋根裏部屋を希望した。
普段は物置代わりや使用人用の部屋として使われるところだから、ホテルのオーナーはさぞかし困惑しただろう。
だがしかし、私にとって屋根裏部屋は『小公女セーラ』で観て以来、ロマンの塊なのだ。
次に今置かれた私の状況を書こう。
あの日、
関ヶ原で濃霧に襲われ、"深キ深キ森"へ迷い込んだあの日から、ちょうど一週間が経過した。
様々な人から状況を説明され、事情を聞かされ、足りない部分は想像で補い、態度で多くを察した。
おかげで頭の中には様々な情報が溢れて混乱しており、フリーズしたパソコンのように思考停止状態が続いている。
長くなるので詳細は後にするが、私は今、人生最大の岐路に立たされている。
恐らく、私に与えられた選択肢は三つ。
抗うか。
受け入れるか。
そして流されるか、だ。
これまで私は、肝心なところで何も決断できず、流されるままに生きてきた。
その結果、何も成し遂げられぬまま、年齢だけを重ねてきた。
虚しい人生だ。生きているのが嫌になる。
だけど、人生を終わらせる決断も出来ないから、今も不様に生きている。
そんな私だ。
こんな重い選択肢を提示されては、パニックにもなる。
どうすればいい? 私はどうすればいいのだ。
そしてこの状況を打破すべき対策を記す。
すなわち、この手記をしたためる理由だ。
冒険女子ハナナちゃんと共に過ごした最初の二日間。
あの時私は、メモに書き出す事で状況を整理し、優先順位を把握する事で、パニックを最小限に押さえられた。
みんなで生き残れたのも、そのおかげではないかと思っている。
だから、あの時の成功体験にすがることにした。
つまり、書き記す事で状況を整理し、決断するための判断材料にするのだ。
前文の最後として、後の"探索者"へ
もしかすると、この駄文を読む者が現れるかもしれないから、今のうちに謝罪しておく。
この手記は、誰かに読んでもらうためではなく、状況を把握するために自分自身に向けて書いたものだ。
誤字脱字、乱筆乱文あると思うが、どうか許してほしい。
それでも構わないという方のみ、続きに進んでいただきたい。
この"萌え萌えディストピア"で、私が何を知り、何を考えたか…
後の"探索者"たる貴公の参考になれば幸いである。
というわけで、第二章スタートです。
第一章のやり方ではいつまで経っても終わらないので(^^;
この章では構成を変え、手記形式で進めていくことにしました。
令和も引き続き『オトギ生活』をよろしくお願いいたします。