1-1 出会いはテンプレのように…?(1/3)
世界が回っていた。グルグルと……いや、ゴロゴロと回っていた。
輝く月は下から上へと出たり消えたりを繰り返し、点滅しているように見える。草や木の枝や土や小石が、ヤスリがけのように手足をこすっていく。私はとにかく無用な怪我を避けようと、後頭部を左手でかばい、身体を丸めていた。
やはり自分基準の天動説的解釈で、今の状況を説明するのは難しい。諦めて地動説的解釈をするならば、ゴロゴロと転がっているのは私であった。
大樹の根本にあった大穴。覗き込んだ拍子に迂闊にも足を滑らせ、私は真っ逆さまに転落。しばらく暗闇を転がり落ちて行き、突然視界が開けた。草木の茂る急勾配だったが、もはや自力で止められるスピードではなく、運を天に任せるしかない。行くぜ! 苦しいときだけの神頼み!
神様、助けてクリャリンコ~~!
その叫びが届いたかどうかは定かではない。
だけど、永遠に続くと思われた転落人生は突然、ザブンという激しい着水音と共に終止符が打たれた。
何十回と繰り返させられたでんぐり返りのせいで目眩がなかなか収まらない。だが状況はなんとなく理解できる。池か泉に落ちたようだ。ちょうど尻餅をつくような形で停止したので、幸い顔は濡れてない。水底は50センチ程度だろうか。上半身を起こしていれば溺れる事もない。
背後を見上げると、私が転がってきた急勾配の坂がある。こんなところを転げ落ちてよくも死ななかったものだ。
いやまて。私は本当に助かったのだろうか? もしかして、すでに死んでいるのではないか? そもそもここは何処なんだ?
私は辺りを見回し、そして感嘆した。
そこは静かで、穏やかで、優しい、深森に囲まれたオアシスだった。とても現実とは思えない美しさだった。例えるなら……そう! 美術設定に力の入ったアニメかゲームの美しい背景画だっ!! ………ボキャブラリーが貧困で申し訳ない。
魅了された私は、しばし我を忘れ、幻想的な風景を見とれていた。次第に目眩も無くなり、焦点も定まってゆく。
その時だった。
穏やかな泉がパシャンと波打った。魚が跳ねたのだろうか。何気なく泉の中央に目を向けた私は……
見た。見てしまった。
月明かりに照らされ、泉の中央にたたずむ姿を。
そして目が合った。見つめ合ってしまった。
若く美しい女神と。
彼女は……裸だった。
長い髪を膝までたらし、スポーツジムにでも通っているのか、鍛えられたお腹にはうっすら筋が見える。
そして右手にはギラリと光る大きなナイフが握られていた。
これは………やばい………
私は背筋が凍り付いた。何故なら真っ先に連想したのが、異能バトル系ラノベのテンプレ展開だったからだ!
大まかに言うとこんな感じだ。
その1,主人公が超強いヒロインの着替え、もしくは入浴シーンにばったり遭遇する。いわゆるラッキースケベだな。
その2,超強いヒロインの怒りを買い、報復という名の決闘をすることになるが、主人公が勝つ。
その3,ヒロインがチョロインに早変わり。
…いや、まあ、たまたま観たラノベ原作のアニメが二本とも同じような展開だっただけで、本当にテンプレなのかは分からないが。
仮にそのテンプレ展開(仮)が、この先に待っているとなると、致命的な問題点が二つある。
第一に、私はただの一般人なので、異能の力が無い。
第二に、私は40代のオッサンなので、圧倒的に若さが足りない。
そこから導き出される答えは…
最悪の場合、彼女の手によって物理的に殺される。運良く許されても、社会的に殺される。
逮捕エンド待った無しじゃんかよおぉぉぉっ!!!
オッサンなのにトンデモナイトコロに来てしまった! どうしよう…。
初めましての方は初めまして。お久しぶりの方はお久しぶりです。風炉の丘でございます。
『オトギ生活 〜オッサンだけど異世界に来てしまった。どうしよう〜』が、後先考えずどんどん設定を生やしながら書いていたせいで、すっかり行き詰まってしまいまして(^^;
そこで整理を兼ねて、最初のエピソードから書くことにしました。
でも、色々考えながら書いていたら、なかなか進みませんですね(><)
ひとまず3話分完成していますので、3日連続更新する予定です。
この物語をいつまでどこまで続けられるか判りませんが、楽しんでいただけましたら幸いです。




