二次元から来た少女
one
学校から帰宅すると、僕の部屋に、彼女がいた。
two
「びっくりしたのはこっちよ。何時も通り寝て、何時も通り起きたら、知らない所にいるんだもの。そのままもう一度、気を失うかと思ったわ」
今僕の目の前にいる女性は、ややイラついた様子でそう言った。
「御免なさいね、勝手にお邪魔しちゃって。私としては全然、そんなつもりは無かったんだけど、うん、たぶんこっちの世界の問題だわ。何かが正常でなくなってしまったのね」
彼女は尚も止めどなく話す。一体何がどうしたのか、僕はその理解が出来ぬまま、呆然と部屋のドアの前で立ち尽くすしかなかった。
しかしおそらく、この状況がイレギュラーである事実に関して言えば、それはお互いさまとみえる。
three
彼女は僕のパソコンを頻りに開いたり閉じたりしている。……かと思えば今度は電源ボタンを押したりエンターキーを押したりと、何やら忙しそうにしていた。
「うーん、これはどうすれば…………えー、そうなっちゃうかあ…………じゃあこれは…………ああ、駄目だ…………、……んー、……も……だしなあ…………。…………あー、なんでこう、三次元世界って、こんなに使いにくいものばかりなのかしら…………うーん………………」
僕はその様子をただ見る事しか出来なかった。何か質問するどころか、声も出ない。足も動かない。金縛りにでも遭ってしまったかのように、僕の体はピクリとも動かなかった。
どうして、彼女が……。
four
「ねえ、そんなとこで立ってないで、ちょっと手伝ってよ。ほら」
その言葉を境にして、僕の金縛りは消え失せた。僕はハッとして荷物を置き、彼女の下へ駆け寄った。
「えーと、じゃあ、今から私の言う通りにキーを押して。……Iキー……十字キー左……テンキーのゼロ……Vキー……エンターキー………………」
と、何か暗証番号を思い出すようにして、彼女は僕に指示を出した。僕にはそれらが何を意味しているのか、何も見当が付かなかった。
「………………Yキー……もう一回、テンキーゼロ……Uキー………………」
しかし、こうする事によって何が起きるのかは、たぶん、凡その見当が付いていたと思う。
five
「よしっ。これでオッケー。お手伝い有り難うね。それじゃあ私、これで帰るから」
そう言って彼女は部屋を去った。
後には僕だけが残った。
部屋で一人、さっきまでの出来事が未だ信じられずに、ただ彼女が帰って行く様子を見ているだけだった。