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子供の平和

作者: 甘木智彬


 ――大人たちは信用出来ないから。


 そんなキャッチフレーズとともに、世界の仕組みは劇的に変わった。


 争いを生む『軍隊』などというものは、全て子供たちの手に委ねられたのだ。



 ぼくも、国を守る兵士として、今日も元気に働いている。



 朝、鏡の前で、しっかりと身づくろい。カッコイイぞ。迷彩服に、ブーツ、防弾チョッキとヘルメット。腰にはピストルを差して、ライフルだって持ってるんだ。


「いってきます!」


 パパとママに挨拶をして、きびきびとした動きで家を出る。子供の軍隊だって、訓練は厳しい。しっかりと体を動かすからね。でも、朝の八時にはきちんと起きなきゃいけないし、テレビを観る時間もあんまりない。朝ごはんはたくさん食べて、背を伸ばすために牛乳もたっぷり飲まないといけないんだぞ。


 ぼくの職場は、国境になっている橋の監視所だ。頼りになる同僚たちと一緒に――もちろん同僚も子供だ――、隣国に睨みをきかせている。


 退屈な仕事だけど。仕方がない。橋の向こうには、ぼくらと同じように目を光らせる隣の国の兵士たち――もちろん、子供だ――が落ち着きなく巡回しているのが見えた。緑色の迷彩服のぼくらと違って、カーキ色のパリッとした制服だ。動きにくそうだけど、ちょっとカッコイイな、なんて思っちゃうのは、ひみつだよ。


 でも、その日はいつもと違ってたんだ。


 お昼ごろ、そろそろお腹がすいてきたな、なんて思ってきたあたりで、ウヮンウヮンとサイレンが鳴り始めた。


「わぁ、たいへんだ!」

「となりの国がせめてきたぞ!」


 監視所に、慌てて味方の兵士たちが駆け込んできた。


 たいへんだ。見れば、橋の向こうから、ライフルを構えた隣の国の兵士たちが、こちらに走ってきている。


「とつげき、とつげきだー!」

「バン、バン!」


 走りながら、ライフルをぼくらに向けて撃ってきた。


「はんげきしろ!」

「橋を守るんだー!」


 ぼくらの後ろには、パパやママが暮らしている。この橋は守らなきゃいけない。


「バン、バン!」

「くらえー!」


 ぼくも外に出て、橋の上で隣の国の兵士たちを迎え撃った。


「うわー!」

「やられたー!」


 こちらも、向こうも、弾を食らった兵士たちがぱたぱたと倒れていく。パッ、パッと散る赤い色。


 ぼくの隣りにいた子も、弾を浴びてバシャッと赤い液体を散らした。


「負けないぞ!」

「バン、バーン!」


 ぼくは戦った。いっしょうけんめいに。


 やがて、残ったのは、ぼくらの国の兵士だけだった。


「勝ったぞー!」

「やったー!!」


 ぼくらは、歓声を上げる。


 すると、倒れていた子たちが次々に起き上がり始めた。


「やられちゃったね」

「次は、がんばろうね」


 ライフルから出るのは、ケチャップの弾だ。


 あたっても、死ぬことはない。


 気がつけば、すっかり夕暮れだ。ぼくらは隣の国の兵士たちに、「また明日!」「バイバイ!」と挨拶をして帰った。


 家では、パパとママが待ってる。


 温かいご飯を食べて、お風呂に入って、ベッドでぐっすり眠るんだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なにこの戦場の凄惨さと子供視点の差異からくるシュールな情景と思わせといてほっこりする結末。 十月十日後に妹が生まれてしまえ!!(錯乱)
[一言] パパとママ(意味深)としか思えなかったです。はい
[一言] 戦争の経緯と役割を考えてしまう。
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