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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第4章 ロイド辺境伯、異界戦役2nd Season
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第八十八話 ロイド、閲兵式典に参加する

 五泊六日の汽車の旅を終えて俺達は帝都に入った。


「いやあ、汽車の旅は良いもんでしたなぁ」


「だが退屈ではなかったかね?」


「割切れば良かったですよ。それにウチの八乙女などは鉄ちん(鉄道おたく)でして、物凄い喜んでました」


 腰をとんとんと叩きながら村部は快活に言った。腰を叩いて見せたのは座りっぱなしだから腰に来るというデスチャーだろう。


「わたしも良かったです」とコレットも笑顔を見せた。


「それは何よりだ。さて次は帝都での宿屋だ。可能な限り一流どころを用意させた」


「はぁ、でも良いんですか?」


「何がだ?」


「いえ、我々は三百人を超す人数ですよ?」


「費用の事か。なら気にするな貴君らの滞在費には補助金がでるからな。それにどうせなら良い宿の方が良いだろう?」


「…あのう、補助金ってなんですか?」


「コレット、補助金というのは政府からある程度の金をだす制度の事だ」


「閣下、お心遣い感謝します」補助金の裏の意味を悟ったか、村部が神妙そうに感謝の意を表した。

 

 まあ、確かに補助金は一割二割のはした金なんでな。高級旅亭の手配は俺の好意にすぎない。


「ニ、三日はゆっくり休め。旅のしおりにも書いてあるが、帝都での観光も勧めてあるぞ」


「あ〜、ブレーメン地区のライムライト商工市場ですね。楽しみです」


「世界最大の市場ってよくわからないのだけど……」


「そいつは行ってみてのお楽しみさ」


「俺は帝都屋敷に戻るから、後は貴様らに任せるぞ。ニ日後ここに集合だ」


「了解しました。おお〜い、各班集合!」


「それじゃあロイドさん、また」


「ああ、またな」


 自衛官ら(とコレット)を置いて俺は帝都屋敷に戻った。

 俺が村部とばかり話すのは、あの工藤という女が苦手だからだ。だって怖いんだもん。…は冗談として、工藤涼子という女性はどこか正体不明というか、底が知れなくて苦手なのだ。


 それはさておき、帝都屋敷には俺が決裁しなければならない書類も少なくない。俺宛の書簡や私的な手紙にも目を通さねばならなかった。

 書類の整理は晩飯のあとも控えていた。翌日に持ち越しても良かったのだが、中途半端に残っているのは気がかりで全部済まさねば落ち着かなかったからだ。


 俺が決裁しなければならない書類の中でも特筆すべきはやはり屋敷の運用費用の事だ。

 帝都の一等地に屋敷を構えた時とくらべ、いまの屋敷の運用費用は五分の一にまで削減出来た。体面を気にすべき事よりも実利を優先した結果だ。実に良し、だ。

 ただ少なからず実家の評判が下がった。そりゃあまぁ一等地から二等地に移ったのだ。事情を知らねばウチの家計がヤバいと思った事だろう。ま、他人からの評判なんぞ知ったことじゃない。


 少し脱線するが、結婚式の頃は財政が素寒貧だった。それが持ち直していまでは財政がうなぎ登りだ。計算どおりとは言え我慢した甲斐があったなぁ……。

 今のこの時点で、予定してあった庶民の所得はずいぶんと回復してあった。とりあえずは上向き。なかなか良いスタートだと思う。だがこれはあくまでもスタートにすぎない、本命は所得倍増、税収五割ましなんだからな。五カ年計画十ヵ年計画は返済の指標だが、同時に庶民の所得アップ税収のアップでもある。

 見てろよ、二十年後を。二十年たてばファーレ領は経済立領として君臨してやる。


 あと朗報がひとつ。パンジャンという木からでるラテックスが高い伸縮性と絶縁性をもっている事が確認された。

 市場しじょうではすでに獲得競争が始まっている。俺も明日には動かざるを得ない。

 ゴムの木が無いこの世界では代用ゴムは必需品である。…今まで開発されてなかったのは近代工業の波が低かったからだ(代用ゴムの発明は二千年前から始まっていたが、研究は途切れ途切れでニーズに見合っていなかった為だ)

 明日からの買い付けで、どこまで買えるかは不明だが、最低でもひと株は買っておきたい。今辞書で調べたが、栽培は容易いらしい。株分けの期間は三ヶ月。成長は一年。

 五年待てば一大特需を生み出すな。明日は有り金はたいてでも買い付けに回らねば。




 翌日、ヒューとツキハを伴い市場しじょうへと乱入した。

 大手はほぼ壊滅(ひと株だけ買えた)、小さな問屋でようやく四株を手に入れた。大枚はたいて僅か五株で費用対効果は最悪だが金の卵にも等しい苗だ。大切に育て上げねばならない。是非ともファーレ領で栽培せねばならない。ちなみにパンジャンは東部の一部だけ自生している。

 東部といえばアレックスだ。彼を通じて直接買いに走って貰うも手だな。

 少しでも目利きがあればパンジャンは大ブームになる。価格が高騰する前に少しでも集めなければならない。これで品質の低い南部産の樹脂はあまり買わずに済むかもな。


 


 そしてさらに翌日。今日は工藤特務連隊の閲兵式だ。

 朝、集合場所に来てみれば作業服(野戦服)をきれいに糊付けした連隊員が勢ぞろいしていた。


「やあ、お早よう工藤」


「お早ようございます閣下」


「準備は?」


「完了しております」


 しかしなんだな、この女性将校と話すのはしんどい。話の接ぎ穂がなければ会話が成立しない。


 今日はヒューが居ない。軍事的目的だから副官のツキハだけを伴っていた。

 早速馬車に乗り込ませた。駅前の広場を三百人からの軍人で占めるのは気が引けた。俺の馬車を先頭に一路閲兵式場へと向かう。

 閲兵式の場は帝宮の北、軍の敷地内にある。何故今回謁見の場ではなく閲兵式場なのかと言うと、工藤特務連隊だけでなく他の転移してきた異界の軍勢もそろうからだ。

 聞いた話では第二次世界大戦時の米軍中隊、第一次世界大戦時の英軍中隊、ナポレオン時代のフランス軍連隊だ。よくもまぁ戦闘騒ぎにならなかったなぁ。

 各地の領主が頑張ったおかげで武装は解除されている。米軍あたりはずいぶんと手こずっていたらしいが。なんとか武装解除に成功したようだ。


 閲兵式には捧げつつが必需だが武装は解除されている。どうするんだと思っていたら、帝国軍が新兵を訓練する際に使う模造銃が用意されていた。うん、これなら皇帝陛下を狙ったテロも起こるまい。

 

 入場ゲート前はカオスな雰囲気でいっぱいだった。そりゃそうだ日、米、英、仏の時代問わぬ軍人が大集合なんだからな。

 一種異様な雰囲気のまま陛下のご入来を待っていた。

 入場の順番は籤で決められた。我らが工藤特務連隊は四番目だった。英軍、米軍、仏軍、自衛隊の順番である。


 俺はツキハとコレットと共に貴賓席に座っていた。周りは高級軍人であったり、領主であったりと多種多様である。特に領主は自分のとこに現れた軍人達の代表でもあり鼻高々である。


『皇帝陛下、ご入来。皆様起立して迎えて下さい』魔導スピーカーから声が響いた。三々五々起立していく。


 やがて陛下が皇后陛下と皇太子を連れて現れた。


 陛下は軍装につばのないトークを被っている。トークの飾りは豪奢で洒落ている。

 対し、皇后陛下は見事なドレス姿で日を浴びて燦然と輝いていた。皇太子は軍装だがどこか控えめだった。


『これより閲兵式を行います。先頭は英国陸軍第二十四連隊所属第一中隊。続いて米国……』とアナウンスが響いた。

 アナウンスとともに行進が始まる。


 英国兵は赤い上着に黒のスラックス、独特のヘルムが特徴的だった。

 続く米国兵は懐かしのサンドベージュの軍装だ。実用本位の為やや地味にすぎる。

 目を引くは三番目のフランス兵だ。同贔屓目に見ても時代遅れな三角帽に白のベストと赤い上着。そして白のズボン。実に大時代的だ。そして自衛隊。深緑を基調にしたまだらな服は見た目以上に実利的だ。地味といえば地味だが米国兵には負ける。俺は二十一世紀の人間でもあったから自衛隊贔屓ではある。


『捧げー、筒っ!』英国兵から捧げ筒を始める。


 英国兵や自衛官も堂々と捧げ筒も堂に入っているが米国兵や仏兵も様になっているのが印象深い。


 トラックを半周し、各部隊は整列した。


 ひな壇にひとりの男が立った。


『諸君、余が帝国皇帝アルトール・アウグスト・フォン・オルビレント二世である』


 皇帝陛下のありがたい演説が始まった。オルビレント二世は今年四十五歳の脂の乗りきった壮年の男だ。背は格段に高くもなく低くもない。体格は良い。

 性格は知らんが、少なくとも無能の類ではないらしい。


 陛下の演説はまだ続く『諸君らは軍属にあったが、ここ帝国では諸君らの兵種を万全に支持出来ない。あらかじめ聞かされているが軍籍を有したい者は帝国軍に申し出でよ。市井の民を選ぶのも自由であり、職の斡旋を与える事とする』。


 俺は知らなかったが、陛下の演説は事前に通訳を介し説明がなされていたようだった。


『最後にヴァルシェホルン伯爵、ディスナー伯爵、ファーレ辺境伯、ヨード公爵。貴君らには苦労をかけるが引き続き彼らの後援を担ってほしい』と締めくくった。

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