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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第4章 ロイド辺境伯、異界戦役2nd Season
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第八十七話 ロイド、帝都に向かう

 開放作戦を発令してひと月経った。領主館も無事に奪還でき万々歳だ。これがゲームやらラノベなら中ボスが陣取っているだろうが、現実はあっさり無人なのであった。

 ドラマチックな話は嫌いじゃないが、人命がかかっているのだ安易なドラマは必要ない。


 現在は北都上部の開放作戦中だ。これ迄に小規模の巣を三つ落とした所だ。

 巣に極少人数の兵力で臨み女王ダーサらを抹殺させた(特攻作戦みたくで嫌だったが三名ならノー反撃で攻略出来た。対し六名で押しかけた場合、反撃をくらって壊滅したのだ。この為三名での作戦が一番勝率が高いとされ俺も承認せざるを得なかった)。

 某凶悪な異星人の映画では女王種も相当に強かったのだが、こちらの女王ダーサは無抵抗だったと言う。

 今はドラクルが嬉嬉として腑分けの最中だ。


 おっと、噂をすれば影が射す。ドラクルがやって来た。


「やあ、腑分けはどうなった?」


「見かけは大差ないが中身は別物といって良い。

 特に卵巣の部位は独特で内部に三段階の幼ダーサが入っていた」


「三段階の、だと?」


「親指大の幼生体に、一エンド半強(約五十cm)の成長途中のやつ、三エンド強(約一m)の成体間際のヤツだ」


「連中、単殖か?」


「女王にオスが寄生していないから単一生殖の可能性が大だ」


「なるほどな……」


「なにか納得しきれていないな?」


「何かを見落としている様なのでな……いやすまない貴様の認識にケチをつけている訳ではないのだ」


「見落とし、か…ふむ、その可能性は否定できないな」


「おいおい、天才の貴様がそれを言うか?」


 ドラクルは苦笑した。


「私も人間だ、間違いはある。確かに天才だが万能ではないよ」


 確かに彼女は天才だがそもそも生物学は範囲外だ。なら見落としだってある。その意味でも彼女は万能ではないのだ。


「女王ダーサが生産工場だと確定したのは確かだ。今後の主目的は女王ダーサの排除となるな」


「そうだな……」


「なんだ、歯切れが悪いな」


「……う〜ん、お前様の意見ではないが、何を見落としているのかわからないのがね。それが歯に何か挟まった様な感じが取れないのだよ」 


「ドラクル、貴様は良くやっているよ」


「……ありがとう、お前様」


「話は変わるが俺は明日には帝都に向かわねばならない。何か必要な物はあるか?」


「医薬品は足りているから取り立てないな」


「じゃあ何か土産物を買ってくるよ」


「…………」


「なんだその目は」


「お前様がそんな配慮をするとはな」


「たまには俺もそれ位配慮できるがな!」


「怒るな怒るな」


「別に怒っとりゃせん。ただ憤懣やるせないだけだ」


「世間ではそれを怒っとると言うのだ」


「あ〜言えばこう言う。まあいい、では引き続き腑分けを頼む」


「了解した」




 今現在、あちこちの領で転移者が現れているらしい、国務尚書殿に尋ねたら全領土で転移者が現れたそうな。分かっているだけでも三百人はいると言う。そこで後回しにされていた工藤特務連隊の主要な人物(プラス、コレット)を連れて参内せねばならない。場合によっては彼らの身元を引き渡せねばならない。

 以前にも軽く触れたが、転移者は転移先の領主が保護し、その後皇帝(帝国首脳部)に引き合わせねばならない。そして有意の者は帝国中央に囲われ技術を引き出されるのだ。

 無論、一方的ではない。給与も出るし場合によってはそれなりの立場を与えられる。

 本来なら工藤らが現れた時点で帝都に送り出さねばならなかったのだが、言語のやり取りの出来ない三百人からの異邦人を皇帝に引き合せるのは無謀だったからだ。

 

 しかしコレットの方が早く帝国公用語を身につけるとはな。自衛官の多くがいまだ身につけていない事実を鑑みて見ればコレットの頭脳は彼らより柔軟だと言う事だ。


 今日の午後、ファーレ領から自衛官らが馬車でやってくる。そのまま汽車に乗り帝都に行くのだった。引率は領主である俺。汽車はわざわざ特別編成のやつだ(貴族の俺が乗るからな)。

 内訳は特等車が一両、一等車が四両、二等車が十二両に食堂車、糧食車、食料車(×三)貨車(×ニ)などで構成されている。食料車が多いのは帰りの人員の為で北都では補給できないからだ。

 自衛官らだけならもう少しすくない編成だが、帝都に戻る兵らがいる為にこの編成となった。その為機関車はニ両編成となっている(物理的に一両では牽引出来なかった背景がある)。

 一等車と二等車の違いはふたり用の個室コンパートメントか四人掛けの個室かの違いだ。あと特等車は個室が三部屋と使用人用の個室(四人掛け)とで構成されている。


 自衛官らには強行軍となるが今の北都はまだ戦場である、当然ホテルなんか営業している訳でなく、汽車に乗ったほうがマシだった。日本にはもう通常運行の寝台車は残ってないから(正確には寝台車はあるのだがパッケージプランのみだから除外)寝台車の旅は珍しいだろう。

 念の為、ここへ来る前に旅のしおりを作って渡しておいたから寝台車の設備にも対応できるはずだ。設備? ああ給湯器サモワールがそうだな。ティーバッグと湯のみがあれば茶を満喫できる。本来なら北都の売店で買うのが普通だが、先に述べたとおり北都は都市としての機能を失っているから旅のお供のティーバッグなんぞ売っていない。したがって大都で予め嗜好品は買っておかねばならなかったのだった。旅のしおりにはそこら辺を強調して書いておいた。

 食い物は北都までは道中食堂は使えないので(三百人からの人員を任せられる食堂なんて無い)大都で購入しておかねばならない。北都からは汽車内で弁当を用意させてあるので大丈夫だ。あと士官(幹部)は食堂車で食事が出来る。


 さて、そろそろ自衛官らがやって来る時間だ。

 だが三百人を乗せてくる馬車の車列は長大なものとなる。

 馬車が馬込みで約五㍍。車間が同等として約五㍍。馬車一台あたり最大六名なので三百十八人÷六で五十三台。予備の馬車五台と貨物馬車二台の総勢六十台。に先の数字を当てはめると六百㍍(理想値)となる。うん、やはり長大だな。実際には一キロ弱だろうかな。まぁそんなもんか。


 


 昼過ぎに自衛官らがやって来た。昼飯はまだらしい。集団の先頭は工藤連隊長の馬車だったが、その次は糧食班らの馬車だった。


「工藤連隊長、何故に糧食班らが先頭集団に居るんだ?」と聞いた。


「彼らが先についたら、その分早く食事の支度が出来るからです」と答えが帰ってきた。なるほど。


 確かに、見れば糧食班らはすばやく調理し始めた。

 そうこうするうちに馬車が全部揃った。しかし強行軍だったので隊員たちの顔色はさえない。

 そんな中、平気な顔をした村部一尉が俺に挨拶に来た。


「お久しぶりです領主殿」


「君は元気そうだな。車酔いはしなかったのか?」


「ええ、はい。自分はあまり酔わないタチなので」


「ところで、語学の習得はどこまで進んだ?」


「ハ、早い者は日常会話の疎通が上手くなりました。遅い者でもある程度の受け答えはできます」


「なら良しだ。では今から俺との会話も共通語のみとする」


「了解であります」


 あんまり甘えさせても上達しないからな。


「今日はここで一泊してもらう。明日、あさイチで汽車に乗り帝都に向かう」


「ハ!」


「何か質問は?」


「取り立てて。出立前にくださった旅のしおり、ありがとうございました」


「本来なら北都で買い足すのだがな。まぁ役に立てて良かった。ああそうだ、工藤!」


「何用ですか?」


「明日から世話になる汽車の車掌に挨拶だ」


「わかりました」


「ああ、あと俺との会話は共通語でやるぞ。モラトリアム期間は終了だ」


「…承知しました」


「付いてこい。こっちだ」


 ふたりを引き連れて北都中央駅に向かう。




「やあスペロウ君、久しぶりだね」


 濃緑の制服ユニホームを着た男はすぐに見つけれた。


「これは閣下、お久しぶりで御座います」


「息災のようで結構」


「ははっ」


「スペロウ君、こちらの二人が明日から世話になる異世界の軍人さんだ」


「よろしくお願いします」と如才なく村部が一礼した。


「当汽車へようこそ。車掌のスペロウです」


「道中世話になる」


「こちらの女性は女性だが連隊長でな、俺と同じ車両に乗り込む事になる」


「工藤と言う、よろしく」


「はい連隊長殿、よろしくお願いします」


「村部、何か聞いておく事はあるか?」


「いえ、ありません」


「そうか。…ではスペロウ君、また明日な」


「はい、閣下」


 顔見せは以上だ。さて明日からは汽車の旅だ。

 謁見は面倒だが、汽車の旅を楽しもう。え、ツキハがいるじゃないかだって? せっかくなんだから良いじゃないか。寝台車の旅はけっこう楽しいんだぞ。


 翌朝、俺達は汽車に乗り込んだ。目指すは帝都。


 

お便り下さい。質問もどうぞ!

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