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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第3章 ロイド辺境伯、領主として大将として
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第八十三話 ロイド、夢に見た少女と出逢う

 不思議な夢を見た翌日、ツキハの跳躍能力により俺とツキハ、そしてドラクルは北都の駐屯地に舞い戻った。


「ツキハ君、体調はどうだ?」


「はい、少ししんどいけれども跳躍には問題ありませんでした」


「そうか、三人同時跳躍は初めての試みだったが成功して良かった」


「仮説だが」とドラクルが口を挟んできた。


「限界まで使用して、能力が底上げされたのかもな」


「…そうだな。だが闇雲に限界まで能力を試す訳にはいかない」


「そりゃあそうだ。ツキハ、君の能力の底上げはよほどの余裕がなければ試すのは無しだぞ」


「はい、ドラクル・ザーツウェル」


 ツキハの能力は貴重だ。使い潰す事は許されない。


 

 ところで何か焦げ臭くないか?


「なぁスティラ、何か焦げ臭くないか?」


「うん? ああ何か燃やしている訳ではないのにな」 


 周囲50メートルに燃えている物はない。何だ?


 不意に目の前の空間が“揺らいだ”。

 次の瞬間、高さ5メートル程の高さの角材がこっちに向いて倒れてきた!


 危ないっ! 

  

 避ける間も無いし、俺の左右にはドラクルとツキハがいる。

 俺は無意識のうちに両腕を上げて角材を掴まえた。


「おい、お前様、人が居るぞ!?」なに? 人だって?


 捉えた角材はたいした重さじゃない、少し余裕を持てれた俺は視線を材木の先のほうに向けた。…確かに人がくっついている。んん、なんかデジャヴ? 見覚えのある人…女性だ、に負担がかからないように慎重に角材を横たえる。


 とりあえず観察する。

 やはり昨夜見た夢の少女だ。角材に縛り付けられている。

 通りがかった兵隊にナイフを借りて縄を切った。


「おい、しっかりしろ」


 少女は荒い咳ばかり吐いた。ナイフを借りた兵隊に水を持ってくるよう命令する。


 そう言えばフランス語で喋っていたな。なら。


「Dud de,avoir une vie」とこっちもフランス語で尋ねる。


「Mon,Mon mal de pieds」足が痛いらしい。ああ火傷か。


「ドラクル、この娘は足を火傷している。手当を頼む」


「わかった」スティラは医務室に走り出した。


「大将閣下、お水を用意しました」若い兵隊が水筒を差し出した。


「うん、ありがとう」俺は水筒を受け取り、キャップを開いた。


「Boire Ientement(ゆっくり飲め)」彼女に水筒から水を飲ませた。


 少しは落ち着いた様だ。だがまだ息は荒い。

 二口、三口と水を与える。


 そう言えば火刑の死因は全身火傷ではなくて酸欠だったような。

 まぁ何はともあれ彼女は死なずに済んだ。だからといって彼女が犯罪人の可能性はあるが。


 水を飲ませ、しっかりしろと励ます。そうこうするうちにドラクルが医療キットを持って帰ってきた。ドラクルはすぐに治療を開始する。


「彼女の見立ては?」


「足の裏に軽度の火傷だ。あとは煙を吸ったせいで喉に少し負担がかかっている。こちらも軽症だ」


「しかし転移の瞬間を見るとはな」


「ああ、貴重な体験だった」


「問題は彼女が犯罪人の場合だ」


「ここは転移後の世界だ、転移前とは事情が違う」


「それはそうなんだが……」


「…そう言えばお前様、異世界の言葉を喋っていたな」


「フランスという国の言葉だ、以前習った」


 スティラは胡散げな眼差しで俺を見ていた。ほうっておいてこ。


「それよりも彼女をそのままにしておけん、おい兵隊、そうそこの君たちだ。この娘を医務室に連れてやってくれ」


 野次馬の中から適当に兵を選び命令した。考えたら最初に連れていっても良かったのだ。


 兵ふたりが異郷の少女を運ぶ。通訳が必要だろうから俺も付いていった。





「Donc votre com・?(それで君の名は?)」


「Colette (コレット)」


「Alors quel est bon nom(そうか、良い名前だね)

 Mon nom est Lloyd、Mes meilleures salutations(俺の名はロイドだ、よろしく)」


 その後聞き出したのは彼女が異端査問会にかけられた(罪名は神の声を聞いたと吹聴し民衆を扇動した。むろん扇動なんかはしていないと言う)。  

 また彼女はフランス人で、ローヌ・アルプ地方のレニ村の出身である事がわかった。


「J’ ai entendu la voix de I’ Archange Gabriel(大天使ガブリエル様の声を聞いたんです)」


「N’ est pas ici,les anges ne jailli de Genie aucun moribito(ここに天使は居ない、精霊の息吹く所だ)」


 そんな、と彼女は絶句した。俺は宗教論争は嫌いだからその話題をやめさせた。

 あと大天使の声を聞いて何をしようとしたのかとか(飢饉と野盗の強奪から村を捨てさせ避難しようとしたからだとさ)、知っている限りの情報を聞き出した。

 とは言っても田舎の無学な娘で年齢も『たぶん十五歳』らしい。聞き出したい事はその程度だった。

 

 とにかく休めと言い残し、医務室を後にする。



「火傷は二週間もすれば治る」


「そうか」


 ドラクルに謝辞し、今後の方策をかんがえる。

 まぁいずれにせよ俺が面倒見なきゃならんのだが。


 しかし、予知夢とはな。工藤らの時には何も見なかったが、なんかの関連付けがあるのかないのか?

 そういやお伽噺のレベルで転移者と夢の中で会合する話があったな。少し調べても…いいか、面倒くさい。


「ツキハ君、明日一度館に戻って初等学校用の教科書を二冊持ってきてくれ」


「二冊ですか?」


「一冊は俺が必要としている。当面の間、俺が教師しなきゃならんのでな」


「はい、わかりました」


 ま、俺が面倒みるしかないしな。なるようになるさ。

フランス語訳はエキサイト翻訳ツールを活用しました。ツールは完壁ではないので間違いがあると思います(精霊がseireiだったり)


予知夢は『運命の人』に現れます。工藤涼子の場合、ロイドとは違う人物が夢に見ました。

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