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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第3章 ロイド辺境伯、領主として大将として
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第八十話 ロイド、ダーサとアレックスとアーリスと

 追跡部隊は夜になる直前に帰ってきた。


 ベンネル少尉が司令部に出頭してくる。彼は敬礼した。


「第一、第二、第三小隊、只今帰投しました!」


「苦労! で成果は出たか!?」思わず立ち上がる。


「ハ、小規模な巣は二箇所確認出来ましたが、根拠地となる場所は見つけられませんでした。申し訳ありません!」


「いや、一回目にしては十分だ。それでその小さな巣とはどこに合った?」


「位置は北都内の産業会館に巣くっておりまして、もうひとつは北都郊外の土の下であります」


「土の下…入ったのか……」


「ハ」


「あまり危険な事はするな」


「申し訳ありません……」


「いや無事なら良いんだ。ありがとう」俺は小尉の肩を叩いた。


「過分なお言葉、ありがとう御座います」


「色々聞きたいのだが、とりあえずは部隊を解散させ、飯を食ってから詳細を知る者と再度ここに戻ってきてくれ」


「ハ、了解しました!」





「産業会館は…ここか。で中は?」


「ハ、人や犬などの亡骸が残されており一階中央部に女王蟻の様なダーサが一匹、存在を確認しました。そこままでこれ以上は危険と判断し、産業会館から離れました。

 次に北都郊外ですが……この位置です。付近からダーサが居ない事を確認し内部に進入しました。

 内部は複雑かと思っておりましたが単純な一本道でして、あ…、明かりは魔法を使える者が照らしました。それで半町ほど歩いた場所に、先の様な女王蟻みたいなダーサが居るのを確認、すぐさま脱出した次第であります」


「報告、苦労であった。

 聞きたいのは遺体の状態だ。どんな感じだった?」


「見たのはうつ伏せの人間が六体、仰向けが人間が五体、犬三体、犬は仰向けでした。あと、仰向けの遺体は腹部が破られていました」


「なるほど、ありがとう」


 俺は視線を少尉から准将らに据える


「ジェラルド准将、スミカワ准将、これでふたつの謎が解けたな。

 ひとつは繁殖用の個体がある事と、もうひとつは人間らを苗床にしている事だ」


「気味の悪い話ですが人間らが苗床なのは理解できました。しかし報告は二箇所。おそらくは倍以上の巣があるかと思います」


「小官も同意します。敵の巣が二箇所だとは思いません」


「そうだな、巣はもっとある。そこで次に我々がなにを成す?」


「巣を見つけ次第焼いて潰す、ですな」


「あと捜索範囲をもっと広げながら」


「そうなるな。では作戦行動表を作成してくれ」


「ハ、畏まりました」


 行動表スケジュールの作成はジェラルド、スミカワ両准将に任せた。素人の俺が頭ひねるより実務的だ。もっとも監修はするがね。さて、明日は帝都から汽車が来る日だ。




 翌日、正午前に汽車がやってきた。

 客車より貨物車の方がやや多い。全部が全部、ファーレ領に向かう訳ではないが、かなりの物資がファーレ領に向かうのは確かだ。

 また客車の乗員は大半が金融関係の者だと見受けられる。貨物車の一両が金庫仕様のやつだからまず間違い無い。あとは郵便使も目立つ。

 兎にも角にもこれで中央銀行とは再連結した訳だ。

 反対に旅行客は見なかった。そりゃそうだ、この時期に旅行客なんぞ来ても仕方ない。危ないだけだ。おそらくだが、帝都の鉄道省が一般人に旅券を発券しなかったのだと思う。


 そんな中、ひとりの郵便使が俺の元にやってきた。


「ファーレ辺境伯様ですね、ベルデナント伯爵様よりお手紙を預からせて頂いています」


 郵便使は自分の鞄から一通の手紙を取り出した。確かに宛名は俺で、裏の署名はアレックスだった。


「手紙、確かに受け取った。ありがとう」


「は、ではこれで失礼します」


 郵便使は去った。どれ、中身を拝見するか……。


『我が親友ロイド・アレクシス・フォン・ファーレへ……』


 主な内容は屋敷の内偵のあれこれだった。結局不審かと思われる人物が何人か居たが、不審なだけで決定的な証拠は掴めなかったそうだ。

 ただ、女性使用人のひとりが意味深な事を口走った『帝国は恐ろしい存在機関です』と。  

 

 その台詞は俺も聞いた。帝都屋敷の元婦長からだ。

 字面だけみればたいした事をいっている訳ではない。帝国という存在を維持する組織だ。平面的にいえば内務省や軍務省、司法省、ほかの各組織がそれにあたる。だがどうも裏の言い方があるみたいだ。何だろう?


 ……体制を維持する為の非合法な組織か。それならまぁ話は繋がる。しかしそんな非合法な組織なんぞ必要か?

 いやいや、『帝国』を維持するにはそんな裏の組織が必要かもしれんよ。元婦長のアーリスならその片鱗は知っているだろう。しかし、全容は知らんとみた。まぁ一度きちんと聞いてみるか。

 

 戦線は新しいフューズに入った。俺が少し抜けても良いだろう。館に戻らねば。




 司令部に戻った。

 北都周囲の地図の前で議論している准将ふたりに声をかける。


「ジェラルド准将、スミカワ准将、二日ほど領地に戻らければならない。その間現場の総指揮はジェラルド准将に移譲する」


 ふたりは最初『なに言ってるんだ?』みたいな顔をしていたが、ツキハ大尉の跳躍能力を思いだしたのか納得顔になった。


「ハ、ジェラルド准将指揮を取ります」と敬礼して言った。


 俺は答礼を返し、スミカワ准将に向き直った。


「スミカワ准将、そういう訳であるからジェラルド准将を支えてやってほしい」


「ハッ! 了解しました!」彼も敬礼する。


「ツキハ大尉、俺を館に連れて帰ってくれ」スミカワ准将に軽く答礼してツキハを呼んだ。


「ハ。では跳びます」




 一瞬で館の玄関ホールへと着いた。玄関ホールに控えている家女中が驚いていた。

 彼女に軽く謝り、二階の執務室に入る。

 呼び鈴を鳴らすとジルベスターが入ってきた。突然俺が現れても驚く事はなかった。


「ジルベスター、大公妃殿下の元にいるアーリスを呼んできてくれ」


「畏まりました旦那様」家令は一礼すると出ていった。



 待つ事十数分後、扉が叩かれた。


「アーリス参りました」


「単刀直入に聞く、『存在機関』とは何だ?」


「……申し上げにくいのですが」


「命令だ、拒否権はない」


 アーリスは逡巡している様だが、やがて顔を上げ視線を俺に合わせた。


「では申し上げます

 ですが私もすべてを知っている訳ではありません」


「構わん」


 一拍置いて彼女は口を開いた。

貴族一覧

皇帝 帝国を統治する第一人者

帝室 皇帝の家族

公爵 皇太子以外の位階を持つ者が在地貴族として統治する者

大公爵 公爵位を持つ者で複数の領地を持つ者

侯爵 伯爵位を持つ者で複数の領地を持つ者

辺境伯 伯爵位を持つ者で最前線に領地を持つ者

伯爵 国が帝国軍により崩壊する際に王族が降った者の家系。または法服貴族の最上級者

子爵 国が帝国軍により崩壊する際に議員階級の者が代表。または帝室の女子が持てる位階。また帝室の女子は一代貴族

男爵 複数の荘園を所有する者。これより下は一代貴族

准男爵 荘園を所有する者

勲爵士 公職につく者

帝国騎士 軍に属し、小隊長以上の階級保持者

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