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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第3章 ロイド辺境伯、領主として大将として
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第七十八話 ロイド、前線に戻る

 さて今週からまた大将として前線に行かねばならない。

 だが派遣兵団は人員の損耗も激しく完全充足には足りていないでいる。また徴兵令は議会が通さなかった事もあり、完全充足はまだ先となる見通しだ。


 しかし、それでも人員をやり繰りして一個旅団(二個大隊)を対ダーサ用に派遣する事となった。

 なお、俺が行くのはあんまり意味が無い。いやあるんだが、どちらかと言うと政治的な話だ。北都解放に向けてファーレ大将が前線に立つ。これだけだ。

 要は宣伝である。カメラマンが前線に立つ俺を撮る。そしてそれは帝国のあちこちに配信されるのだ。で徴兵を募る。そういう訳だった。


「兄さん、また行くの?」


 イライジャが心配しそうな顔で尋ねてきた。


「仕事だからな。それより学校の方は馴染めたかい」


「学校、面白いよ」


 俺はニッコリと笑う。


「それは良かった。いいかいイライジャ、俺には俺の仕事がある。君は君で学校へ行かねばならない」


「うん……」


 俺はイライジャの髪を梳くように優しく撫でた。イライジャは面白がるように笑う。それを見た俺も嬉しくなった。


 ひとしきり撫でて残心をはらう。

 イライジャが寂しい顔になるが仕方ない。


「もっと撫でていたいが俺も君もやるべき事がある。分かるね?」


「……うん」


「では行ってくる。君は君できちんと勉学に励みたまえ」


「はい!」


「良い返事だ。ではな」


 名残り惜しさをふっ切って玄関ホールを出る。

 ホールには執事らが揃って居り『行ってらっしゃいませ旦那様』と唱和した。俺はそれに対し軽く手を振る。

 駐機している馬車に乗り込んでステッキの石突で御者に合図を送った。

 なお乗車しているのは俺とツキハ大尉、旅団の本来の指揮官であるジェラルド准将とその副官の大尉(名は知らん)の四名だ。

 馬車の前後には騎乗したエルフ共が居り、俺を護る。

 俺の居る位置は旅団の真ん中のやや後ろだ。全員騎乗か馬車に乗っている。こー言うのも機動部隊と言うのだろうか? なんか間違っているのか? 


 まあ我が旅団は精鋭ばかりだ。気に止む必要性は感じない。

 信号手が出発の喇叭ラッパを鳴らした。



 大都を抜け街道を征く。道行く人らが『奉賀ウーラン!』と万歳していた。それを受けてこちらの兵らも『奉賀!』と返していた。

 中には丁寧に『大将ウーランファーレ、奉賀オーブシン』と返す者もいた。まぁまかり間違っても現状で『皇帝陛下ウーラン奉賀ツァーレ』とは呼んでいけない。流石に不敬だ。(戦闘状態なら別だが)


 街道を上る。僅か七日で連装大山脈まで来た。一旦大休息をとり峠に入る。ここでも意外な行軍が進み五日目には峠を後にした。そしてまた大休息をとり戦意を整える。


 北都奪還駐屯地に入る。ここは中央駅を要塞化(通常の駐屯地よりマシな防御力だが)した駐屯地だ。ここには帝都を根拠地にする部隊が月勤で出動している。

 俺は馬車を降り、ジェラルド准将と司令部に入った。


「ファーレ大将閣下のご入来! 総員起立!」


 敬礼と答礼をやり取りする。


「引き継ぎをしたい。最上級者は誰か?」


「ハ、スミカワ准将であります」


「彼はどちらに?」


「ハ、あ〜陣地を視察中であります」


 軍属の日系人は初めて見るな。


「俺が到着した事を伝えてきてくれ」


「ハッ!」大尉の徽章をつけた男が走り去った。ちょいと暇になったんで手短な男に声をかける。


「君、准将が責任者だと言うなら部隊の規模は旅団か?」


「はい、いいえ増強大隊であります」


「増強大隊とは聞いた事が無いな」


「はい、一個大隊に二個中隊の編成で今回初めて結成されました」


「そうか、ありがとう。任務に戻って良し」


「ハ、任務に戻ります」見れば彼は兵站科の幕僚のようだった。書類整理に埋没していた。


 五分程すると先の大尉と見知らぬ高級幹部が現れた。彼がスミカワ准将らしい。おおよそ五十代の白髪が目立つ男性だ。


「お初にお目にかかりますスミカワ准将であります。英傑と名高いファーレ大将と面識を持てて幸いです」スミカワ准将は敬礼した。


「この最前線に来た君だ。それならば有能に違いない。自分も面識を持てて幸いだ」答礼しながらそう応えた。


「しかし何だ、失礼だが中途半端な編成だな」


 スミカワ准将は苦笑した。


「前線に張り付ける兵の調節です。

 当初、ここには師団規模の兵が居りましたが、半ば遊兵と化しておりまして兵力の削減に踏み切りました。我が大隊に二個中隊を擁しておりますのもその一環です」


「なるほど、で具合はどうかね?」


「やはり一個旅団編成の方が良いと思います」


「下手な小細工は無用か」


「はい」


「ところで」と話を切り換える。


「汽車の方は通常運行はまだなのか? そろそろ中央と繋ぎたいのだ」


「それは早くて今週、遅くても来週には運行が始まります」


「そうか、ありがたい話だ」


「まあ立ち話もなんですし、こちらへどうぞ」


 地図の描かれたホワイトボードの前に床几が置かれている。准将はそちらに向かった。

 俺も彼らも床几に座る。


「従兵、茶を用意しろ」スミカワ准将は従兵を呼びつけて命令した。


「ファーレ大将閣下、この白卓板に描かれているのが北都の大まかな地図です。で赤い線が最前線であります。 

 現状、狼の口は問題なく稼働し、板塀の上部にはねずみ返しの様に外向きに傾斜を付けております」


「お茶を用意しました」


 従兵が話の区切りがついたと判断して口を挟んできた。


「ありがとう」と言って湯のみを受け取り、ひと口飲む。渋い茶だ。

  

 なんでこうも軍の茶は渋いのか。俺は甘茶が好きなので、こうした渋い茶は苦手だ。


「その様子ですと軍の茶は苦手ですかな?」


 准将は苦笑した。俺も苦笑を返す。


「俺は甘茶が好きでね、軍の茶は駄目だ。今度兵站のやつに甘茶を取り扱うよう申請するよ」


「賭けても良いですが、たいていが通りませんよ」


「そうなのか?」


「自分も経験がありまして、まぁあの時は大佐の時にでしたが」


「ならまだ目はあるな」


「ですね」


 ふたりで笑いあう。

 ひとしきり笑って真顔に戻す。


「ダーサ共の攻勢はどうなっている?」


「現状、ダーサの攻撃は沈静化しています」


「パターン…行動様式が沈静化だと?」


「先週から戦闘は止まりました。ですが何時攻勢に出てくるか読めません」


「ずいぶんと気味の悪い話だな」


「はい」


「奴らが全滅したとは考えられないな」


「小官も同意します」


「ジェラルド准将、貴君はすみやかに部隊の展開を」


「了解しました」


「スミカワ准将、指揮権を移譲してもらいたい」


「ハ、ファーレ大将に指揮権を移譲します」


「ありがとう。ジェラルド准将、実務は任せる」


「はい、任されました」


 どのみち俺にはまともな指揮なんて出来ないんだし、適材適所だ。

 しかし三個大隊におまけ付きか、微妙に不安感があるな。え〜と一個大隊は四個中隊だから……、十二個中隊な訳だ。でおまけの二個中隊を含めて十四個中隊か。

 かなりの数だが攻勢に出るにはちょいと不安だな。だが、まあ仕方ないか……。


 さてと、俺は暇だから今の内に手紙でも書こう。帝都の中央銀行に帝都屋敷、アレックスやオットー、後は俺のスポンサー達と西部に作った物産販売所。こんなとこか。オーケイオーケイ、レターセット持ってきて良かった。

 しかし、次から執事をひとりかふたり連れてくるのもいいかもな。こっちでもある程度の仕事が出来るように。

軍の編成はウェキペディアからのを参照にしました。


ようやく444444文字に手が届きました。長い道のりでした。でもまだ半分も来ていません。頑張ります。

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