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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第3章 ロイド辺境伯、領主として大将として
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第七十六話 ロイド、スパイの炙り出しに失敗する

 さて、どんな手段で内通者を炙り出そうか?

 効果性が高いのは様々な噂話を館の何人かにそれとなく漏らし、噂話のルートを探る作戦だ。手間はかかるが一番わかり易い。

 家令のジルベスターと婦長のフレイ、そして婦長補佐のユージーンを呼び出し、相談を持ちかける。


「我が家の使用人らの中に帝国の間諜が潜んでいる。これの炙り出しに手を貸して欲しい」


「それは反対しませんが、私にはその手段がわかりませんのですが……」ジルベスターが困ったように口を開いた。


 そこで俺は俺なりの炙り出し方を教える。


「なるほど、噂話をそういう風に使うのですか」


「そうだ、誰が誰に話し、どう尾ひれが付くかもだ。それと出入りの業者にも気を配れ」


「はい、承りました。それでどの様な噂話を持ち出しましょうか?」


「そうだな、定番なのは俺の醜聞だな」


「坊っちゃま、具体的には?」


「俺の色狂いなんかはどうだ」


「はい、坊っちゃま、品がなさそうなので反対します」


「だが今、俺に関する噂話は無いだろう?」


「ならせめて誰かと特定して下さい」


「旦那様」とフレイが横から口を挟んできた。


「別に男女の事ではなく、単純に間諜が潜んでいるでよろしいのでは?」


「うん、もっともな意見だ。ありがとう」


「では家中に…とはいえ誰から話をもって行きますか?」


「執事と客間女中、洗濯女中から始めよう」


「わかりました。執事の方は私から」


「ジルベスター、頼む」


「はい」


「では客間女中には私から、洗濯女中にはユージーン、貴女からお願い」


「はい、かしこまりました」


「とりあえずの期間は一週間後だ」


「はい」




 とまあこうしてスタートした炙り出し作戦は見事なくらい頓挫するに至った。


「漏洩らしい漏洩は無かったか」


「は、執事らの中からは不審な人物は出てきませんでした」


「旦那様、客間女中、洗濯女中らの中にもです。また洗濯女中からの業者にも怪しい人物はおりませんでした」


 さて振り出しだ。やり直すか諦めるか、どうするか?

 館の中に潜んでいるのは確かだ。では疑うべきは婦長やユージーンも含めてとなる。…となれば炙り出し作戦はすでに失敗している事になる。さて……。


 駄目だな。疑えば疑うほど疑惑の深みにはまる。

 失敗だ。しかしそのうちに挽回してみせるぞ。


 とりあえず内通者には内通者だ。アーリスに防諜カウンターインテリジェンスの任務をあらためて与えよう。


 アーリスか、彼女なら内通者の尻尾は掴めるだろうか? もしかして内通者とつるむ可能性もあるがね。

 いかんいかん疑い出せばきりがない。


 アーリスの事を考えていたらレティカの事も気にかけなきゃならないな。……ちょっと見に行ってみるか。



 部屋に集まっていた三人を解散させてレティカの所へ行く。


 

 部屋のノックを鳴らす。

 アーリスが出てきた。


「大公妃殿下に会いたいのだが、構わないかね」


「はい、奥様は胎教の為の音楽を聴いておいでです」


「ならちょっとお邪魔するよ」


「はい」と彼女は扉を開けた。




「やあプリンシペッサ、お邪魔してよろしいか?」


「うん構わないよ」


「先日、皇帝陛下に謁見した際に君の事を案じておられたよ」あの件は後回しで良い。今は無事に子を産む事が優先だ。


「へぇ、皇帝陛下がね」


「元気な子を産んでくれとさ」


「……母になるのって、ちょっと怖い」


「君なら立派な母親になれるよ」


「ありがとう。……ところで君にお願いがあるんだ」


「どの様な?」


「産まれてくる子の父親になってほしい」


「…………現実的ではないな」


「それはわかっている。だけど」


「父親“役”くらいは出来るが、それ以上は無理だ」


「それで十分だよ」


「わかった。役を引き受けよう」


「ありがとうロイド」


「しかし俺では不敬だな」


「真似で良いんだ」


「いや、ま、演ると約束したんだ、精々それらしく演るさ」


 男児が産まれば万々歳だが、女児なら大変だ。果たしてどちらが産まれてくるのだろうか?

 しかし、レティカは子供の為のとは言ったが、むしろレティカはレティカ自身の為に俺に父親役を演ってくれと言ったんだと思う。

 まぁ情緒不安定になると胎教に悪いんだから構わないがね。


「ところで侍女長のアーリスとは上手く行っているかい?」


「うん、彼女は有能だね」


「それは良かった。さて、ではこれでおいとまするよ」


「もう行ってしまうのかい?」


「済まないとは思っている。だがやる事は色々あるんだ」


「……うん、わかった。行ってらっしゃい」


「おう、行ってきます」


 アーリスが扉を開けた。

 抜けざまに『あとで話がある』と小声で伝えた。彼女も小声で『はい』と了承した。




 夜。俺の元にアーリスが来た。


「どの様な御用でしょうか」


「うん、…君に防諜の話をしたが、もう少し仕事を増やしたい」


「何なりと」彼女は綺麗なお辞儀をした。


「君の仕事の合間に館の間諜を探ってほしい」


「難しいですね」


「難しいのはわかっている。出来るかね?」


「やれる範囲でなら」


「それで構わない」


「間諜を見つけ出したらどうなさいますか?」


「とりあえずは俺に報告だ」


「わかりました」


「君の事例があったからね、疑い出せばきりがないんだ」


 アーリスは小さく苦笑した。俺も苦笑を返す。


「アーリス、仕事を増やすようで悪いが是非に頼む」


「はい。お話は以上ですか?」


「ああ、行って良いよ」


「はい、では下がらせて頂きます」彼女はスッと一礼して部屋を後にした。


 今はこれ以上のカードが無い。手持ちのカードを増やす手段を探らなければ……。


 さて、明日は初等教育学部の開校だ。あんまり行きたいと思わないが仕方ない。俺みたいな強面みて子供がビビらなきゃいいんだがね。

お館様の呼び名はあっても使いません。昔語源を知った時に『これは使えないなぁ』と思ったからです。

意味? 意味は忘れました(笑)

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