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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第3章 ロイド辺境伯、領主として大将として
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第七十五話 ロイド、鉱山の異変に驚愕する

 執務室にて書類を決裁していたら意外な訪問者が現れた。

 金山で管理者をしているアンスヘルム・デル・アンスガーだ。こいつはセコい中間管理職だったのだがやり繰り(金を持ち出し他領で第三者を経由して換金)が上手いため粛正の対処にしなかったのだった。単なる横流し野郎ならクビにすれば良いのだが、こいつは稼いだ金の大半を孤児院や救世院に寄付していた。だから俺はこいつをクビにしなかったのだ。

 そのアンスヘルムが吹き出した汗を拭いながら口を開いた。


「鉱山がた、大変な事になっております」


「どう大変なんだ?」


「こ、鉱山の坑道が全て埋まりました」


「崩落事故か!?」

 

「夜間でしたので工員に被害は在りませんでした」


 それは良かった。


「とにかく一度、辺境伯様には見てもらいたいと」


 要領の得ない話だが仕方ない。


「グレッグ、馬車を回してくれ。それとヒューとツキハ、君の三人が来てくれ」

    

「はい、承知しました」グレッグは優雅に一礼すると出ていった。


 

 馬車に乗り込みもう一度尋ねる。


「俺が出張らなきゃならない事態とはなんだ?」


「……どこから説明したものか……、その朝一番で坑道へ向かった者が慌てて事務所に駆け込んで来ました。第一報は坑道が埋まりましたと。

 そこで確認のため私が向かいました。……確かに一番坑道は埋まっておりまして、最初は単なる崩落かと判断しました。

 ですが二番坑道、三番坑道と相次いで埋まっていたのが分かり、調査のため一番坑道を少し掘削する事にしたのです。そうしたら金鉱脈が出てきた訳です」


「二番坑道、三番坑道もか?」


「二番坑道はまだですが、三番坑道には小さいですが金鉱脈がありました」


「なんともまぁ」


「はい、みな唖然呆然でした」


「箝口令はしいたか?」


「はい、流石に事が異常でして、先ずは辺境伯様のご判断を頂こうと」


「他は何かあるか?」


「現在、掘削人らは待機中にしてあります」


「よろしい」


 そうこうしているうちに馬車は金鉱山へ着いた。


 アンスヘルムを先頭に一番坑道へ向かう。




「なるほど埋まっているな」


 より正確には山の斜面にしか見えない。トロッコの軌道がなければ気付かないレベルだった。


「ここに金鉱脈が見えています」


 どこだ? ああこれか。少し掘削した所の土の黒にわずかに金色の筋が走っている。昔、テレビで見た事のある紋様だった。


(なにがおきている?)


「鉱山はしばらく閉鎖だ。口の硬いやつを何人かで鉱脈を試掘させろ」


「はは」


「なぁグレッグ、こうした事例って聞いたことあるか?」


「いいえ、ありません」


「だよなぁ」


「つまり、何が起こったんです?」ツキハが間抜けな事を言い出した。


「ええとですね、ここの鉱山は尽きかけた鉱山だったんです。それが一夜で元通りになったんですよ」グレッグが苦笑して応えてあげた。


「鉱山が元通りになりました、だなんて誰も信じやしねーよ」


「俺だったら笑い飛ばします」ヒューが応える。


「そうだよな」


「当面は様子見ですか、ロイド様?」


「…それしかないだろ、帰ったら国務尚書殿に連絡は入れるが」




 帰るとジルベスターが慌てて迎えに出てきた。


「ロイド様たいへんです!」


「今度はなんだ?」


「領内のあちこちの鉱山が埋まりました」


「きちんと説明しろ」


「申し訳ありませんでした。アザルカ鉄鉱山を筆頭に領内ニ十六の鉱山、その坑道が全て土に埋まりました。また一部坑道では再び鉱石が取れたとの事です」


「何と言う事だ」


「はい、前代未聞です」


「俺は通信室へ行く」


「は」


 

 通信室に入り魔力の供給を確認、回線を開く。

 暗証番号を入力し国務省へ繋いだ。


「申し訳ありません、只今たいへん混み合っております」国務省の交換手は申し訳なさそうに告げた。


「また改めて連絡します」駄目だこりゃ。


 回線をブローグ伯爵の所へ回す。緊急を擁する事態なので私信では無い。通信機は公用の為にあり、私用は厳禁なのだ。


 交換手を経由してすぐに伯爵は出た。


「久しぶりですロイドです」


「この回線を使うという事は鉱山の件かね?」


「はい。鉱山が復活するなんて前代未聞です、しかし問題とするのは金山の事です」


「『我らが同盟』の復活か」


「はい。ザラ子爵らは必ず提案してきます。ブローグ伯爵も倣いますか?」


「……条件付きなら構わんがね」


「条件とは?」


「我ら三人に産出した金の三分の一を提供する事」


「……なるほど、よろしいでしょう。ちなみになぜ三分の一なんですか?」


「三分のニなら強欲だし、二分の一なら君の労力が負担になるからね」


「気遣いありがとうございます」


「残るふたりの説得も自分がしよう」


「なぜです?」


「君が音頭を取れば反抗は必至。まとまる話もまとまらない。それなら自分が前に出て説得する方が連中も収まり安い」 


「重ねがさねありがとうございます」


「なに、打算はあるさ」


「どの様な?」


「君が先日贈ってくれた製紙機、もう一台強請りたい」


 なんだ、そんなトコか。


「よろしいでしょう。すぐにでも用意させます」


「若いうちには苦労は買ってでもしろとあるが、今の君は傍からみても忙しい。まあ今回はそんな所だ。ではな」


「はい、ありがとうございました」


 通信が切れた。安く済んだ。これだからあの伯爵には頭が上がらないんだ。


 しかし、明日また鉱山が無くなる可能性もあるんだがな。いや、むしろこれからは“それ”を意識しなければならないのだ。

 これは精霊からの贈物ギフトなのか? わからん。

こんな超常現象は初めてだ。便利、というよりむしろ脅威の範疇だ。 


 しばらく待って再び国務尚書の所へ通信を試みた。やはり混雑しているようだった。

 面倒だ。俺はツキハを呼んで帝都に乗り込んだ。まだ直談判する方がマシだ。 



「ファーレ辺境伯だ、オイゲン国務尚書閣下にお会いしたい」

 

 国務省にて受け付けで名乗りでた。『少々お待ち下さい』と言って奥に行く受け付け嬢。


「閣下はお会いになるそうです。ですが少々お待ち下さいとの事で」


 よっしゃ、押しかけ成功。


 それから十五分程待った。




「今回の事は前代未聞過ぎる、どうにもならん」


 ロマンスグレーのおじさんだったオイゲン国務尚書は十は老け込んでいた。


「私が恐れているのは、今日埋まった坑道が明日には消えてなくなるやも知れない事です」


「……そうだな、その可能性がある」


「坑道の掘削はどこまで進めましょうか、大方針でも聞ければ幸いです」


「今朝の話で大方針なぞ決められんよ」 


「申し訳ありませんでした」 


「だが卿の言いたい事は理解できる。……そうだな、掘削は慎重に、機材はできるだけ残さず回収して終われ、ぐらいだな」


「了解しました。そのように通達します」


「事が事だ、大方針もすぐには決まるまい」


「は」


「現状まではここ迄だ。下がって良い」 


「はい、お時間を取らせて申し訳ありませんでした」


 俺は国務尚書の執務室を辞した。

 ツキハには余力があった為、すぐに領地へ帰る。


 その数日後、いくつもの鉱山で正式に鉱石が取れる事が確認された。精霊の気まぐれかどうか知らんが利用できるなら利用するまでだ。

 ただ通常は坑内に残す機材でも回収せねばならないので操業と終業に時間を取らせる事となり、その分稼業時間が狭まった事だ。まぁ、それぐらいは許容せねばなるまい。



 一週間後、ブローグ伯爵から約定を取り付けたとの連絡が入った。

 また鉱山の大方針も可能な限り慎重に進め、との声明が出たのだった。

この話はイクサリアを造った超越者からのギフトです。

何故そんな事をしたかと言うと、人類達の消費が予想より多かった為です。

超越者も万能ではありませんので。

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