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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第3章 ロイド辺境伯、領主として大将として
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第七十四話 ロイド、古巣の婦長に会う

 一度帝都屋敷に戻った。

 直接『彼女』に合うのは失礼かと思い、やはり訪問状を出した方が良いように考えたからだ。


 フラリス・ベール・ヒンブス。彼女の実家は…どこだ、え〜とバッテン通りの小さな商家だ。つーか、バッテン通りが何処にあるのかが分からん。

 街の字引を引き出して調べる。……あった。ブレーメン地区にか。

 呼んでも良かったのだが、帝都屋敷の中では誰に聞かれるかわからない。まああっちに行っても変わらんのかも知れないが、ここよりはマシだろう。


 やはり小間使いに言付ける。さて返事はどうなるのかな?



 小間使いが帰ってくるまですることが無い。暇だから書庫の整理でもするか。

 要る本要らない本と分けていたら結構な時間が過ぎていた。


 ちょっと一服しようとしたらジャストなタイミングで小間使いが帰ってきた。


「明日の午後にでもお邪魔させてもらいます。との事です」


 う〜ん、こっちが元主家で奉公人の元に訪れるのは風聞が悪いか。それが筋なのはわかるが…、仕方ない来るのを待つか。こう言う時に携帯やスマホがあればやり取りが効率良く行くんだがな……。

 まぁあれこれ考えても仕方ない。来訪に備えるか。

 一服してまた書庫に戻った。



 翌日、午後。直ぐには現れないか。

 午後の一刻を過ぎてもまだ来ない。何かトラブったか?

 あ、そういや引っ越し先知らないのかも……。どうしよう……。

 悩んでいたらようやく訪問者が来た事を告げられた。


 応接間に通す事を伝える。


 


「申し訳ありません辺境伯様」久しぶりに見た元婦長は元気そうであった。


「もしかして道に迷っているのかと思っていた」


 彼女の頬が僅かに赤みがさした。どうやら図星らしい。


「それがその……引っ越しの差配はしたものの肝心の住所を失念しまして、遅参した次第で……」  

 

「引っ越しあるあるですな。まぁとりあえず応接椅子にどうぞ」   


 控えの女中に茶を用意させる。


 茶と茶菓子はすぐに用意された。

 これが英国なら茶碗に描かれた絵の品評があって、それらに対し小粋なジョークを話さなければ無粋なヤツと思われたりするが、帝国式の茶会はそんな事しない。小粋なジョークだなんてどんな罰ゲームだよ。


 茶を二口ほど飲んだ彼女な居住まいを正した。


「それで私を呼んだのはどの様な内容でしょうか?」


 俺も彼女に合わせ、背筋を伸ばす。  

  

「帝国情報局とは、どの様な構成なのですか?」 

 

「それは……」  


「どの様な人間が働き、どの様に連絡を取り合ったりするのかを知りたいのです」


「私は現場の者で多くは知りませんが」 


「お願いします。何か助言を頂ければ」  


「何かございましたか?」  


「防諜に漏れがあって内密な話が外部…帝国に知られています。俺はこの状況を好みません」


「そうでしたか。……そうですね。まず伯爵位より上の位階を持つ方々には使用人が間諜として働いています。私は先代の辺境伯様にお使えして裏の業務に携わっておりました。また連絡には秘密投函所ドロップを利用していまして配達人クーリエが定期的に参ります」


「なるほど、では皆、婦長などの高位役職者なのですか?」


「いいえ。侍女や客間女中、執事、従者など様々です」


「見分ける方法はありますか?」 


「いいえ、無理です」


秘密投函所ドロップとありましたが、それは屋敷の中ですか、外ですか?」


「それはお屋敷の立地場所等にもより、一概には言えません。例えば、先代の立地場所なら郵便受けの隣の木、そのむろがそうでした」


 秘密投函所ドロップ配達人クーリエか、古今東西情報局とは短刀ナイフ・アンド外套・コートなネタが好きだな。そーゆうのが好きなヤツが居るんだろう。友達になりたいな。


 しかし難問だな。見分けがつかないとは全員疑ってかかれかよ。


「今の立地ならどこに置きますか?」


 彼女は考え込むように沈黙した。


「そう…ですね、屋敷の表にある街路樹を利用するでしょうか」


「今まで会った事のある最高位の人間は?」


「精々係長くらいです」


 なら大した事のないスパイか?



「ところで辺境伯様、女官をひとり雇われませんか?」


 不意に元婦長…フラリスが訊ねてきた。


「いや、今の所は……、何か懸案でも?」


「はい、お恥ずかしながら私の古巣が辺境伯様の所へ行けないか、と」


「俺の所へは間諜が入り込んでいない?」


「いえ、正確には大公妃殿下の元へ入り込みたいのです」


「……ずいぶん率直ですね」


「それだけ上が焦っているのです」


 ……ほほう。


「それは自薦ですか他薦ですか?」


「もし辺境伯様がよろしければ私が参ります」


「それは構わないのですが、そうなると家中の階級が」


「一度は退職した身です侍女扱いが正しいかと」


「いや、いけません。最低でも侍女長にはなってもらいます」

 

 元帝都屋敷の婦長とはいえ下っ端女中では風聞が悪い。


「過分なお言葉、痛み入ります」


「アーリス、アーリスで構わないな?」


 フラリス某よりアーリスの方が馴染みがある。


「はい、構いません」

   

「ならいつ引っ越せますか?」


「報告書を上げて、認可が下りればすぐに。ですが最低でも四日は要ります」


「よろしい。では六日後に迎えを出します」


「わかりました」





 六日後、館へツキハと共にアーリスが現れた。アーリスは突然景色が代わったのでびっくりしていた。


「ようこそ領主の館に」


「……汽車での旅かと思っておりました」


「ツキハの能力は内緒にしておいて欲しい。軍事機密でもある。どのみち汽車は完全に稼働していないのだ」


「はい、承知しました」


「アーリス、君には申し訳ないが君の序列は第三階位になる。役職は大公妃殿下付きの侍女長だ。婦長、ユージーン、館の中を案内してあげてくれ。

 アーリス、君の部屋に制服が用意してある。着替えたら各所に挨拶をして、その後大公妃殿下の元へ行ってくれ」


「畏まりました。アーリスさんお話は伺っております。早く慣れる事を期待します」


「アーリスさん、お久しぶりです。またよろしくお願いしますね」


「はい、こちらこそよろしくお願いします」


「大公妃殿下には話を通してある以後は頼むぞ」


「承知しました旦那様」


「北部には君の古巣の者は居ない。新たに連絡手段を構築してくれ」


「はい」


「何か情報が上がればまず俺に知らせるように、その後は君の管轄だ、良いね?」


「はい、旦那様」


「あと君は防諜要員だ。それに沿って行動してくれ」


「はい、畏まりました」


 こうして俺は防諜要員カウンターインテリジェンスを手に入れた。

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