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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第3章 ロイド辺境伯、領主として大将として
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第七十一話 ロイド、中央駅奪取作戦を発動する

 北都中央駅奪取作戦は帝国暦七百二十三年、曇り月の七日に決定した。

 中央駅の構造と距離から派遣兵団が囮となる形だ。問題は駅奪取をこちらが上手く行かねばならない事である。多分に政治的ではあるが、そうであるがゆえに成功させねばならない。


 たがしかし問題も山積みだ。第一に舞台は市街地なのだ、砦の延伸は出来ないし(出来なくともないが倍以上の手間がかかる)、また狼の口戦術も使えない。ようするに守るのが非常に手間なのだ。

 構想としてはこうだ。

 駅と駅前ロータリーを奪取した後はコンクリートで要塞化、線路もまた安全圏まで防御壁を作る。市街地の奪取は二の次で敵勢力の脅威度にあわせ対処する事となった。

 駅さえ奪えれば帝都と再直結できる。いうなればこの作戦はそこに帰着するのだった。戦略目標がはっきりしている分、作戦工程は簡素に仕上がっていた。





「……ファーレ大将閣下、時間一寸前です」


 戦務科の幕僚が告げに来た。俺は軽く頷く。


 午前第三刻半(午前七時)をもって作戦は発動する。中央駅まで指呼の差ではあるが兵らにとっては長き道であろう。


 カーン、カーン、カーン、コーン。時間だ。俺は指揮杖を駅方面へ向けて口を開いた。


「所定により行動開始せよ!」


 それと共に信号弾が上がった。


『オオーッ!』『ウーランツァール!』『ウラーッ!』


 ときの声を張り上げた兵隊達が整然と突進し始めた。彼らは分隊ごとに指定された建物へ突進し、安全圏を確保していく。


 抵抗は少なく、順調に作戦は進む。ダーサにとっては中央駅には興味無いのか? まあ良い、順調なのは良い事だからな。


 戦闘開始から十寸(三十分)。中央駅確保の一報が入った。良し!

 

「至急、工兵隊を出し駅周辺を要塞化せよ」


「ハッ、伝えます!」


「工期はどれほど掛かる?」


「予定では一週間(十日)となります」


「警戒を厳に、決して気を抜くな」


「了解であります」


 予定表があるのでそれを見れば分かるのだが、つい言葉に出してしまった。つまりそれだけ俺は戦慣れしていない証拠だ。


「派遣兵団と合流しました!」


「よろしい。予定表の通りに工事を始めさせろ」


「ハッ!」


「ダーサ共の反抗があるやもしれん、兵らには気を抜くなと伝えてくれ…いや、それは俺が言う台詞ではないな」


「ファーレ大将閣下、もう少しお気を楽にされても大丈夫ですよ」


「ありがとう戦務幕僚。だがちょっとした変化でも見過ごすな。俺達はダーサの生態を完全に網羅した訳ではない」


「ハ、承知しました」


 駅に付属する操車場も確保したし、汽車も確保した。これで本作戦も半ば終了した。


「機関車の動力試験をしたいのですが?」と幕僚のひとりが発言してきた。


「俺もそうしたいがダーサを変に刺激したくない。もう三日ばかり待て」


「わかりました。無駄な発言を許してください」


「いや、君の懸念ももっともだ、謝罪にはあたらない」


「ありがとうございます閣下」


「敵襲ぅ、敵襲っ! 敵第一波がきました!」


「工兵隊は作業を続けさせろ。他の者らは所定に従い防衛にまわれ」


 俺は思わず体を浮かせた。


「敵の密集度の高いのはどこか!?」少将が吠えるように聞いた。


「え、駅前車周り東側です!!」


「派遣兵団にも伝えろ。工兵隊を守れとな」


「了解しました。伝令を出します」


「敵第一波撃退! 続いて第二波!」


「今のでこちらの被害は?」思わず戦務幕僚に尋ねた。


「軽微です閣下」


「そうか、無理はさせるな」


「伝えます」


「線路側にも敵襲です!」


 あっちは派遣兵団野管轄だ。こちら側からは何も言えない。だが工兵隊を守る図式は変わらない。


 

 結局この日、敵襲は十五波を超えた。こちらも向こうも夜戦はしない。目の無い連中が夜間動かない理由は分かっていない。

 こちらは適時交代して戦ったので被害らしい被害はほぼ出なかった。ただ工兵隊はオーバーワークとなったが。だが少なくとも戦略目標はほぼ達成したと言っても過言ではなかった。




 時刻は午後の四刻(二十時)、駐屯兵団本部では報告が行き渡っていた。

 予想よりも少ない被害で乗り切ったが、工事の工程表は(彼らにとっては過剰労働だったが)思ったほど上がっていない。

 そりゃそうだ。前代未聞の作戦に決まった工程表なぞ存在しないのだからな。


 ツキハにはリポートを持たせて軍務尚書の所へやった。帰りは明日で構わないとも伝えてだ。


「閣下、ただいま戻りました」ひょっこりとツキハが帰ってきた。


「明日で構わないのに」


「いえ、単独なら往復は問題ありませんが。…それと、やはり跳躍は余裕が生まれていました」


「苦労。下がって休め。…あ、軍務尚書閣下はなんとおっしゃていた?」


「はい『ご苦労であった。近いうちに参内せよ』と」


「……わかった。下がってよし」


「ハ!」


 参内か、俺に対してご苦労さんと言うだけなのに、しかも主役は兵隊達だ、俺じゃない。





 翌日、作戦の続きが始まった。

 それとほぼ同時刻、ダーサらとの戦闘も再開した。


「これは順調、と言っても良いのか?」


「ダーサらの戦闘にも変化がないですから、やはり順調と言ってもよろしいのでは」


「前から思っているのだが、連中は学習しないのか?」


「…そうですね、連中、思いの外あたまが悪いですね」


「まあ現状、連中の頭の悪さに救われているのは確かだ」


「確かに。……という事は連中が学習能力を持った場合です。そうなれば対ダーサ戦略に大きな変更が求められます」


「そこら辺はどうなるのかな? 連中が学習能力を覚えたら苦戦しそうだが……」


 おっと、いかん、雑談の場になっているではないか。


 しかし戦況はこちらが優位にたっていた。ダーサの波状攻撃は鬱陶しいが、こちらは良く防いでいる。

 こうして二日目も無事に終わった。


 

 三日四日と作業は順調に進んだ。ここに来てようやく作業工程が期日を上まった。ついでに放置された汽車も息を吹き返すに至る。

 現状は駅周辺の要塞化(の半ば)と線路脇の装甲化(これは三分のニ弱)だった。これだけでもずいぶん違う。依然北都の奪還は先の話だが、少なくとも帝都と北部は繋がったのだ。この意義は大きい。


 現在までの死者は工兵が六名、銃士隊や戦槍隊らが十五名。この数字は単独任務なら過剰で、本作戦の内容なら軽微である。俺に出来るのは遺族年金の増額だけだった。



 そして一週間後、中央駅周辺は要塞化された。出撃用の門も備えられている。線路脇の装甲はいま少し安全圏まで達していないが、まあ許容範囲だった。


 俺は駅前に作られた檀上にて労いのスピーチを行った。


「諸君、諸君らの不休の戦いで無事に駅周りの要塞化も進んだ。これはひとえに諸君らの献身の成果である。

 今はまだ作戦の途中だが駐屯兵団には原隊に戻り北夷への対応に戻ってもらう。もちろん休暇も付けてだ」ここで拍手が起きる。


「事後は派遣兵団と駐屯兵団が交互に守備につき、北都奪還の足がかりを構築してもらう。

 だが今はこの成果を素直に喜ばそう! 一同奉賀三唱!」


「奉賀!」『奉賀!』「奉賀!」『奉賀!』「奉賀!!」『奉賀!!』

 わあああと歓声が上がった。俺は軽く手を振り檀上から下りた。とりあえずは一段落ついたのだった。

いち兵士の視点でうまく行かず、三人称でもうまく行かず。

結局、いつも通りの書き方となりました(笑)

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