第六十四話 ロイド、ひっそりとした晩酌を愉しむ
二千文字切っているので短いです。
俺はたま〜に晩酌をする。二週間で三回の割合かな? まぁ気まぐれみたいなモンだ。
で、この日、政務を終え晩飯を食った後、特にする事も無いので晩酌をと思った。
居間のキャビネットに俺の好みの酒が少なくなっていた。この量だけじゃ物足りない。それじゃあ取りに行こう。いやまぁ控えの間に夜番の女中が居るのだが、なんか目新しい酒でもないかと考え、地下の酒蔵へ赴く事にした。
その前に……、呼び鈴を鳴らす。
「お呼びでしょうか旦那様」
今日の夜番はユーディトと言う名の二十代後半の客間女中だった。
「ユーディト、俺は今から地下の酒蔵に行ってくる。その間にお湯割り用の湯を持ってきてくれ。あと何かつまむモノをな」
「酒蔵でしたら私が行きますが?」
「自分で見て回りたいのさ。何か俺の琴線に触れる酒があるやも知れん」
「承知しました。お湯とツマミを用意します」
「熱すぎても駄目だぞ。もちろん温くても駄目だ」
「はい」
で俺は自室を出た。
地下の酒蔵にはかなりの数の酒がある。百や二百は誇張でもない。少なくとも五百本は並んでいる。さて、俺の好みの酒はどこかいな? ああ、目立つトコに置いてある。んじゃ他に何かあるかね?
酒蔵を歩いて三本ばかり見繕った。
四本の麦焼酎を抱え居間にもどる。芋焼酎よりも麦焼酎の方が好みだ。
三階までふぅふぅ言って上がると思いもかけない人物と遭遇した。…アーデルハイドだ。
「よう、久しぶり」
「…………」返事はない。ただの屍のようだ。…では無い。
「夫君の挨拶くらいきちんと返せ」
「…………………今晩は」
ふと思う。『晩酌に誘ってみたら?』と。
「なあアーデルハイド、今から晩酌に付き合え」で、思わず口に出た。
「…………嫌です」
「まあそう言うな。俺から話掛けはしないし、話題を提供しろとも言わん」
「………………」
「ほれ、付いてこい」
「………………」
背後に僅かにアーデルハイドの気配を感じた。おっし。
自分の居間に入る。俺は無言でソファーを指した。
俺もソファーに腰を落とす。
「もう少し待ってくれ、湯とツマミを用意させている」
「…………」
「焼酎はそのまま呑んでも美味いが、寒い夜はお湯割りの方がいいんだ。
焼酎が苦手なら、そこの棚にある酒を好きに選べは良いさ」
「…………」
無言かよ。
「旦那様、お待たせしました」
「おう。…手酌で呑むから控えていてくれ」
「…あ、はい、ですが……」
「こっちの事なら気にするな。たまには手酌も良いもんだ」
「はい、かしこまりました」
ユーディトはするするっと控えの間に消えた。
俺はポットからグラスに湯を適量に注ぎ、次に焼酎を流し込む。そしてマドラーで軽く交ぜる。それをふたつ用意した。
「麦焼酎のお湯割りだ」グラスをひとつ彼女の方に置く。
「…………」
「まぁさっきも言った通り、君に話題を望まん。俺も話題を振らん、黙って呑め」
ぐいっとグラスをあおる。温かくて美味い。
余談つーか脱線だが、夜は寒い。夜間の平均気温はマイナス九度だ。日中が平均十九度だからえらく寒い。
俺が使える魔法、光と熱はここに起因する。つまりはランプと湯たんぽ代わり。市井の人が火や水の魔法を覚えるのはそれが便利だからだ。俺はそのリソースを光と熱に割り振った訳だ。
で毎晩寝る前にランタンに淡い光をエンチャントして(暗いのは苦手なんだ)軽石に熱を付与して寝るのだ。
あ、この平均気温は大陸全般でだ。地域によって多少違いはあるが不思議な…あるいは不自然極まりない気象ではある。
俺はホット焼酎を連続五杯をきゅ〜っと呑む。これはウォトカでも変わらない俺の癖だ。そこからはスローペースで呑んでいく。ツマミはピーナッツとカルパーサだ。それをちびちび食べながら、ちびちび酒を呑む。うん、こうでなくてはな。
見るとアーデルハイドのグラスが空になっていた。
俺はそれを取り上げ、新たなお湯割りを作ってみせる。
彼女はちびりちびりと呑む様だ。まあ知った事ではないがね。
俺も彼女も無言で酒を呑む。異様な光景かもしれんが、少なくとも俺は今のこの時間が嫌いになれなかった。
結局アーデルハイドは三杯で呑むのを止めた。グラスを置いて立ち上がる。そしてそのまま無言で出ていった。
終始一貫無言だったが晩酌に付き合ってくれただけでも収穫だ。多分だが、俺が笑いのネタを振っても絶対笑わない確信がある。
ま、こんな夜もあるさ。さて俺も寝ようか。
自分、バーに行ったらウォトカばかり呑みます。
ショットグラスではなくロンググラスで注文して、それを連続五杯イッキ飲みします(よい子はマネしないように)
それでようやく『ああ、いま酒を呑んでるんだな』って思うんです。別段酒に強い訳じゃないですよ。酔うのが遅いんです。
今回は自分の経験を元にしました。