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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第3章 ロイド辺境伯、領主として大将として
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第六十三話 村部、考える

 この歪な世界に来てふた月が過ぎた。士気は思いの外低い。それもそうだ、一方的に転移して二度と日本には帰れないのだから。

 しかし米は無い。石油は無い。ゴムも無い。ないないづくしだ。特に日本食が食べれないのが大きい。自分とてそれなりに慣れたとは言え、やはり米が食べたいと思うのだからな……。

 領主のファーレ殿が言うにはこの大陸には米という品種自体が無いと。何と言う事か。


 ロイド・アレクシス・フォン・ファーレ。謎の多い人物だ。彼は妙に日本の事を知っている。日本語を解し文化に造形がある。本人は帝都にいた時分に習い覚えたと言ったが、どこまで本当かわからない。

 親切ではある。非常に友好的だ。だが反面、反抗した部下4名を配下のエルフ(! ファンタジーだ)に命令して殺害した冷酷さを持ち合わせている。

 本人は二十歳はたちと言っているが実に堂々としていて、これが貴族の度量かと思う次第だ。


 貴族か、日本には無い制度だ。専制君主が治める、ある種時代おくれの国家制度。敵性国家を平らげた帝国は、いまその制度の円熟期にある。

 武装組織は国家国土国民に比例して非常に少ない。我が自衛隊組織並みだ。

 ファーレ殿が最初に武装解除を求めた理由も理解できる。この大陸にあって我々の様な武装組織は排除の対象なのだ。そうした背景にあり我々を客として迎え入れたファーレ殿には感謝している。


 だが翻って我々の士気は低く、課題として学ばねばならない帝国公用語の習得にも熱意が低い。

 1年後、我々は軍人あるいは一般市民として生きていかぬばならないのに一部の隊員は習得を放棄している。1年。1年しか余裕は無いのにこれでは駄目だ。何か方策を考えねば……。

 ちなみに帝国公用語は土着の共有言語をベースにドイツ語、ロシア語、スペイン語などの単語と英文法を覚える必要がある。英語の苦手な日本人にはちょっと厳しい。

 意外な事に英語や日本語は忌避されている。理由は過去に米国人や日本人らが文化介入し過ぎたせいで不信感を得てしまったからだとファーレ殿は言った。まぁ確かに米国人は自国の文化を押し付ける癖があり、日本人も自分たちに合った魔改造に勤しむ癖がある。この点は日本人として『非常に申し訳無い』と言えよう。


 話は脱線するが先日振る舞われたハンバーガーもどきにはまいった。なまじよく似ているからたちが悪い。だいたいケチャップが無いのが悪い。

 そのせいでうちの糧食斑の連中が『無けりゃ創ってやる!!』と気炎を吐いている。うむ、やはり日本人はこうでなくてはな。魔改造は申し訳無いが日本人の性癖だ。





「村部一尉、ファーレ殿が呼んでいます」部下のひとりが報告してきた。


「ん、わかった」なんの用だ?


 呼び出しに応じると外にはファーレ殿が立っていた。

 そういえば異世界召喚ファンタジーアニメの元祖ダン○インに出てくる、アの国の地方領主ドレイクもつるっぱげだったな。どうでも良いか……。


「いやあ、あのな、この間のハンバーガーが人気なかったのでな、頼みたい事がある」


「拝聴しましょう」


「異世界の日本人ならケチャップを作れるかと思ってな。その作成依頼だ」


「それならうちの糧食斑の連中が創ってみせると息巻いていますよ」


「そうか、なら原材料となる野菜を用意させよう。ファーレで流通している物、他領で作られている物、可能な限り用意させるよ」


 領主殿は笑った。


「ところで先日渡した小銃はどうかね?」


「…単発式はともかく、連発式は扱いが面倒です」


「どうしてだ?」


「は、自衛隊で装備されている89式と装弾数が違いすぎて中々慣れないのです。また3点バーストと言う流行りの形式の撃ち方もできません」


 目の前の領主殿は悩む風の顔をした。

 しばらく考え込む。


「…なら連発式の配備は止めるか……?」


「…将来的にはともかく、現状では無い方が楽です」


「そうか、……わかった、配備は無しにする。発注した分は俺が預かる事にする」


「お聞きいただいてありがとうございます」


「明日にでも発注した分は届けさす。ただ弾は大事に扱え。アメリカ人みたくバカスカ撃っての訓練は出来ん」


「ハッ!」


 やはり謎だ。何故こうも自衛隊に詳しい。また米軍にも言及した。何者なんだ?


 俺の疑問を他所に領主殿は『では、失礼する』と言って去って行った。


「村部一尉」


「工藤連隊長、どうされました?」 


「領主殿はなにを言いに来た?」


「は、ケチャップの作成依頼と小銃の受品についてです。あと、連発式小銃は一時返納を申し出ました」


「そうか」


「連隊長、そこに居たらならどうして出てこられなかったのです?」


「……苦手なんだよ……」


「…あ〜」


「あのデブった顔を見るのがイヤだ」


 連隊長の言い草に俺は苦笑するしかなかった。


 ……そういえば領主殿も連隊長が苦手そうだな。

 

「村部、何が可笑しい?」


「え? いや、領主殿も連隊長が苦手そうだなぁと」


「似た者同士って言いたいのか?」


「いえ、そこまでは」


 工藤連隊長の機嫌が悪くなっていくのがわかった。


「ああそうだ、明日、残りの小銃を受け取る予定です。自分はこれから配備と訓練計画を作成します」


「…ん、わかった任せる」


 鬼が怒りだす前に退散だ。くわばらくわばら。

 さて、仕事しよう。領主が何者でも構わないさ。俺達を害しないのであれば……。

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