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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第2章 ロイド辺境伯、異界戦役に挑む
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第六十一話 ロイド、打通作戦始動する!

 じりじりとしたひと月が過ぎた。俺が提唱した狼の口作戦は実働までに小改正を繰り返した後に正式に発動した。

また、それに合わせた遅滞戦術も精錬されるに至る。

 予想される交戦比は二・二五対一。あまり歓迎されない数字だが割り切るしかなかった。

 …そう、割り切る。予想される損害は計算の内に入れなければならない。くそ、くそ、くそ。



「少将、狼の口の砦はどこまで完成した?」


 この作戦のきもは街道沿いの砦の閉鎖機構の頑丈さだ。


「進捗状況は九割八分。今は実働試験の最中です」


「そうか」


「ファーレ大将殿、あまり不安げな表情をなさらんで下さい。士気に関わりますぞ」


「すまないな、気をつけるよ」


 そんなに不景気な面構えだったか……。まぁ確かに少将の言うとおりだ。俺は兵団のトップだ、もっとふてぶてしく堂々としてなくてはな。

 しかし辛い。

 為政者バージョンの俺はもう慣れた。だが兵隊の上に立つ大将バージョンの俺はまだ慣れないでいる。…頭の中じゃわかってんだ。だが感情が付いて行ってない。

 ちなみに俺は貧乏ゆすりはしない主義だ。見ていて不愉快にもなるしな。貧乏ゆすり駄目絶対。


 姿勢を正し、茶をひと口飲む。渋い茶だ。軍はどうしてこんな渋い味の茶を用意するのだろうか?

 砦の天守閣(と言うほど偉そうなモノでは無い、物見櫓くらいだ)にいる俺は遠眼鏡で門を観察してみた。

 …実験は終わったのか門は何一つ変わっていない。


「ファーレ大将閣下、時間です号令を」作戦部の少佐が告げた。…よし、やるか。


 席を立ち、少将と目配せをする。彼は頷いた。


「現時点より敵ダーサの討伐作戦を敢行する。総員…かかれ!」


 ドラクルと威力偵察隊の活躍によりダーサは少数なら小数。大勢なら大勢と攻める分にはこうした反応を示す。今回は実験を兼ねているので少数の部隊が敵を触発させる。後はじりじりと遅滞戦術で敵をこの急造砦に引張ってき、狼の口に誘いこむのだ。

 上手く分散すればの話だが、連中の得意とする集団戦闘の圧力が弱まる。これを各個撃破の要領で叩くのだ。


 触発にせよ遅滞戦闘にせよ狼の口にせよ敵との相性は未知数だ。さてどうなるか……。




「派遣兵団方面から信号弾、青、青、青」


「作戦開始か、…こちらも信号弾撃て」


「ハッ!」


 作戦開始を告げる信号弾が行き交う。十五分ほどして接敵した事の早馬が来た。少将に短冊を渡す。

 ひとつ頷いた彼は席を立った。


「総員傾注。接敵に成功、間もなく狼の口に入る予定だ。銃兵、玉込め。砲兵、試射は十分か? 槍兵気を抜くな!」


 戦闘の指揮をとる少将。実に堂々と命令を下す。


 早馬からの報告があって二十分。今のところ引き付けには成功しているようだ。いよいよ本番だ。


「よ〜し良いか、間もなく狼の口に連中が来るぞ、銃兵、槍兵構え。砲兵行けるか」


「来ましたね閣下。これでうまく行けば我々の勝利です」誰かと思ったらツキハだった。


「ツキハ大尉相当官」


「ハ?」


「うまく行けば、ではない。やらねば負ける、だ」


「失礼しました!」


 ツキハの謝罪に頷きで返す。


「ダーサ先頭集団分散しました! 狼の口入ります」


「全部入れる必要は無い! 三分の二辺りで門を閉じろ!」


「了解しました! 伝令出します!」


 少将の指揮する兵団の兵隊、皆きびきびしている。士気モラルの高さは喜ばしい。

 

 銃撃が始まり槍兵がダーサを槍衾にしていく。平射砲、曲射砲が火を吹く。

 交戦比率はどうやらこちら側が優勢だ。俺は再び遠眼鏡を覗きこむ。


 すると……、居た。腕が無く膨らんだ両肩に大小の突起物を付けたヤツ。アンテナ役(推定)だ。


「少将、三番の扉の所に一匹変なヤツがいる。そいつを狙ってくれ!」


「三番の? ああ、アレですな。伝令、三番の前にいる奇妙な個体を狙え」


「了解しました!」


 即時に連絡出来ないのは地味に痛いな。解決法はあるが実用段階の品じゃあ無いし……。


 三番の門を射界に入れている銃兵部隊の指揮官が指揮杖をあのヘンなヤツに指向するのが見えた。

 撃っている小銃は魔導式なので煙も出ないし音も静かだ。ただし砲は火薬式なので少々うるさい。


 あのヘンなヤツが崩れた。

 すると途端にダーサ共の動きがおかしくなった。ダーサ共は攻撃から迷走状態となり、てんでバラバラに動き出す。

 やはりヤツはアンテナ係だった。


 頭が居れば良かったのだが、この集団の中には居なかったのが残念だった。


「ドラクル、見ていたか? やはりアイツは中継役だったな」


「ああ、大将殿の言うとおりだったな」


 スティラは公的の場だから『お前様』から『大将殿』に切り換えて俺の発言を肯定した。

 まあそんな事はどうでも良い、今がチャンスだ。


「少将、今が好機だ。号令を!」


「承知! 全軍総反撃に移れぃっ!」


 伝令達が『反撃』『反撃』と連呼しながら馬を走らせて行った。その声に呼応し意気が上がる。


 ダーサの動きはアクティブからコンフュージョンに移る。その為防衛戦闘になり、こちらも少なからず犠牲が出ていった。ただでは死なんつもりらしい。


 だが戦いのイニシアチブはこちら側にある。みるみる間にダーサの数は減っていった。今回はこちら側の勝ちだ。


「門を開けよ、残党を掃討する!」


 少将が新たな命令を下した。

 

 威勢を上げた兵隊達が兵具をあらためて整列した。


「よろしいですかな大将殿?」


「もちろんだ。やりたまえ少将」


「ありがとう御座います」少将は一礼する。


「総員…出撃!!」




 一刻後、ダーサを掃討し帰投した兵達が『ウラーッ!』と勝ちどきの声を上げた。


「少将、損害の集計を取れ」


「ハ! 直ぐに報告に参ります。戦務幕僚、集計を!」


「了解であります!」




 小半刻(三十分)後、戦務幕僚が帰ってきた。


「損害は死者十四名、重傷者二十名です」


「少将、この損害は高いのか低いのか?」


「予想される範囲内で、むしろ少ない位です」


「ではこん戦闘は成功で良いのか…」


「ハ。成功です」


「では駐屯兵団宛に成功の信号弾を撃ってくれ」


「了解です」


 ……そうか成功か、三四名の損害で成功か……。くそ、慣れなきゃならんのか。しかも初戦でこれだ。打通成功にまでどれ程の損害を出さなきゃならんのか……。

 

 悄気げる前にまだやる事がある。俺は席を立った。

 眼下の兵隊へ手を降る。


「諸君! 此度の戦闘見事! 次の戦闘、その次の戦闘へ向けて充分に休息を取りたまえ。酒保を開けよ、今夜は祝い酒だ!」


『ウラー!』


 まぁ今夜くらいは酒呑んで笑って寝るが良いさ。

いま持病が悪化して入院してるんですが、思ったほど入力が進まないんですよ。

実際、暇なんですがねぇ……。

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