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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第2章 ロイド辺境伯、異界戦役に挑む
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第五十七話 ロイド、反攻の第一歩を踏み出す

 俺はイライジャの寝間着を脱がすと、その柔らかな肌のあちこちにキスをした。それと同時に彼の身体を感じたくて愛撫していく。

 イライジャも感じているのか時折ちいさく吐息がもれてきた。

 その様子に俺もヒートアップして、さらにキスを重ねる。頬に、唇に、首筋に、薄い肩や胸板に、そして……。




「うわああああーっ!!」


 びっくりした! ああびっくりした。


 夢か、夢だったんだ。いやびっくりした!



 ……あれ、何の夢だったんだ? なんか凄い夢を見てたのは確かだ。……まぁ良い、夢だったんだ、それで良い。……良いよね?


「…兄さん?」俺の左側を専有するイライジャが目をさました。薄暗い寝室の中でイライジャの瞳ばかり映る。


「ああイライジャか、いや、なんか悪い夢を見ていた」


「大丈夫? どんな夢?」


 心配そうな義弟の頬に手を差し伸べる。すべすべして気持ちいい。


「いや夢の内容は忘れた。だが悪い夢を見ていたのは確かだ」


「夢ってすぐ忘れるよね」


「そうだな。特に悪い夢を見てたから有り難いよ」


 目も覚めたし仕事でもするか。俺はあんまりダラダラしない主義なのだ。

 ランタンの中にある石に灯りのエンチャントをしてベッドから起き上がる。


「兄さん、もう仕事するの?」


「まあね」寝間着を着替えながら応える。「イライジャ、俺は俺で俺しかできない仕事がある。だから君は気にするな」


 ?マークを浮かべる義弟に笑いかける。


「子供はまだ寝ている時間だ」


「…………」


 ちょっとの間イライジャは俺を見つめていたが、何も言わずに毛布を被った。イライジャの良い所は軽口をたたいても無駄口を語らない所だ。

 ……逆に言えば彼があーだこーだ言うときは必ず意味があるのだった。やはり得難い存在だ。


 執務室に入った俺は食料増産の資料を取り出した。

 各種麦は100%を超えている。紫芋さつまいもも九〇%でなかなか良い。対して黄色芋じゃがいもは60%弱だ。これは輸入品の率が高い。

 主にリズ姉さんの所からだが、あっちは先の森林火災の復興のせいで割高だ。いちおう身内価格ではあるが関税もありやはり高い。

 関税を下げるのは簡単だ。しかしそれでは収益にはならない。また逆に取り引きの抹消も論外だ。さすがに風聞が悪すぎる。

 なら、結局のところ増産しかあるまい。一年ではたいした収穫量は望めないが、二年や三年後なら自給自足にもっていける。

 

 元来、北部は連装大山脈に遮られており帝国中央やその他の地域から隔絶されている。その為に作物の自給率が高いのだ。だがまぁ多少高くてもそれぞれの領地の特産物もあるし、主要な作物以外では自給率が低いのだがね。

 でいま頭を悩ませるのが黄色芋じゃがいもの増産だった。我がファーレ領では紫芋さつまいもが主流で他領にも大々的に売りこんでいる。ここらへんはギブアンドテイクなのだが紫芋と等価交換で黄色芋を輸入しているねだ。

 増産を決めるのは簡単だ。しかし、代わりに何かを買ってやらんと貿易の付近等が起きる。

 では他領から何を買えば角が立たないのだろうか? さて……。


 と頭を悩ませていたら執務室をノックされた。誰だよ。まだ夜明けには早いぞ。と思ったら家令のジルベスターだった。


「おはようジルベスター」


 ジルベスターは一瞬驚いた様だが、すぐに気を取り直して一礼した。


「おはよう御座います、旦那様」


「今日は俺が一番乗りだが。いつもは君が?」


 家令は四方の壁と天井の燭台に灯を灯した。


「一番に限りませんが、灯を灯すのはたいていが私の仕事ですから」


「純粋な交代制ではないのか?」


 彼は壁にかかった風景画を乾拭きしようとして手を止めた。


「年寄りは朝が早いのですよ。寝床でじっとするよりも何かをしていた方が気が楽です」


「……婦長もか?」


「婦長も料理長も朝は早いですよ旦那様」


「そうか、なら俺の起床時間も早めた方が良いな」


 ジルベスターは乾拭きしていた手を止めた。


「旦那様、僭越ながら旦那様まで早起きすれば、みな早起きする事になります」


 彼の言葉遣いは柔らかであったが明瞭な批判の色がまじっていた。


「そうだな。俺の勝手で皆の生活に不当に関与するのは良くない。…だがたまには良いだろ?」


「お聞き入れてくださりありがとうございます。旦那様もたまには早起きなされても宜しいかと」


「……いやな、何故かとんでもない夢を見たのかはね起きる次第でな。目が覚めたし二度寝の気分じゃなかったのだ」


 俺は正直に朝の点幕を伝えた。


「なるほど夢ですか。吃驚なされたのは悪夢ですかな?」


「……いや、なんの夢かは直ぐに忘れたんだ。まあたぶん悪夢の類だな。

 ジルベスターもそんな事はないかな?」


 家令ジルベスターは少し悩む仕草をした。


「若い時分にはありましたが、今はありませんな」


「そんなものか」


「そんなものです。ところで旦那様は何の資料をお読みになっているのですか?」


「これか? 食物の自給率についつだ。君も知っての通り紫芋にくらべ黄色芋の自給率は低い。これを何とかしたいのだ。

 いま、帝都や北都からの輸入品は軒並み駄目になった。嗜好品はともかく、食料品の自給率は上げるべにだからな」


「……でしたら旦那様が音頭を取って北部大同盟を提唱なさっては」


 家令からの案に目が点になった。そんな事は考えた事もない。

 

 正直、おいしい案だと思う。だが俺はダーサ討伐で忙しい。


「いや、俺では駄目だ。理由はふたつある。

 ひとつめは対ダーサ討伐で忙しい。

 ふたつめは俺が他の領主にくらべ若すぎるからだ」


「しかし若すぎるからとは理由付けに乏しいかと」


「そうでもないぞ、金鉱脈の秘密会合ではかろうじて俺が主権を握ったが、あれは例外だ」


 家令は苦笑した。


「自信をお持ち下さい旦那様。旦那様はすでに実績を上げておられます。自分の見るところ、旦那様はたれに劣る所はありません」


「ありがとう。君からの賛辞に感謝を。ところで先の話に戻るが、俺は軍の方でも忙しい。さて困った」


「しかし、一年中張り付いている訳でもありますまい。ならば兼業は可能かと」


「……そうも言われるとやれる気になるな」


「細々したことは我々にお任せ下さい。その為の執事ですから」


 それを聞いて俺は腕を組んで瞑目した。確かに不可能ではない。


「ジルベスターの言や良し。しかし執事が足りん。何人か雇うべきかね?」


「……そうですな。雇った者が全員使えるかどうか判りませんので三名ほど雇われては?」


「…教育は任せるぞ。構わないな?」


「承知しました」ジルベスターはニッコリ笑った。


「ジルベスター、草案は任せる。俺は夕方までに軍に戻らねばならないからな。

 それと少女歌劇団の根拠地はどうなった?」


「はい、二年前に撤収した交響楽団が使っていた建物がありまして購入いたしました。また新たな団長として計数に強い人物と契約するのに成功しました。同時に企画采配の上手なご夫人がおりまして、現在交渉中です」


「その男の方は大丈夫なのかね?」


「はい、身辺は綺麗なものです。前職とは経理のやり方と行き違いがありまして干されていたのです」


「…今度面接がしたい。調整を頼む」


「承りました旦那様」彼は再び一礼した。


 そこで話を打ちきって書類に目を通し直した。

 ジルベスターも掃除の続きを始める。




「ロイド様、本日の朝食ですが、以前ロイド様が示してくださった『はんばーがー』とやらを用意させました」


 と俺のそばに立つ給仕が語った。さて、どんな出来具合かいな?


「試作八作目でございます」と出てきたのは、やはりと言うかハンバーガーモドキだった。いやまぁ試作を繰り返している努力は認めるがね。

 行儀悪く、手づかみでひとくち齧る。

 ……まあこんなモノか……。


「ミートパティ…中の肉だがもう幾分か薄い方が良いな。あとは特に言う事はない。調理した者は誰だ?」


「ハ、マルセイユです。仕上げは料理長であります」


「うん、ふたりには満足していたと伝えておいてくれ」


 もう一口齧る。ワッシャワッシャと咀嚼して頷いた。やはりトマトケチャップが欲しいな。


「あ、そうだ。こいつをあの異世界人らにも配っててくれ。連中、故国の味が懐かしかる頃だ。あと付け合せに芋の揚げたヤツも一緒に出してやってくれ」


「はい、承りました」給仕は一礼した。

 

 正直、この味では不満だろうが現状はこれで精一杯だ。


 ふと隣のイライジャを見るとハムハムと、啄む様に噛っていた。その仕草はちょっと可愛い。そーいやコイツ何でも食べるな。時折苦手なモノも出るが、それでも残さない。育ちのせいか? いやまあ良い事だがね。因みに俺もたいていのモノは食べるようにしている。真面目に嫌いなモノはピーマンだ。あれは許せないくらい嫌いなんだわ。

 ふとツキハを見たら気色満面でハンバーガーを頬張っていた。そんなに気に入ったのか? しかし淑女には見えないな。


「ツキハ、落ち着いて食べろ」


「ふぁい……とってもおいひくて」


 ツキハにマキドナルドの照り焼きバーガーとか食べさてたら美味すぎて発狂するんじゃないのか? あ、そうだ。照り焼きバーガーなら料理長でも作れるんじゃないのか? なら今度リクエストしておこう。タルタルソースも作れるんだからフィレオフィッシュも行けるな!


 さて、昼食も食べた事だし書類と格闘するのも終わった。では陣地に戻るか。



 ツキハの跳躍によって駐屯兵団の陣地に戻った。

 しかし、なんか浮ついているのか騒がしい。手頃な兵を捕まえて尋ねた。


「アーベル・ルージュらがダーサの生け捕りに成功したのです!」


「それは吉報だな」


「ハッ、アーベル・ルージュらも被害がなく作戦は成功であります」


「ありがとう。で、ダーサはどこに居る」


「こちらです閣下」



 案内されたそこには杭とワイヤーで雁字搦めにされたダーサが二匹いた。連中は藻掻いている。

 見ればドラクルが近くに寄って寸法安定性など測っていた。


 これがダーサか……。

 ふたつの腕とよっつの脚を持っている。頭部は無い。この異形の生物は何なんだろう? 見た目はへしゃげたケンタウロスに似ている。

 そして全長は九メートル全幅は二メートル。ここまでは分かる。しかし目や鼻、口を持たないコレは果たして生物なのか?


「お前様、それ以上近くには寄らん方が良いぞ」


 いつの間にかドラクルが近くに来ていた。


「ああして雁字搦めにしても危ないのか?」


「どんな怪力をもっているや分からんからな」


「貴様の初見でわかる事はあるか?」


 スティラは苦笑した。


「一見で何かわかれば苦労はしないさ」


「……そうだな」


「しかし、こうして見ていると何かを感じる」


「予兆の類か?」


「違う。ダーサの動きに何かの法則があるように見える」


 言われて捕らえられたダーサの動きを見る。…うん、わからん。


「しかし取っ掛かりはつかめた。これは前進だ」


「ああそうだ。取っ掛かりには違いない」


 果たして腑分けで何かが掴めるのだろうか? まあいいさ、兎にも角にも捕獲には成功したんだ。

前回はワタもての話で、今回は中間管理録トネガワ。

本編であるカイジは読んだ事ありません。ですがこのトネガワは知らない人でも笑える作品です。

トネガワ先生の七転八倒するさまはラストがああなる様を彷彿させ。いくぶん笑いも冷めますが、それでも愛せざるを得ません。

あとアニメ化おめでとう御座います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >全長は九メートル全幅は二メートル 思ったよりもくっそでかかった よく捕獲なんてできるもんだ こんなの10000もいるのか・・・
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