第五十六話 ロイド、パーティーと自衛官らと
か 午餐の参加者は三十七人になった。三人は欠席だとさ。まぁ実際の情報網は六十六人なんだがね。女中とか出入り商人は外したのが三十七人って事だ。
帝都屋敷の連中は大忙しだ。すまんね。手当は弾むから頑張ってね!
さてパーティーだが、可能な限り豪勢で珍しくも立派な式にせねばならない。ショボい、あるいは貧相なパーティーでは鼎の軽重を問われかねない。
ならばだ、ここはブラジル式バーベキューなんかは面白いかと思う。部位ごとに焼いた肉塊をその場で好きなだけスライスするのは、この世界では聞いた事が無い。
デザートやサラダは小さく作り、種類を豊富にする。うん、これだ。
問題はグリルだな。帝都屋敷ではグリルに限りがある。う〜ん、どうしたものか……。
いや、別に屋内のグリルに決める必要は無い。庭でも焼けば良いのだ。となれば料理人を増やすか。デザートも珍しい林檎があったな。あと人気が出そうなのは……プリンか。
パーティーまで時間がない。俺は屋敷の女中らとパーティーのあれこれを相談して指揮した。
そして午餐当日、次々と招待客が現れた。トップバッターのリエナ伯爵夫人を皮切りにメインのパールセミ侯爵夫人、サンサ子爵夫人らがやってくる。
……しかし色んな貴族夫人に手を出してきたな。よく命があったもんだ。いくつかの家には『亭主のお前の素行が悪いんだ!』と逆に切れ、夫婦仲を取り持ったが、浮気された旦那の心境はどうであろうか。やはり火遊びに興じた(俺の目的とは違うが)妻より、火をつけた俺を不愉快に思っているだろうよ。
招待客も集まり、パーティーが始まる。静かなクラシック系の生演奏に雰囲気を落ち着いたものにさせる。
前菜とスープは少々小ぶりで始まる。大事なのは主菜であるBBQとデザートだ。楽しみにしてくれよ。
「皆さん、肉料理は少し変わった趣向でありまして、焼いた部位をその場で切り分けてくれます。一度あたりの量も好きに注文してください。また部位ゆえに数は多いのでお腹の具合に合わせて食べて下さい」
さざなみのように笑いが巻き起こった。
実際に食べ始めればこの案は成功であるのを感じた。招待客らは自分の腹持ちから逆算して自分のペースで肉を食べられるからな。
デザートも好評だった。様々な甘味をあれこれ味わえる。それでいて満腹感をゆっくり熟せれるからだ。俺は招待客らの満足した顔に成功を確信した。さて、次は本題に入らせてもらう。
「皆さん、食事はいかがですか? 満足してもらえば幸いです。
さて、今俺は軍を率いて陣を敷いており、北都にはびこる敵勢力と軍務尚書閣下と二正面から殲滅する計画である。
まあ、軍の行動は貴女方には関係ない。だが軍務尚書閣下の動きが今ひとつである。俺は俺でかの御仁の情報をあつめているが軍を維持し、かつ領主として政務に邁進せねばならない背景がある。
そこで今日集まってもらった方々に軍務尚書閣下とその動向を探ってもらいたいという次第だ。ご夫人方にはそれぞれの毎日があるから強制はしないが、可能ならばその調査に手を貸して欲しい」
「あの」とパールセミ侯爵夫人が手を上げた。
「調べるのは政治的動向もですか?」
「もちろんです。できれは政治的地盤まで」
「わかりました。ご期待に添えるようやってみせます」
「夫人、ありがとう」俺は一礼をした。
侯爵夫人を筆頭に幾人もの夫人方が賛同してくれた。
俺はそばに控える執事に合図する。執事は一礼した。
「今日来てくださった方々に土産を用意させました。ご笑納下さい」
土産とは純金製の牌だ。金を産出できる強みである。
まぁ確かに産出量はへったが土産に出す程度には問題ない。残り少ない資源だが、鉱山を握った俺が有効活用してやるんだ。精々使うさ。
因みにこの大陸にはダイヤモンドは発見されていない。またルビーとサファイアはその鉱床がオーストラリア大陸並みに広く存在しているため宝石としての価値は無い。それどころか宝石自体に人気がないので金や銀が装飾品の主流だ。ま、精々真珠に僅かに価値があるだけだ。
で、調べたんだが、他の地域でも金鉱脈の枯渇化が進んでいるのが分かった。今のままでは二十年後には金と鉄が死ぬ。
回避は出来ない。新しい鉱脈が見つかれば別だがそんな話は聞いた事が無い。さて金や鉄の無い世界とはどうなるのだろうか? 銅はまだ余裕があるが、今の文明にどれだけ寄与できるのだろうな。まあ、今は考えても仕方ない話しだ。
今、考えねばならないのは軍務尚書だ。彼の消極性が何に端を発するのか、生来のものか政治的なものか、それがわかれば攻略の手がかりになるのだがね。
さて、では次はどうするか? 帝都ではしばらくやれる事は無い。あ、銃の事があったな、んじゃあ領地に戻るか。
叔父と代官に暇乞いしてファーレ領に跳んだ。
ファーレ領に戻ると(つくづく魔導跳躍者は便利だ)自衛官の工藤に会いに行った。
「…おい工藤、新しい武器を用意して持ってきたぞ」
自衛官のリーダーである工藤涼子は部下たちの訓練の監督をしていた。
「武器、ですか?」
「魔導式単発小銃がニ挺と連発小銃が一挺。それと試製狙撃銃が一挺だ。全員に配るのは少し待て」
「それは有り難いが我々はまだ戦力化出来ない、です」
「そんな事は当然理解してるさ。はやくこっちの言葉をモノにしろ」
「一年は語学習得に時間がかかる。多少早めても半年は見てもらわねば」
俺はふんぞり返るように彼女を睨めつけた。
「約束は守るさ。さて、そこで話がある」
工藤も挑むように俺を見た。
「軍に奉職するのを希望している者で小隊戦力として計上出来るのは何人いる?」
工藤は腕を組んで考え込み出した。
「現状、言葉の壁がネックとなって戦力化は無理です。…やはり半年はどうにもなりません。
ところで戦力化を急がれているのは何かあったんですか?」
「正体不明の敵がでてな。軍本隊は動きが鈍い、そこで君らではと思ったからだ。さて、そいつはもういい。
この小銃はこちらの世界での最新武器だ。こいつの習熟を命じに来た」
「手にとっても?」
「ツキハ大尉相当官、渡してやれ」ツキハが前に出る。
「甲・小銃大系十一型単発式魔導小銃、通称甲・十一型と甲・小銃大系二十三型連発式魔導小銃、通称甲・二十三型。そして試製七十二年型『Q式』単発式魔導狙撃銃、通称は…知らん。まあ試七十二型小銃とでも『Q』式狙撃銃とでも呼べば良い。単発は読んで字のごとく単発だ。連発式のは十連発だ。扱いは貴様の小銃とあまり変わらん。
弾は単発式で百。連発式で二百。試七十二型は単発式と同じ規格でやはり百ある。弾の手当は派遣兵団から譲ってもらえるがしばらくは百発で我慢しろ。連発式も同様だ。
銃自体は一ヶ月ほどで揃う。ただし比率は五対一だ。これは軍一般的にそのような比率だと思え。あと治具は小銃分あるが必要なら街の道具屋からでも流用出来る」
あと何かあったかな? ああ。
「忘れるトコだった。
拳銃は志願した者に配る。だが任官にあわせるからしばらくはナシだ。
それとこの世界では小銃は軍だけのモノで一般には出回らない。かろうじてハンターが所持できるが、免許制で日本と変わりない。まあそんなトコロだ」
「管理はどうするので?」
管理か忘れてたわ。さて、どうしようかな。
「……金庫を用意させる。自分らで管理しろ。俺が預かる方が良いんだが俺は多忙だからな」そんなトコロだな。
「軍に奉職する者で小銃に長けた者は居るか?」
「呼ぼう。
村部一尉、佐々川一曹、宮武一曹集まれ!」
「工藤、呼んだ基準はなんだ?」
「村部は小銃の扱いはたいした事ないが班長として。佐々川と宮武は小銃の扱いが上手い。特に宮武一曹は狙撃の名手だからです」
「なるほどね」
すぐさま三人の自衛官らが集まった。顔と名前が一致するのは村部だけだ。
「村部、佐々川、宮武集まりました」
村部が並んだ二人を見て報告する。右側が佐々川で左側が宮武でいいのか? まあどっちでも構わないが。
「この小銃が新しい貴様らの銃だ。こいつが単発式で主力となる。ライフリングのあるこちらが連発式だ。五対一の割合で装備する事になる。で最後のこれが試作の『Q』型小銃だ。なんで『Q』なのかは、まぁ軍機だと思ってくれ。では試射…おっと」
傍らのツキハに視線を向ける。
「ツキハ大尉相当官、館にいる警備員詰め所と丘の下の駐屯部隊の所へ行って『これからは小銃訓練をするからいちいち騒ぐな』と伝えてくれ」
副官は敬礼した。
「ハッ、警備員詰め所と駐屯部隊の所へ行き、『丘の上では小銃訓練を開始するので騒がないこと』と伝えてまいります」
「丘の下までは馬を使え……使えるよな?」
「大丈夫です使えます」
「そうか、では頼む」
ハッと敬礼して副官は走り去った。
「いま副官に小銃訓練する旨を各所に伝えに行った。試射はそれからだ」
「領主殿」村部が口を開いた。
「分解、組み立ては可能ですが、できれば指南書が欲しいのですが」
「え!? 要るの?」
村部は苦笑した。
「あれば嬉しいので。ですがまぁ無くても何とかなりますが……」
「済まん、素で忘れてたわ」
「でしょうね」
「いやあ、軍では普通の事だったんで忘れてた。後で届けさせる」
こうして色々あったが、彼らは最初の一挺を手に入れたのだった。
前回にチラっと書きましたが、自分、『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い』が好きなんですよ。連載当初は知りませんでしたが、一巻が出た時に手に取りハマりました。
正直四巻までは読むのは苦痛ですが修学旅行編からはビックウェーブです。是非とも手に取って下さい。
一番好きなキャラはうっちーこと内笑美莉さんです。主人公もこっちに蠱惑された彼女に幸あれ!(いやまじで)
でいまスマホの待ち受けに放課後の図書室でライバル(?)の小宮山さんともこっちが見つめあっているキスする30秒前のイラストにしています
誰だよこのイラスト描いたヤツは! 褒めてつかわす!