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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第2章 ロイド辺境伯、異界戦役に挑む
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第五十五話 ロイド、策を巡らす

「あの敵性生物……ダーサか? が群生体なのはまぁ理解した。ならば女王体の存在も考えられる。これも理解はした。…したが攻勢には出れぬか」


「困りました。これでは積極攻勢からの北都奪還は無理です」


 軍を動かすのには金がいる。ましてや派遣したのは本来の任務から離れた謎の生物の討伐。いくら本来行うべきエルフ討伐が小康状態だからといえども動員には限界があるのだ。


「軍務尚書閣下、軍一般命令で強行出来ませんか?」


「強行か…」


「それが一番経済的に安上がりです」


 どうも軍務尚書殿は積極的に賛成したくないようだ。理由は何だ? 予想される損害の多さか?


 軍務尚書殿は瞑目した。その胸中は伺えない。


「…ファーレ大将の意見具申は了承した。だがこちらの学者先生方の見立てはまだだ。話はそれからにしたい。

 大将、ご苦労であった」


 駄目か……。


「わかりました。ではこちらはダーサを捕縛して生態を解明したいと思います」


「うむ、頼む」


「ハッ、では失礼します」


 あ〜クソ、中央から突き上げ出来ないものか?

 どこかの時点で攻勢に出なければならないのに、このままダラダラと時間ばかり掛かるとなれば攻勢に出る前に金が無くなるぞ?

 いや焦るな、少将の言うとおりでもあるのだ。拙速はいかん……。しかしならば、だ。他にもやりようはある。


 


 俺とツキハは翌日に帝都へ跳んだ。

 何をするかだと? 決まっている、俺の作り上げた情報網を使って中央から軍務尚書を動かすのだ。

 帝都屋敷に入り挨拶を済ませるとペンをとる。先ずは情報網の復旧だ。パールセミ侯爵夫人を筆頭に何人もいた愛人方に手紙をしたためる。

 その合間にツキハに陣地に戻り、しばらく帝都にて活動する事と配下のエルフ…イル・メイにダーサの捕縛を命じる。ドラクルはしばらく暇するが、まぁ諦めろ。出来るなら館にでも戻ってもよいが行き来する時間が惜しい。


 俺はイル・メイという切り札をきった。任せるしかない。上手く行けばダーサの解剖まで行けるだろう。…俺は『だろう』とか『はず』というあやふやな単語が嫌いだが、状況は少なく見積って不明瞭だ、やむを得ない。


 曾ての愛人方十数通の手紙を書いて送り出す。さて次は……。

 翌日、ツキハを伴って帝国陸軍砲兵廠へと向かう。何をするかといえば魔導銃マギア・ライフルの受品だ。

 

 魔導銃の歴史は古い。少なくとも五千年前にはあったんだよ。

 火薬の無いこの世界では合成(化学)火薬がある。しかし銃に使える火薬の精製が難航し、代わりに魔導を用いた銃の開発が発展した。

 先ず二系統に分かれる。ひとつ目は銃そのものの魔導化。これは銃身に魔導式が刻まれたヤツ。ふたつ目は弾丸が魔導式のヤツだ。これらは一長一短がある。

 銃身に刻まれたヤツは効率が良いが製造過程が複雑化してしまい単価があがる。弾丸の場合は玉一発一発に魔導式を刻まれる為、玉一発につき魔導式無しと比べて二十発分の単価差が生まれる。ただし性能は段違いだ。飛距離にしても命中率にしても魔導式は優れている。

 こうして始まった魔導銃作成はニ十年後には頭打ちとなる。そうして軍配は銃身の魔導式マギア・スタイルに上がった。こちらも単価は高いが玉一発一発に式を込めるよりかは安上がりだからだ。

 銃自身も拳銃と小銃に分かれた。また小銃は単発式と連射式に分かれる。もっとも連射式は十連発までだ。これは連射機能の問題ではなく銃身が保たないからである。

 現在、魔導式銃は十連発型小銃が主流だ。初期型から五千年近く経ってもほとんど進歩していないのはご愛嬌というものだと思ってくれ。

 因みに射程は単発式小銃で三町センテウス(九百三十メートル)程度で連射式小銃でも四町(千三百二十メートルは確保している。どちらも線条ライフリング式だ。地球の小銃より高性能だ。

 これによりわざわざ面倒な火薬式小銃は姿をけした。まあ生産ラインの整理と性能のせいでもあるが。


 銃の歴史上様々なスタイルの銃が生まれたが、複合式の銃はすぐに廃れた。理由は銃身と弾丸に魔導式を刻んでも飛距離は伸びないし命中率もたいして変わらなかったからである。

 また拳銃も大した進化は遂げていない。理由は銃身が短いので飛距離も最大ニ・五間(十メートル)(うち有効射程は二十メートル強。実戦的射程は十メートル弱)でしかない為だ。


 今日、砲兵廠に来たのは小銃を百挺ほど貰い受けにきたのだ。何に使うかだと? 軍じゃない、自衛官で軍に転属するつもりの連中に渡すためだ。


 本来なら、本来なら一年後を目標に連中を使う予定だったが、どうも軍の動きが鈍い。なら俺の裁量を最大限利用してねじ込んで俺の直轄として使うのが良いかと考えたからである。

 半ば感であるが、俺の感はたいした間違いを犯さない(まあ外れるときは大きく外すがね)。いや自信過剰か……、いやいや保険を掛けての采配だと信じよう。



「北部辺境派遣兵団ファーレ大将である」


「ハッ、閣下、本日はどの様な御用件でありますか?」


「うむ、現在北都奪還にむけてニ正面から軍が動いているのは知っているな」


「はい」


「そこで自分は辺境派遣兵団を率いておる。ここ迄は良いな?」


「ハッ」


 名の知らない受付の兵は背筋を伸ばした。


「現在の状況は軍機である。しかしながら戦略的志向により新たに民間人から義勇兵を募る必要が発生した。

 本来なら軍務省からの下達があるところだが、運良く自分が帝都におる。そこで北部辺境派遣兵団を指揮する本職が直接受品しに参った次第である」


「……それは帝国陸軍兵站部からの正式な御命令でありますか?」


「君、自分は辺境派遣兵団の総司令だ。帝国陸軍とは命令系統が違う」


「…それは、あの、……上官を呼んでまいります、少々お待ちください」


 しまったなぁ、肝心の根回しをしてねーや。まぁ受付の兵では話にはならんからな。


 しばらくして兵は上官らしき男(将官だ)を連れて帰ってきた。上官らしき男は敬礼する。


「自分か当砲兵廠を預かるラセナ准将であります閣下」


 俺は答礼する。


「ファーレ大将である。ラセナ准将、君に相談事があって来た次第だ」


「立ち話ではなんですからこちらへどうぞ」


「そうだな。任せる」


 准将は応接室へと案内してきた。

 席につくと俺は口を開いた。


「魔導式単発小銃を八十と連発小銃を二十貰いにきた」


「それは……」


「派遣兵団独自の軍事行動だ、軍務省は知らないし、また知らせる必要はない」


「しかしながら受品には軍務省からの署名が必要です」


 あれ、そうだったっけ? まずいな。


「それとですが、今当砲兵廠には小銃の在庫が無いのです」


「なに?」なにそれ?


「東部大公領駐屯兵団の装備改変がありまして大量の出荷がありました」


 なんと……。


「それは間が悪かったな」


「現在、出荷した分を増産している最中であります」


「では仕方ないな」


「全く無いわけではありませんが、百挺はさすがに……」


「いや、こちらも無理を言った済まない」


「恐縮です」


「准将、訓練の為、ニ、三挺は無理だろうか?」


「その程度なら在庫はあります」


「それすらも上からの書類は必要かね?」


「いいえ、大丈夫であります」


「実包は?」


「…あ〜、一挺あたり二百発が規定分としてあります」


「百もあれば訓練になる」


 なんたって自衛隊だからな、実弾がなくても訓練は出来るさ。


「わかりました。直ぐに用意させます」


「ありがたい。貴官に感状を申請しておく」


「は、あ、はい。ありがとうございます」


「てば失礼する」さっさと退散だ。


「あ、あの、ファーレ大将閣下」と呼び止められた。


 振り向く。


「試作の狙撃銃が一挺あります。いかが致しますか?」


「それはどういう物か?」


「試製七十二年式『Q式』狙撃銃という品でして、…あの、実際に試射なさいますか?」


 俺は門外漢なんだがね。まぁ試してみるか。


「よろしい、是非試射してみたい」


「では射撃場までご足労願います」


 准将に続き応接室をでる。

 射撃場は砲兵廠の端にあった。しかし広い。


 名の知らない兵が一挺の小銃を手に待っていた。

 

 見た目はどう違うかわからない。


「閣下、この小銃は有効射程距離五町あります」


 五町(千五百メートル強)だと? なんて飛距離だ。いやそれよりも准将はQと発音した。何故だ?


「小銃を撃たれた経験はございますか?」


「狩猟用の小銃ならある」

 

「ならばあれこれ説明するよりも、構えてみてください」


「ふむ……」


 小銃を構えて照準器を覗く。……ん?


「何か丸い円と小さな横棒が見えるが」


「小さな横棒は照準線です。そこまでは通常の小銃と一緒です。では照準器の右側にある丸い軸を右へ動かしてみてください」


 ほいほい。おや、望遠か? チーーーと音がする。……ん、んん? なんだこの距離は? 凄い遠くまで見える。

お、横棒が消えた。


「横棒が消えたぞ」


「それは射程外のしるしです。見えるまで調整してください」


 なるほど、つまみを回せば……でた。これが限界って事か。


「照準、きたぞ」


「はい、では撃鉄を起こします。カチっと音がしましたか?」


「ああ。した」


「左手、中程に安全装置があります、下げてください。安全装置が解除されたら銃把を軽く一段階引いてください」


 ……安全装置は、あった。下げる。で銃把を軽く引く。

 キュウウウーーンと先ほどとは違う音がする。なんやねん?


「では、試しに照準線のところを撃ってください。くれぐれも丸い線の中で」


 この距離なら無風でも照準を上げるべきでは? まあいいさ。


 銃把を引いた。魔導式銃は反動が殆どない。当たり前だ火薬が燃焼しないんだからな。

 弾着。

 …これは驚いた。最大射程でゼロインが無い。ゼロインとは…面倒だ。誰か銃マニアに聞いてくれ。


「次にその場から射線を左右どちらかに振って下さい」


 右に少しずらした。


「ずらしたぞ」


「ではもう一度撃って下さい」 


「? わかった」  


 キゥウウウーン


 銃把を引く。……撃ったら命中した。さっきの的に。


「これがQ式です。一度狙った的なら、半径1.5間離しても命中します」


 照準線と丸い線。この命中率。なるほど『Q』だ。

E・E・スミスの『レンズ○ン』にでてくる銀河最速のドラッグマシーン、ブリタニア号の主砲であるQ砲みたいだ。誰かの入れ知恵だな。なるほどなるほど。残念ながら弾がジオテック原子爆弾でないだけで発射シーケンスはここから来ているのがわかる。


「誰がQ式と名付けた?」


「ハ、開発局のモーゲン少佐であります」


「モーゲン少佐か、ありがとう。彼に良くやったと俺が褒めていたと伝えてくれ。 

 ところで重力の影響はともかく、横風の影響はどれくらいだ?」


 魔導式の銃のメリットは重力を(射程範囲の中では)無視出来る点だ。だが何故か突発的や横風には弱い。


「範囲内であれば余程の横風でない限り大丈夫です」


「……これは素晴らしい。だが単価が気になるな。照準器とあ『Q』回りだけでそうとう金がかかっているだろう?」


 そう言うと准将は僅かに赤面した。


「閣下のおっしゃる通りです。『Q』回りだけで通常の小銃分はあります」


「おしいな、その欠点がなければ狙撃銃の歴史が変わるのにな」


「おっしゃる通りです」


「だが気にいった。この銃を二十挺限定生産してくれ。金は俺が出す。出来るか?」


 准将と何人かの兵が姿勢を正した。


「か、可能であります」


「弾丸は特製か?」


「いいえ、通常の規格品であります」


「よろしい。大いによろしい。急かす気はないがどれほど時間がかかるかね?」


「ハ、一挺あたり七日です。ですが生産工程を変えることで時間短縮できます!」


「……ふむ。少数生産の悩みどころだな」


「ハ」


「……いや、やはり急がなくとも良い。通常の単発式小銃が優先だ」


「……閣下、ひと月あればすべて実戦化してみせます」


「わかった。では今月の末…いや、さ来月の頭に受領にまいる」


「ハッ!」


「それとだ。開発関係に毎月二十 エーラを振り込む約束をしよう。モーゲン少佐は中々の者だ。ぜひ投資したい」


 准将以下の一同は最敬礼をした。そんなに嬉しいか?


 そんな訳で受領は失敗したがそれなりに収穫はあった。



 さて、次は手紙の返答だ。いちおう明後日の午餐に彼女らを招いている。どうなるかね?

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なんとこみ×もこです……

いやぁ背徳の美学ですわ。わはは

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