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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第2章 ロイド辺境伯、異界戦役に挑む
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第五十二話 村部、暗暗たる未来にため息をつく

 俺は城壁の様な外見の屋敷を見上げてため息をついた。


「連隊長、コレ、やはり城壁ですよね」


「……そうだな」


「どう思われます?」


 俺は傍らの美貌の連隊長を見た。彼女の表情は険しい。


「…むしろ貴様の得意分野ではないか?」


 彼女はきっちりスルーパスをしてきた。


「では意見を言います。

 これは明らかに城壁の延長です。具体的にはこの大都を囲う城壁が第一の壁で、これらの屋敷は第二の壁となり敵を阻害します。

 またこれらは単純な壁ではなく、敵サイドにふたつの選択を強要します。第一には単純な壁として機能し、抵抗陣地として敵を阻みます。

 第二に、敵の進行ルートを左右のどちらかに誘導し抵抗線を確立します」


「なるほど、阻むか誘導するかを選択させる訳だな」


「そうです。攻め手はきっちり要害を突破するか左右のどちらかに侵攻ルートを決めねばなりません。

 史実ではマジノ線がこれに近いですね。まああっちは機動迂回で役には立ちませんでしたが」


「マジノ線とは?」


 おっと連隊長はマジノ線も知らないのか。


「第二次世界大戦でフランスが築いた要塞です。ドイツ軍はいちいち要塞攻略なんぞせずに要塞を迂回して無力化したのです」


「ありがとう一尉。なるほど理解した」


「あの太った領主様は我々を盾に考えているようですね」


「仕方ない」フッと連隊長…工藤涼子は笑った。「我々は店子なんだ。多少の不便は許容せねばな」


「確かに。テント暮らしでない分マシですからね」


 連隊長に合わせ、俺も小さく笑った。

 実際問題、体育館での雑魚寝やテント暮らしと違い、ここには屋根があり、ある程度のプライバシーは守られるのだ。これがマシでないのなら無神経を疑う話だ。

 とは言えたかが数名の家族の住む屋敷を百人もの隊員が住むのには無理がある。そこで只今絶賛改築中だ。部屋という部屋を引っぺがし曹・士用の六人部屋。幹部用の四人部屋を作り直している。女性隊員用はもう少しマシだがやはり屋根があってベッドが有るのは有り難い話だ。

 


「しかし領主殿はかなり無茶しましたね」


「ん? ああ」


「准貴族三家と我々三百名を取り替えるのはかなり反発もあったでしょう」


「あの男は只のお人好しではない。貴族らしいと言えばそれまでだが」


「……連隊長は領主殿を信用していないので?」


「さてどうだろう。一尉、貴様の見立ては?」


「……信用はしても良いのですが信頼には足りません」


 これが問題だ。あの領主殿は信頼し切れない。どこかで俺達を利用してくる。


「一尉、何か存念が有るのか?」


「あります」俺は断言した。「領主殿は俺達を何らかの目的で囲いました。しかし武装解除には頑固に推進させました。これはまあ一応の理由付けがありましたが」


「…………」


「だが三百名からの自衛隊員を一年間養う理由がありません。自分は単なる同化政策とは思えないのです」


「そう。そこが解せない。だが貴様は尋ねたんだろ?」


「ええ、はい。将来の保険だと」


「という事は将来的に我々を使う理由がある訳だな」


「……私兵でしょうかね?」


「……かもな」


「今領主殿は戦地に出征していますが、我々がこの世界に慣れたら魔導銃の訓練を施すそうです」


「その魔導銃だが構造は聞いたか?」


「いいえ。まだ時期ではないと」


「気にいらないな」


「まぁ時間がなかったせいでもありますからね」


 それからしばらく俺達は無言で城壁の様な屋敷を見上げていた。




「一尉」


 不意に連隊長が口を開いた。


「は」


「貴様は私とあの男のどちらに付く?」


「…それは隊を割ると言ってもいいのでは?」


「仮定の話だよ」


「……仮定の話ならば自分は連隊長に付きますよ」


「……私はあの男を信用も信頼もし切れないでいる」


「ところで話をずらしますが、連隊長は『戦国☆自衛隊』と『ファイナルなカウントダウン』を観た事はありますか?」


「なんの話だ?」


「前者は自衛隊が戦国時代に行きラストは裏切られて全滅。後者は合衆国海軍が第二次世界大戦に参加、無事に帰還します。

 また、近年では『門・自衛隊かの地にて斯く戦えり』や『ルーン騎兵隊ズ』なんかもあります。この二作では犠牲を払いながらも帰還しています」


「後のやつはラノベだったか?」


「そうです。ま、それは置いておきます」


「帰還の出目があるとでも」


「領主殿いわく『来たやつはいたが帰ったやつは居ない』でしたがね。ですが可能性はあります」


「で?」


「我々は腹を括らずに帰還の可能性を信じて粘る事も出来ます。少なくとも『戦国☆自衛隊』みたいに利用されて全滅は避けたいのです」


「私としても御免だな。だがどこまで粘るつもりだ?」


「それは連隊長次第です」


「そこで私に振るのか……」


「貴女が我々の神輿ですから」


「では言わせて貰うが、帰還は諦めた方が良い」


「何故ですか?」


「しいて上げる理由はないな。まあ…感だな」


「……わかりました。幹部にはそう伝えます」


「幹部らは皆ふあんなのか?」


「全員ではありませんが。大多数は不安に身を震わせています」


「だから聞いてきたのだな」


「はい」


「明日、皆を集めろ。私の所信を表明する」


「わかりました伝えます」


「ではな。私は工事の進捗具合を見に行く」


「はい」


 連隊長は普段と変わりない歩調で屋敷に向かった。

 俺はもう一度屋敷を見上げる。


 連隊長と領主殿か。


 どっちもどっちだ。兎に角俺は横死にしたくない。それだけは御免だ。


 俺はひとつため息を付いて事務仕事の為、野戦天幕に向かった。

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