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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第2章 ロイド辺境伯、異界戦役に挑む
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第五十話 ロイド、スティラらを呼び寄せる

 翌朝、俺はツキハ大尉相当官の跳躍によって自軍に戻った。

 

 さっそく少将を始めとする幕僚らを招聘する。


「昨日、軍務尚書閣下と会談し今後の方針を決めた」


 一旦口を閉ざし、一座を見渡す。


「軍一般命令。現状を維持せよ。

 今、帝都から学者らを呼び寄せており、敵の生態を解明させる最中だ。こちらも同様に敵の生態を知る必要がある。その為、自分が有する学者を招聘し、事に当たらせる。これは最優先課題だ」


「よろしいでしょうか?」


 戦務課の少佐が手を上げた。


「よろしい、発言したまえ」


「ありがとうございます。閣下、敵は好戦的でかつ動きは素早いです。それを捕らえるのはかなり難しいかと」


「最もだ。そこで自分は配下のアーベル・ルージュらを使う。森林戦闘に長けた連中だ。敵を捕らえるのは難しくは無い」


 アーベル・ルージュらが……などとざわついた。

 俺は再び口を開いた。


「敵の生態を知る事は遠回りであっても必要な戦略行動である。まずはそこからだと軍務尚書閣下と意見を共にした」


「ファーレ大将殿、よろしいか?」


「何であろうか少将」


「毎度毎度“敵”と称するのも面倒なので、なにか呼称を付けてはいかがかと?」


「……そうだな。……ダーサ、と言うのは?」


「ダーサですか、どこの出典ですかな?」


「異世界の魔物の事だ。相応しく無いかな」


「いえ、小官は支持します」


「ツキハ大尉相当官、貴官は大都行きの馬車に乗り俺の館に行ってくれ。そこに逗留しているドラクル・ザーツウェルに俺からの一筆を見せるように。彼女の準備がすぐに整うのであれば、彼女を連れて跳躍して戻ってくるたまえ。

 逆に時間がかかるようであれば貴官は単独で帰投するように。良いかな?」


「はい」


「よろしい、では解散だ」


 天幕を出るとツキハが声をかけてきた。


「よろしいでしょうか?」


 立ち止まり振り返る。


「何か?」


「アーベル・ルージュとは何ですか?」


 え、知らないの?


「森に住む蛮族の事だ。やつらは森林や山岳での戦闘に長けている」


「ありがとうございます閣下」


「ああそうだった、君は軍に入営して間もなかったのだな」


「申し訳ありませんでした」


「いや分からねば聞く事は大事だ。それよりも俺の配下のアーベル・ルージュはいま繁殖期なんだがな、その…オスが居ないせいで同性で乳繰りあってる。そのせいもあり、なかなか動かないだろうよ。その時は『おいポンコツ。命令を聞かないとポンコツの名を取り上げるぞ』と言ってやれ。

 それと先に言っておくが『ポンコツ』とは『優秀な』と言う意味だ」


「はじめて聞きました。覚えておきます」


 うわ、どーしよ。ウソネタを信じまったよ……。まあ日本人に聞かれなきゃ大丈夫か。


「…決めました。私、ポンコツになります」


「え、あ、いや」


「ポンコツ、イイですね」


「ん、ああ…まあ……」


 俺とツキハの温度差に気分がモヤモヤする。言った方が良いのやら……。ん〜しかし、なんかやる気のツキハ君に『ゴメンね』って言うのも……。


 それはともかく、ステやんに手紙を書いた。おそらくだが彼女でないとこの問題は解決出来ない。彼女の分析能力と推論は信頼できる。それは確かだ。あとポンコツエルフも役には立つ。それも確かだ。


 さて、手紙を携えたツキハを送り出したとなれば今夜はひとりだ。なら寝床にユージーンでも呼ぼうかね。うひひ。

 今は昼食の準備とかしてる時間か。なら彼女らのトコでも行ってみるか……。

 

 


「やあユージーン」


 女中らの天幕の外で昼食の準備をしているユージーンに声をかけた。


「坊っちゃま、いかがなされましたか?」


「今夜、俺の寝床に呼ぼうと思ってね」


「はい。承りました」俺は堂々と宣言オーダーし、彼女も堂々と受けた。このあたりはコソコソする必要は無い。


「じゃあまた晩に頼むよ」


「はい、坊っちゃま」


 長居は無用なんで身を翻したら足先に何かが当たった。


「?」


「ミャア……」


 下をみると子猫が一匹、俺の足にすがりついていた。


 俺は足を振り払いのけようとした。だが離れない。


 子猫と目があった。

 すると子猫は爪を立ててグイグイと登ってきた。痛い痛い。

 子猫は俺の腹のオーバーハングも難なくこなし胸までやってきた。だから痛いって。


「ナ〜」なんだコイツ、家猫か? なつきすぎ。


 白地に灰色のラインの入った子猫は「ミャア」とひと鳴きした。懐くなよ。


「あら珍しい。坊ちゃま、その猫はラヴィタアートです」


「なんだそれは?」


 ラヴィ…なんだって?


「幼体固定された猫です」


「幼体固定? これで成体か?」


 ユージーンは近寄り、その猫を覗きこんだ。


「いえ、まだ幼い猫ですね」


「どうして分かる」


「瞳が丸いからです。成体は細長いから見分けがつきますから」


 ふーん。


「ミャアミャア」


「この猫を取ってくれ」


「でも懐いてますよ」


「懐かれても困る」俺が触れば壊れそうで恐い。


 ユージーンはクスクス笑った。見れば他の女中らも笑っている。


「この猫は君らが世話をしているのか」


「はい坊っちゃま、違います」


「おい猫、離れろよ」


 出来るだけ力を入れずに猫を引き離そうとした。


「ニィ〜」


 猫は爪を立てて抵抗する。痛いって。


「ニャアニャア」「ニィニィ」「ミャア」と騒がしい。ん、騒がしい?


 なんと俺の足元に様々な猫が十数匹集まっていた。

 猫たちは見上げたり、寄り掛かってスリスリしたりしている。いつから猫パークになったんだよ。


「何だこれは?」


「坊っちゃまは猫に好かれているのですね」


「いてて、引っ掻くな」


「餌でもやってみましょう」


「そうしてくれ。あ、猫にヒト並の塩分は駄目だぞ」


「はい、承知しました」


 やれやれだよ。……痛いって、登ってくんな。



 どうにか餌で猫共が離れた。この隙に逃げよう。猫は嫌いじゃないが、こうも絡まれるのは止めて欲しい。



 ……翌日、ツキハ大尉相当官は単独で帰ってきた。まぁ無理も無いか。

 

「ドラクルは怒っただろうな」


 ツキハは身を縮こまらせた。


「申し訳ありませんでした。そのやはり急には……」


「ああ、別に君を責めるつもりはない」


「ありがとうございます……」


「それでアーベル・ルージュの連中は?」


 ツキハは顔を真っ赤にさせる。


「……その、閣下の…予想通りで……」


「……異世界には写真を超す、モノの動きを記憶する機械がある」


「?」


「それがあれば連中の痴態を収める事が出来るのだがな」


「……閣下、それは……」


「いや失礼。言い訳のようだが男ってやつは助平なんだよ。いやはや度し難いね」


「…………」




 それから一週間後とおかご、ようやくスティラらがやってきた。


「よく来てくれたドラクル」


「で、その敵とやらは?」


「さて、遠眼鏡で見える所まで行ってみるか、アーベル・ルージュ共に捕らえさせてからにするか」


「捕らえるのをいちいち待っては時間の無駄だ。遠眼鏡で観察する」


「わかった。とりあえず兵団本部まで来い。ポンコツ、お前も付いてこい」  


「承知した」


 とにかく俺が出来るのはお膳立てまでだ……。 

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