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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第2章 ロイド辺境伯、異界戦役に挑む
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第四十五話 ロイド、凶報を知り、レティカと再会する

 夜中に目が覚めた。

 昨日倒れた疲れも取れたので中断している書類の決裁の続きでもやろう。

 そう考え身を起こそうとする。横にはイライジャが寝ているから静かにだ。

 薄闇の寝室は静かだ(俺は暗闇が苦手でいつも寝る時は小さな灯りを付けている)

 そっと身を起こすとイライジャが目をあけた。


「どうしたの兄さん?」


「いや、その水を飲もうかと」


 イライジャは貧民街時代からのクセでショートスリーパーだった。あの街では長い熟睡は生命にかかわるからだ。


「…ウソ。兄さんウソついてる」


「お見透しか」


「わかるよ。兄さん、今はゆっくり寝て」


「目が冴えた。なら寝ているより書類に向かった方がマシだ」


「だめだよ。私わかるよ。兄さん、まだ元気じゃない」


「……しかしだな」


「駄目。兄さん、今は寝て」


「頑固者」


「頑固で良いもん」


「……わかったよ。水を一杯飲んだら寝る」


 イライジャはひょいと身を起こして水の入った瓶を取った。コップに水を入れる。


「はい」とコップを差し出した。


「ありがとうよ」


 差し出したコップから水を一気に飲む。


「美味しかった。じゃあ寝るよ」


「うん」


 コップを返し身を横たえる。……しかし何でこうも義弟ぎまいの言う事を聞いてしまうのだろう。


 イライジャも毛布に潜り込む。俺に寄り添う感じに丸まる。


 再び寝るのは苦労するかと思ったが、案外はやく睡魔がやって来た。





「おはようございます坊っちゃま」


「…おはよう」


 ユージーンが朝の挨拶をする。


「お身体の調子はいかがですか?」


「ああ、ぐっすり眠れたおかげで調子は良いよ」


「それはようございました」


「ユージーン、朝食のあと館の全員を大食堂に集めてくれないか、話がある」


「……はい、承知しました」





 朝食を終えて大食堂に向かう。

 大食堂の壇上に立った。大体の顔を確認した。


「ジルベスター、全員揃ったか」


「はい。全員」


「よろしい」皆を見渡す。「朝の忙しい時に時間をとらせて済まない。

 さて、昨日俺は不治の病に罹った事を知らされた。

 病気自体は微熱が続く位で大した事は無いが、稀に死に至ると聞いた。感染経路は謎だ。だから俺から伝染るとは限らない。ここまでは良いな?」


 一旦区切り、また使用人らを見渡す。意外なほど冷静な者が多かった。


「そこで不安がある者は退職を勧める。退職金も出すし紹介状も出す。今ここで決めても良いし、ジルベスターやフレイに相談してからでも良い。以上だ」


 三度使用人らを見渡した。何人かは不安そうに辺りを見渡している。


「うむ、いま俺が居ると決めるのに躊躇するようだ。…今日の夜までに申し出る様に。では解散」


 言い捨てて壇上を下りた。

 大食堂を後にする。





「……二名が退職か」


「はい」


「わかった。勤続年数から退職金を算出しておいてくれ。紹介状は書いておく」


「はい。承知しました」


「……ジルベスター」


「は」


「…………いや、なんでもない。下がって良し」


「はい」


 もっと出るかと思ったんだがな。まぁここより給金が高い職場はないからな。


 ひとつため息をついて書類に目を通しなおす。

 すると執務室に客間女中が入ってきた。


「ロイド様、急使がお見えです」


「わかった、応接間に通せ。すぐ行く」


「はい」


 急使だと?






「……北都が落ちただと?」


「左様でございます」


「何処からの情報だ?」


「北都から脱出した者からの情報です。『怪物に襲われた』と」


 北都なら治安部隊も多い。それが手に負えないだと?


「……生き残りでもっとも位階の高い者は誰だ?」


 レティカはどうなった?


「大公妃殿下です」


 良し! レティカは無事か。


「大公閣下はどうなった?」


「……行方不明です」


「そうか。……妃殿下は今は?」


「一時ソーケル伯爵閣下の元に居りましたが、現在ファーレ領に向っております」


「何故だ? ソーケル伯はなんと?」


「はい。ソーケル伯爵閣下は事態を重く見られ、外敵の排除をファーレ辺境伯閣下に要請すると」


 なるほど道理だな。北部辺境で武装集団を持つのは俺とオールオーヴァー辺境伯の二人だからな。


「ひとつ聞きたいのだが、北部にはオールオーヴァー辺境伯も居る。何故俺を指す。位置的にはあっちがやや近い」


「は、それがオールオーヴァー辺境伯閣下は要請を断ったようです」


「理由は……知らんか」


「はい、申し訳ありません」


「いや急使の君が謝る必要はない」


「ありがとうございます」


「オールオーヴァー辺境伯に連絡を取りたいので失礼するよ」


 俺は通信室へ向かった。まずは帝都だ。


 通信機を立ち上げ。軍務尚書へ繋ぐ。





「それでは北都の陥落は事実ですか」


「そうだ。先行偵察隊から連絡が絶ち、威力偵察隊を派遣した。結果、北都にはたどり着けなかった。

 大公へ直線通信を送ったが返事は返ってこず。

 この二点で北都壊滅は間違いないと判断した。同時にソーケル伯爵から北都を脱出した大公妃が事のあらましを語ったそうだ」


「妃殿下は何故オールオーヴァー辺境伯に外敵討伐を要請しなかったのですか?」


「オールオーヴァー辺境伯は現在蛮族の活動が活性化した為安易に軍は動かせないらしい」


「……わかりました。オールオーヴァー辺境伯にはこちらからも連絡を取ります」


「…………ファーレ辺境伯よ、これは帝国の一大事だ。大まかな作戦としては二正面からの突破と考えておる。貴君もそのつもりでいたまえ」


「承知しました」


「ではな。作戦案がまとまれば連絡する」


「はっ」


「以上だ」


 通信が切れた。

 続いてオールオーヴァー辺境伯に連絡取った。


 伯いわく『蛮族討伐に忙しい』らしい。

 難問を押し付けやがって。


 控えている執事に向く。


「誰かを駐屯地に走らせてくれ、師団長と幕僚、それと上級指揮官を招集だ。これは領主だけでなくファーレ大将の命令だとな」





「……北都が陥落ですか」呻くようにファーレ領派遣兵団の兵団長であるメイズ少将が声を絞り出した。


「そうだ。この一大事に軍務尚書閣下がこちらの兵団を派遣するよう下命された。通信越しだが正式な命令だ」


「命令となれば何処へと赴きますが蛮族らへの備えはいかがします?」


「アーベルルージュらは今は繁殖期だ。気楽には動けまい。一応ニ個中隊を残すくらいで構うまい」


「妥当な判断です」


「さて、敵となるのは未知の生物だ。これを害獣の類いとするか蛮族の類いとするかで対処は違ってくる。

 少将、この場合はどう対応する?」


 少将は考え込みだした。

 少しして俺に視線を向ける。


「先発してニ個大隊を派遣します。兎にも角にも情報不足です」


「大隊は直ぐにでも出せるのか?」


「大隊は持ち回りで維持しております。師団自体は一週間…いえ七日で出動可能です。

 ですが北都へとなれば兵站に問題が」


「糧秣についてはオールオーヴァー辺境伯とソーケル伯爵らから摘出させるさ。こっちに面倒を振ってきたんだ、その程度は協力させる」


「ありがとうございます」


「兵站幕僚。君はさしあたって領内の商会や問屋を回って当面の糧秣を確保するように。すぐに一筆書く」


「はっ!」


「ところでファーレ大将殿、帝都からは軍は動くのですか?」


「軍務尚書閣下からは規模までは明言されなかったが、動くよ。地勢的にあっちの方が近いので最低でも師団は動くとみた」


「その場合、指揮権はどちら側になるのでしょうか?」


「向こうが軍団級ならばあちらにあるな。師団級ならば俺に優先権がある。そうなれば現場でな少将、君が専任となるな」


「指揮権の優先権は確立してください」


「了承した。……他に聞いておきたい言葉あるか?」


「いいえ」


「なら出動の準備に取り掛かってくれ。それと兵団の出動にあわせ俺もでる」


「それは!」


「ああ俺は観戦と兵団の代表として行くだけだ。少将の指揮の邪魔はしないさ」


「ファーレ大将にはこちらで待機なされて貰いたいのですが」


「……俺はな、現地でナニが起きているか知りたいのだ。為政者としてもな。それこそが“大将”と“辺境伯”の役割だ。反対は許さん」


「わかりました。しかし可能な限り安全地帯に居て下さい。これは現場の最上階級の士官として正式に要請します」


「……了承した。話は以上だ」


 師団の連中は退出していった。

 そうだ。俺は大将として現場にいなければならない。それこそが辺境伯なのだ。





 夕刻、執務室に女中のひとりがはいってきた。


「何用かね?」


「申し上げます。今しがた大公妃殿下が到着なさいました」


「わかった。応接間に通してくれ」


「かしこまりました」


 レティカとは…、いや大公妃殿下とは久し振りだな。

 俺は身だしなみを整えて応接間へ向かった。





「やあロイド、久し振り」


「ご無事でなによりです大公妃殿下」


 久し振りにみた大公妃殿下はやや煤けていたが元気そうだった。


「…形式は大事だけど今はレティカと読んでほしい」


「……では『プリンシペッサ』と呼ぼう」


「なんだい、ぷりんし何とかは?」


「イタリアと言う異世界の国の言葉で大公妃殿下をプリンシペッサと言うんだよ。

 世界広しと言えど君をそう呼べるのは俺だけだ」


「……特別、なんだね?」


「大公妃殿下では堅苦しいし、レティカと呼べば不敬だからね」


「特別なら構わない……ぷりんし…ぺっさ。なんとも面映ゆいね」


「公的な場は大公妃殿下。私的で愛称はプリンシペッサ。私的で親密ならレティカ。どうかな?」


「…わかったよロイド」


「君が我が館に逗留出来るのは光栄の極み。是非寛いで欲しい」


「君の好意、有り難く受け止めるよ」


「さしあたって何か必要かね?」


 レティカは困った顔をした。


「……うーん、実は大公のお子を身篭っているんだ」


「ならおむつと産婆さんの手配か」


「まだ早いよ。見てよまだお腹はそんなに膨れていないだろ?」


「それもそうか。……なら胎教に相応しいのを用意しなければな。……そうだな音楽が良いな。週の半分は音楽家を呼ぶ事にしよう。

 まあ君が無事に来てくれて安心した」


 一旦言葉を区切った。


「ようこそ我が館に。

 大公妃殿下プリンシペッサ、君との再開に感謝を」

寒くなって来ましたね。皆さんは防寒大丈夫ですか?

パソコン周りは足が寒いので暖房器具を買おうかと。

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