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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第2章 ロイド辺境伯、異界戦役に挑む
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第四十四話 ロイド、過労で倒れる。そして……

 今日も忙しく書類の決済に追われている。まぁ暇よりマシだが、たまには休みたいとも思う。今日も微熱がついて回っているし。

 週休1日制を2日制に改めたいが、農家は年中無休だし、軽工業も変則的な休みなんで気楽に週休2日制は取り入れない。

 今取り組んでいるのはサービス残業の類の罰則規定の構想だ。各業種、サビ残がまかり通っている。

 農業は仕方ない。自然と向き合い、食物をつくるのは時間に縛られない。だが他の業種は休もうと思えば休めるし、規定の時間で家に帰れるやつばかりだ。

 後は深夜営業の風俗関連だ。違法風俗と思われる店舗が届けを出した店舗数の2割に達している。警察は定期的に摘発しているがイタチごっこの繰り返しだ。何か強烈な罰則規定を設けなければならない。まぁ〜縛り首はやり過ぎではあるな。


「旦那様、昼食の時間です……」


 おや、もう昼か。しかし時間が惜しい。


「いや、昼は抜きで構わない」


 執事のグレッグが寄ってきた。


「……ロイド様、いま構想を練られている就業時間の件ですが、ロイド様はなんと申しられましたか?」


「…………きちんと守られた時間で就業し、きちんと守られた休息を、だ」


「なら、ロイド様がそれを守らねば示しがつきません」


「何事にも例外はある」


「ですが今は切羽詰まった案件をこなしている訳ではありません」


「…………わかった。皆、休息の時間だ。各自書類を整理したら昼食にしたまえ」


 俺はグレッグを見上げた。


「これで文句はあるまいな?」


「はい」グレッグはニッコリ笑った。


 忠臣の言を取り入れ。書類を整理して席を立った。



 食堂に入る。卓にはイライジャが待っていた。


「待たせて悪かったね」


「…兄さんはお仕事だもの」


「すまない。さて今日の昼の献立は何かな?」


 食卓付きの給仕に尋ねる。


「本日はミンチ肉をこねた焼き物が主菜です」


 ああ、ハンバーグか。


 …………なら。


「君、パンは丸くて平たいやつを用意してくれ。それと酢漬けもだ」


「あ、はい。すぐに用意します」


 ハンバーグに丸くて平たいパン。そして酢漬けときたら? 決まってるだろ。


 食卓に膳がならべられた。


 俺はパンを手に取り、サラダを敷く。その上にハンバーグを(ハーフにして)載せ、ソースをかけた。

 ケチャップが欲しいところだがトマトが存在しないのであきらめる。トマト欲しいなぁ。

 そしてピクルスを載せてパンを挟んだら完成だ。


 イライジャと給仕らがぎょっとした表情を見せた。


 なんちゃってハンバーガーにかぶりつく。

 うむ、やはり改良の余地アリだ。


「これはハンバーガーと言って異国の食物だ。下品だが今みたくかぶりつくのが正式な作法だ」


 ……たしか本場のハンバーガーはナイフで切り取ったりしてたが、まあ良いや。


「イライジャ、今日は許すから今やって見せた通りに食べてごらん」


「あ、はい」


 義弟は見様見真似でなんちゃってハンバーガーを作った。それを上品と下品のないまぜにした器用なかじり方をして頬張る。


「…兄さん、美味しいです」


 給仕らに顔を向けた。


「ひとつ宿題だ。今のハンバーガーでは未完成なので、精錬されたやつを作る様に」


「は、はい承知しました。しかし、いささか問題のある食べ方ではありませんか?」


「確かに下品な食べ方だ。しかし時にはこういうモノを食べたいのさ。あと炭酸が効いた飲み物が欲しい」


 イライジャを見るとふたつ目に挑戦してる最中だった。


「イライジャ、酢漬けをケチるのは無しだ。有ると無しとでは大違いだぞ」


 やはりお子様なのかピクルスを抜いていた。まぁ仕方ないか。


 俺も2個目に取り掛かる。


 さっさと食べ終え。茶をすする。ああコーラが懐かしいなぁ……。帝都でもハンバーガーは売りに出されたが、やはりケチャップのなさが人気を失くしたのだ。


 食後にのんびりしていると家令と婦長と料理長が揃ってやってきて『貴族の作法』とやらをみっちり教育された。

料理長は安息日の昼食になら、と条件付きで認めてくれたのが戦果である。


 さて、お説教も終わったし(イライジャは速攻逃げた。冷たいヤツだ)午後の執務の時間だ。



 午後の政務は政庁から来た役人らと懇談がメインだ。

 今、造成している区域のひとつに郊外型住居の建設計画がある。その細かい仕様とコンビニ風物販販売店の規模、大都内とを結ぶ鉄道馬車の新設などを詰めている。

 無論、細かい仕様は政庁のスタッフの仕事だが俺の構想とすり合わせを行っている。俺としては鉄道馬車は格安路線を提唱しているのだが、かかる経費からそれなりの料金を政庁側が申し立ててきた。

 しかし、大都の狭い集合住宅アパルトメントから郊外に一軒家という一大キャンペーンに鉄道馬車は必需で、それには『まぁいいか』という値段設定が必要だ。

 俺はこの点を重要視しており、当面の赤字は許容せねばならない事を懇々と説いた。

 しかし話は平行線をたどった。

 仕方ないので政庁にて公聴会を開いて是非を問う事で話は終わった。政庁の役人と議員らに説明するのはぶっちゃけ面倒だが俺も後には引けない。挑むしかなかった。


 それが終われば自衛官らに聞き取りだ。

 何が得意で軍人として残るのか、はたまた民間人となるのかをだ。


 意外な事に魔法を使える者が居た事だ。工藤涼子連隊長も魔法を使う事が出来るのには驚いた。しかも生粋の自衛官ではなく宮内庁からの出向だとさ。なんでも須佐之男を信奉する一族の人間で風を操る事が出来るそうな。

 彼女は軍人として俺が預かる師団の入隊を希望していた。

 村部一尉は防衛大を出たキャリアを持っていて、素人の工藤を補佐する役目を担っていた。もちろん彼も軍人として師団に入る事を希望した。

 

 322名の内、男性隊員は231人、女性隊員は91人。

 この中で軍人として生きるのを選んだのは198名だった。残りは一市民として生きるのだと語った。

 ちなみに師団では女性軍人は居ない。工藤は本人たっての願いとしてねじ込む事にした。まあ反発は出るだろうがゴリ押しするさ。後、工藤の熱烈信奉者の女性が5名いて、彼女らも軍人になるそうだ。


 民間人となった場合、可能な限り就職を斡旋すると約束した。

 その言葉に二言は無いのだが商店を開くから金を出せと言われたのは苦笑した。何の商店か訪ねたらファンシーグッズの物販らしい。果たして儲けが出るのか甚だ疑問だ。

 あと、コンビニみたいな多機能型商業店舗を目論むヤツがいた。着眼点はアリだが夜間はどうするつもりだろうか? 夜間の出歩きは難しいのにな。

 それと内政チートだ。とか言ってフランチャイズシステムをドヤ顔で語ってきたヤツが居たがフランチャイズの商店はすでにあります。

 また日本の味を広めるんだと言ってた元板前は、この大陸に米は無いことを伝えてあげた。なおそれを聞いて大半の自衛官らは絶望した模様。実際、転移して来た日本人が米食の無いことを理由に自殺した事もある。さっぱり理解出来ない。まあ俺の場合は赤ちゃんからの再スタートだから日本食にさして未練は無かったのだが。



 自衛官らの聞き取りを終えると俺に客が来た事を知らされた。名前を聞いたが聞き覚えがない。だが俺の直筆の署名が記載されているらしい。はてな?


 来客はカザーナ商会から来たと言った。ん〜聞き覚えがある様なない様な……。

 記憶をひっくり返していたら不意に思い出した。


 ……ドラクルの相手だ。そうか、『薬』を運んで来たのか!


 客は1階の応接間の一室に通されていた。俺は身だしなみを整え、入室する。


「遠路はるばる苦労であった」


「カザーナ商会の手代のマキス・スレーべと申します閣下」20代後半の痩せぎすの男が席を立った。


 名前がアメリカ人風ではない。帝国の現地人だ。


「もう商品を運ぶ時期だったか」


「……その様に言っていました」


「君は商品の内約を知らされていないのかね?」


「申し訳ありません。私は知る権利を持っていないのです」


「まあいい。では鞄を預かろう」


「代金は三十 エーラです」大金だな。ま、仕方ないか……。


「承知した、用意させる。あと大都の宿にて二日ばかり休んでから帰ると良い。宿と宿泊費はこっちで持つ」


「ありがとうございます」


「ジルベスター、この男に料金を支払いたまえ。それと宿の紹介を」


 壁際に立っていた家令に命じる。


 席を立った俺は運び人に振り向く。


「次は何時だ?」


「申し訳ありません。私は聞かされていないのです」


「そうか、いや苦労であった」


 ちょっと疲れてきた。


 そーいや洗濯女中ランドリーメイドに渡した軟膏の具合はどうだろう。何か問題でもあるかな?


 館の裏手に回る。洗濯場は館に隣接している小屋で行っている。


「やあ仕事中失礼するよ」


「旦那様!?」


「ああ、いや、前に配った手荒れの軟膏の具合はどうかね?」


 目があった女中に尋ねる。すると彼女は笑みを浮かべた。


「はい。すっごく効きます」


 同意の頷きがあちこちでおこった。


「それは良かった。ところで何か足りない物はないかね?」


 女中らは困った顔を見合わせた。


「…何かあるんだね」


「……はい。その腰痛に悩ませる者が……」


 腰痛かそいつは問題だな。さて。


「何か代案はあるかい? 寡聞ながらそうした事に疎いのだ。あれば教えて欲しい」


 洗濯女中のファーストが前に出てきた。


「ロイド様、私は鉄線の入った腰巻きを使っております。これは中々に具合が良く愛用しております」


「わかった。腰を痛めている者らも含めて全員に支給するよう婦長にかけあおう」


「ありがとうございます」


「良いさ。マーサ、君らは良く働いている」


 女中頭のマーサは一礼した。


「ところで旦那様、お顔の汗が凄いのですが?」


「ん、いや、この小屋の熱気だろう。気にはする必要がないよ」


 確かに小屋の熱気はあるが、確かに汗が凄いな。

 汗を意識した途端、めまいが襲った。思わず壁に手をつく。


「旦那様!?」


「い、いやなんでもない。気にせず作業に戻りたまえ」


 どうにか姿勢を正す。…と思ったら急に視線がさがった。


 女中らの悲鳴が上がる。何をそんなに騒ぐ?


 倒れた俺は身体を起こそうと……失敗した。


 駄目だ力が入らない。女中らが騒いでいるが、それはどこか遠い世界のようであった。


 ……不意に意識がブラックアウトした。



 ……目が覚めた。どうやら自分の寝室らしい。


「気がついたか」ドラクルの声だ。


「……俺は気絶したのか」


「……済まない、お前様」


「何を謝る」


「私の誤診だ」


「誤診?」


「お前様の微熱は過労からくるモノだと判断していた。だが違うのに気づいた」


「過労ではない、ではなんだ?」


「お前様はアルバート卿熱病だ」


 アルバート卿熱病。どこかで聞いたな。いつ聞いた?


「何か知ってそうだな?」


「どこかで聞いた。……そうだ帝都でだ」


 思い出した。レティカから聞いたんだ。


「思い出したよ。マイルズ候息女レジーアが罹っている病気だ」


「……彼女との接触経験は?」


「いや、挨拶くらいだ。一応彼女の妹のレティカとは友人だが」


「そのレティカ嬢は罹患しているのか?」


「知っている限りレティカは健康だ」


「アルバート卿熱病の事はどれだけ知っている?」


「……確か微熱が続く。くらいか」


「まあその認識で構わない……」


「なんだその歯切れが悪い言い方は」


「極く稀だが死者が出るのは知っているか?」


「……俺がそうだと?」


「まだ決まった訳ではない」


「なら、いい方に考えろ」


 はじめてドラクルは笑みを浮かべた。


「前向きだな、お前様は」


「悪い方ばかりを考えても仕方ないからな」


「アルバート卿熱病とは」不意に話を変えてきた。


「接触感染、飛沫感染、粘膜感染のいずれでもない。経路が不明なのだ」


「どうすれば良い?」


「ひとつの仮定だが。宿主から他人への感染は無作為ではないかと思う」


「レジーアからレティカ、俺への感染は偶然だと?」


「仮定だがな」


「最悪、俺が死ぬのも仮定のひとつか……」


 なんとややこしい。予防も予想も出来ないとはな。


「わかった、では他の罹患者が出ない事を祈ろう」


「……済まない」


「なんの、謝罪は不要さ」


 ……是非もなし、か。


「今の現状で館の使用人に兆候は出てるか?」


「先月の検診までは該当者がいない。これは確かだ」


「それは重畳」


「他人事みたいに言うな」


「俺の命も他人の命も同等だ。……ユージーンは居るか?」


「はい。お側におりますよ、坊っちゃま」


「何か冷たいモノを飲ませてくれないか」


「はい」


 ユージーンから出された冷えた水が心地よい。


「…とにかく、しばらく休め」


「イヤだね」


「なに?」


「俺は領主で為政者だ。休むのは夜だけで良い」


「おい、起き上がるな!」


「書類が溜まってくる。仕事をせねばならない」


「お前様は間違っている」


「何をだ?」


「確かに万全ではなかろう。だが今は養生しろ。これは医者としての命令だ」


「…………」


「……頼む。今は休んでくれ」


「わかった。…では少し寝させてもらう」


「ああ、おやすみ」


「おやすみ、スティラ、ユージーン」


 俺は再び横になり目を閉じた。

ロイドの仕事の仕組み


ロイドが私案(試案)を作る

    ↓

政庁の役人が精査をする

    ↓

議会に提出。審議

    ↓

審議が通った事をロイドに伝える

    ↓

ロイドが決裁のサインをする。という流れです


議員は審議したり陳情を上げるだけ

重要度の低いのはロイドが関与しない場合がある

政庁の役人は精査の他は根回しや財源の確保が仕事


まぁこんな感じ

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