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辺境伯ロイド奇譚 〜誰が彼を英雄と名付けたのか〜  作者: 塚本十蔵
第2章 ロイド辺境伯、異界戦役に挑む
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第四十三話 ロイド、自衛官等のために動く

 自衛官らの武装解除には手を焼いた。

 愛用の銃にこだわるヤツが多かったのだ。


「なあ、弾数を決められていて、しかも補給のあてがない。ならば持つ意味はあるねかね?」


 俺が説いても中々うんと言わなかった。

 そこで渋々折衷案を出す。


「君らの装備はナイフを除いてすべて買い取りを行おう。その金から拳銃を買い直す。これ以上は話を聞かない」

 

 装備の買い取り価格はざっくりと100エーラ。それを隊員らひ分配すると大体3eとなる。支度金としては破格でもある。


 これで一応は納得してくれた。ただし、弾は売らない。安全保障上これは守らないといけないからな。

 拳銃の値段は100ウィシスと決めた。


 車両は本来なら帝都に運ばねばならないのだが、地道に走って行けばガス欠になる。また他の輸送手段はないので解体して地中に埋めるのを決定させた。



「これで君たちは准市民だ。支度金として渡さた金は服や生活必需品を買う元種だ。大事に使うように。

 あ、それと大事な話だが君らはタトゥーの類は入れてないだろうね。タトゥー…入れ墨は罪人の印だ。普通の娼館には入れないぞ。娼館に行きたければレベルを落として、そっちも大丈夫な店に行くしかない」


 ちょっとしたざわめきが立った。何人かは腕などにタトゥーを入れているのだろう。


「この地のタブーはまた追ってしらせる。ま、先に言語を覚えるのが先だがね」なんか言い忘れてはいないか? あっ!


「うっかり忘れてた。夜間は原則移動禁止な。いや別に君たちを禁足しようという訳ではない。

 夜間は…その、何と言うか…灯りが無いと1メートルすら危険なんだ。原因は未だに不明だが夜は闇が支配する。手持ちのランタンで3メートル。強力なサーチライトですら10メートルを照らすが精一杯なのだ。それに夜は夕闇をすっ飛ばしてやって来る。暗くなる30分程で帰宅せねばならないと思え」


 それだけ告げて館に戻る。


 しかし頭が痛い。まず先生のアテが無い。街から有志を募って教師をでっち上げるしかないか……。根気のある人物を日給制にしてだな。

 ああ、また金がかかる……。

 そうだ。それと彼らの住居だ。こっちの施設はあくまで非常用で1年間も連中の為に使用は出来ない。かといって街に置くのは不安がある。

 ……仕方ない、丘の中腹かふもとに宿舎を建てるか。

 幸い大工はまだ余裕がある。……しかし、322名分の宿舎となるとかなりの規模だ。まぁ屋敷の為の防御施設に出来るからラッキーと言えばラッキーだな。


 あれやこれやと考えているとドラクルに出会った。


「えらく辛気臭い顔をしているじゃないか」


「……そりゃあね、三百人からの異邦人を預かり、教育を施さねばならないんだ。予算やら何やらで頭が痛い」


「私をアテにはしないでくれよ。医者としてもイェラの教師としても忙しいからな」


「わかってるさ。教師は街から有志募る」


「それならウォーレン通りに住むティアゴ爺さんに頼むが良いさ。あの爺さんは以前は私塾の講師で顔が広い」


「良く知ってるな」


「あの爺さんは腰が悪くてな。何度か診察した事があるんだよ。それで知った」


「ありがとうよ。ひとをやって繋ぎをとらせてもらう」


 了承もらえばひとつの関門が突破だ。しかし3〜40人ひと組にしても最低8クラス。かなり厳しいな。あ、ノートや鉛筆、机、椅子、当面の衣服も必要か……。

 とりあえず書き出しておく、執事を呼び書き出した案件を処理させた。


 やれやれと居間のソファーに腰を沈めると女中のひとりがやって来た。


「旦那様、先日の転移人の方がお見えです。…その、私どもでは彼の言葉がわからないので……」


 そりゃあ昨日今日で言葉を自分のモノには出来ないわな。……しかし俺は通訳かよ。


 玄関ホールに行くと男性の自衛官がいた。俺を見て敬礼する。……確か村部一尉だ。


「何の用かね?」


「は、工藤連隊長が『する事が無いので訓練したい』と言い出しまして、その許可をいただきに参りました」


 うんざりした。こいつらは一々俺にお伺いせねゃならんのか。


「……あのな、確かに許可を求めるのは良い事だ。だがね俺は君らの監督じゃない」


「…申し訳ありません!」


「いや、君ン所の連隊長は正しいよ。だがね、訓練ごときに許可を求める必要はない。

 それで? 走るだけか?」


「あ、はい。何はともあれ走るが商売でして……」


「そうか……」


 ヒマそーな連隊にキツい訓練を与えてみよう。


「一尉、ちょっとついて来たまえ」


 側いにた女中に『ちょっと出てくる』と言い残し館を出た。

 裏手に回る。


「この森は領主の丘の後ろ全体に広がっていてな。…この先だ」


 森の小道のひとつに入る。小道にも掃除の手は入っていて枯れ葉の一枚も落ちていない。


 10分程歩いた。開けたそこは別宅のひとつがポツンと建っている。


「ここは館と直線の距離にある。

 で、だ。別館から走って丘を下り、丘の下限を半周してこの森を駆け上がって来る。どうかね良い訓練になるだろう? 見てみな、中々に厄介な斜面だろ」


 村部一尉は茂みに入っていって斜面の様子を見た。


「……閣下、この森の斜面はかなり厄介かと」


「この森はな、侵入者が乗り込んできても簡単には登れない用になっている。天然の急勾配に土壁がランダムに設置してある。ま、レンジャーならどうにか上がって来れるさ」


「我々はレンジャーではありませんよ」


「君の胸にはレンジャー徽章があるじゃないか」


「おや、ご存知で? 連隊にはレンジャー徽章を持つものは尉、曹合わせて15名です」


「それだけ居ればレンジャーでない一般隊員を牽引出来るさ。賭けてもいい君の連隊長は嬉々として挑戦するよ」


 一尉は苦笑した。


「ええ、まぁ、そうでしょうね」


「これは何も酔狂で思いついた訳ではない。特殊部隊が背後から侵入すると仮定して、走破可能かどうかを確かめて欲しいのだ」


「…………」


「やってくれるね」ニッコリと笑みを浮かべて一尉の肩を叩いた。


「……嬉しくて涙が出そうです」


「つまらん走り込みより実戦的さ。あ、それとこの森の中には無人の別宅や小屋とかが何ヶ所もある。中には住んでいるご夫人がいるので極力森の中で移動する事」


「は、留意します!」


「この別宅は無人だ。後で鍵を開けておくので休息に使って良し」


「は、有り難くあります」


「よろしい。では行きたまえ」


「は、失礼しました。ご協力感謝します!」


 一尉は走り去った。俺も歩き出す。こんなトコで時間を過ごす訳には行かないのだ。


 執務室に入る。控えている執事にグレッグを呼ぶよう命じた。



「グレッグです。参りました」


「俺の個人預金から転移人らの生活に必要な額の金を用立てしておいてくれ」


「ロイド様、何もご自分の預金から出さなくとも……」


「これは事業の類ではない。従って運用金より持ち出しは出来ない。また館の金も同様だ。残るは俺の個人預金から出すしかない。違うかね?」


 グレッグは押し黙った。


「連中のための宿舎の建造に語学を学ぶための教師の給金、机に椅子、帳面、鉛筆。当面の衣類、生活用具。さしあたって百eエーラを用立てておいてくれ」


 ひとつため息をついた。


「稀人を迎えるのは家長の誇りとする。まぁ桁が違うがね。だが規模は違えと俺は迎える家の家長としてもてなす必要がある。どうかね、異論はあるか?」


「いえ、はい、承知しました」


「うん、では下がってよし。俺はちょっと休憩してくる。なんか朝から微熱が下がらんのだ」


「ザーツウェル先生から何か処方された方が」


「あいつな、俺の微熱にはカンポーを処方するんだよ。カンポーは苦いし苦手だ」


 グレッグは小さく笑った。


「ロイド様、子供じゃないのです。カンポーくらい我慢なされば」


「イヤだね。ま、ちょっと寝るから、あとよろしく」


「はい、承りました」



 自室に向かう最中にフリッツとクライブに出会った。


「よお」


「旦那様、何時になれば僕らにお慈悲をいただけるのですか?」


「……当分呼ぶ機会はないな」


 きっぱりと拒否したいが彼らも矜持がある。その為俺としても歯切れが悪くなる。


「待て、と命じられるのは承知していますが、それは何時まで待てば良いのでしょうか?」


「フリッツ。君らの心情は読み取れないが……」


「いえ、今はまだ『待ちます』それよりも旦那様、お顔の色が悪いように見えますが?」


「ん、いや単なる過労か風邪さ。だから今からちょっと寝る」


 フリッツとクライブの顔がパッと華やいだ。……不謹慎なんでねーの?


「なら! 僕らがお世話します!」


「おいおい……」


「クライブ、ザビーネらを呼んできて、後イェラも」


「旦那様、僕、たまご酒をつくって来ます」


「たまご酒!?」


「旦那様はご存じない様ですね。実家の秘伝の風邪薬です。飲めば身体が暖まり、悪い熱が出ていきますよ」


 いや、たまご酒くらい知ってるけどさ、酒…日本酒はないんだぞ?


「僕は枕を冷やします!」


「ああ、フリッツは冷却系の魔法を使えるんだったね」


 フリッツは器用な事に冷却系と燃焼系の魔法を使える。ちょっと変わった組み合わせだ。……同時に使ったらどうなるんだろう?


「いやちょっと、大げさすぎるよ。それよりもゆっくり寝かせてくれ」


 俺は抗議したがフリッツはグイグイ攻めてくる。

 こういう『押し』に弱い俺は情けなく寝室にまで押されて行った。


 フリッツは先の言葉通りに枕を冷やしてくれた。うん。これは気持ち良い。

 丁度良い加減の冷し具合に少し楽になった。


「これは中々……ありがとうフリッツ」


「これくらいは何て事ないですよ。それより汗が…。お拭きしますね」


 ああもう好きにしろよ……。


 俺は自然に目を閉じた。



 この後、クレイブ特製のたまご酒(ブランデーで作っていた)を飲んだり。ザビーネとイライジャが俺の汗を拭く競争したりと騒がしくなる。

 

 ……しかし、最近微熱が続くな……。

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